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イカ〜その1

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By: t-mizo

日本人は、イカが好きである。

煮物、焼き物、酢の物、揚げ物と、様々に調理できる上に、
薫製にしても、干物にしても、
酒のツマミとして重宝されている。
塩辛にすることもあれば、沖漬けにすることもある。
もちろん、火を通さず、生のままで刺身、イカそうめん、
寿司ダネとして調理することもある。
「いしる」として、魚醤に加工されることもあるし、
「イカとっくり」として、器に加工されることもある。
(さすがに半永久的に使えるものではなく、
 何回か「とっくり」として使用した後は、
 これを焙って、酒の肴にする)
胴体の中にコメを詰め込み、これを甘辛く炊いた「イカめし」は
駅弁大会において、もっとも良く売れる駅弁だという。
イタリア、スペインなどでは、
「マリネ」などに加工されて食べられるし、
そのスミでさえ、「イカスミ」料理として利用される。

しかし、そんなイカでも、世界的に見れば
これを食べる国というのは、決して多くない。
日本をはじめ、中国、韓国と東南アジアの国々、
さらに地中海沿岸のスペイン、イタリアくらいである。
それらの国々の中でも、イカを生で食べる国というのは、
日本の他には存在していない。
イカと同じ、頭足類であるタコの場合は、
イカよりもずっと多くの国で食べられていることを考えると、
イカは世界的に見れば、かなり珍しい食べ物と
考えても良いようである。

イカは、海生軟体生物の一種で、世界中、
浅い海から深い海まで、あらゆる海に分布している。
その分布を考えてみると、もっと世界中で食べられていても
おかしくないのだが、どういうわけかイカを食べているのは、
世界の一部の国だけである。
欧米諸国では、タコやイカを「不吉な生き物」として、
これを食べない文化というものがあるが、
この現状を見るに、結構多くの国で、
これと同じような考え方をしているのではないだろうか?
その反面、日本人のイカ好きは格別である。

1980年代では、世界のイカの漁獲量127万tのうち、
68万tを日本人が消費していた。
世界で捕れるイカの半分を、日本人が食べていたわけである。
(その後、世界でのイカの漁獲量は増え続け、
 近年ではその漁獲量は300万tに達している。
 ただ、日本のイカ消費量はそれほど伸びず、
 輸入を含めて、年間70万tほど消費しているだけだ。
 つまり、今でも世界のイカの4分の1程は、
 日本人が食べている計算になる)
日本人がもっとも良く食べている生鮮魚介類も、
イカであった。
(もっとも、近年ではサケやマグロに
 首位の座を明け渡している。
 とはいえ、現在でも日本人が
 大量にイカを食べていることには変わりがない)
データに寄れば、1年間で1世帯が食べる生鮮イカの量は、
3kgを越えている。
これだけでも大概な量なのだが、
実は1980年代では6kgを越えていた。
つまり、この30年ほどで、
生鮮イカを食べる量は半減しているわけである。
……。
ここで、不思議に思う人も出てくるだろう。
先ほど、1980年代の68万tと、それほど変わらない
70万tという量のイカを消費していると
書いていたではないか、と。
そう、あくまでも半減しているのは「生鮮」イカだけで、
加工品を含めると、イカの消費量は1980年代と変わらず、
1世帯あたりで、年間6kgを越えており、
サケやマグロを抑えて、1番の消費量となるのである。

イカは大きく、ツツイカ目とコウイカ目の2つに分れており、
約450種ものイカがいる。
しかし、このうちで食用にされるのは約30種程度で、
日本ではスルメイカ、ヤリイカ、コウイカなどが漁獲される。
さらに海外からはアカイカ、マツイカなどが輸入されているが、
こちらは主に加工品として、消費されている。

日本で消費されるイカとして、
もっともシェアを占めているのはスルメイカであり、
日本で食べられているイカの約半分がこれである。
日本近海に多く生息しており、
日本の固有種ともいえるようなスルメイカであるが、
鮮魚として出荷されるイカの中では、
もっとも安価なイカでもある。

内蔵と目玉を取り除き、天日で干したイカを「スルメ」というが、
これは別にスルメイカだけで作られているわけではなく、
同じように加工されたケンサキイカやヤリイカについても
「スルメ」と呼称されている。
ケンサキイカ、ヤリイカを用いたものを「1番スルメ」、
スルメイカを用いたものを「2番スルメ」と呼ぶことからも、
スルメイカで作られたものの方が、価値が低いとされている。
スルメイカの名前がついているのに、
どうしてそんなことに……?と、思ってしまうが、
実は、かつてはイカそのものを「スルメ」と呼んでおり、
生のものと、干したものを区別するために、
「スルメイカ」という呼称が作られたらしい。
そういう経緯を考えてみると、
元々、日本のイカというのは、スルメイカだけであり、
それ以外のイカは無かったか、
有っても問題にされないくらいに、
微々たる量だったと考えられる。
いかにスルメイカが、日本人にとって馴染み深いものであるか、
伺い知ることが出来るだろう。

日本人は、古来、イカを食べ続けてきた。
確認できる文献中、もっとも古いものでは、
平安時代に編纂された「延喜式」(927年)の中で、
諸国からの貢献物の中に、あわび、鮭と並んで、
イカについて記述されている。
冷蔵庫も無い時代のことなので、
当然、イカは「スルメ」に加工されていたはずであるが、
「スルメ」という言葉が現れるのは、
室町時代に入ってからのことで、
それまでは「墨群(すみむれ)」と呼ばれており、
これが転じて「するめ」となったという説がある。
(ただ、平安時代に記された「和名類聚抄」には、
 「須流米(するめ)」という言葉が記されており、
 これについては「小さなタコ」を表しているらしい)

古典的な儀礼や儀式の場では、
昆布などと同じように「縁起物」として扱われていた。
「寿留女」と宛て字し、めでたいものとしたらしいが、
かなり無理矢理な感じがする。
江戸時代の中期になると、「スルメ」の「スル」が、
「お金をする(使い果たす)」の意味で捉えられるようになり、
縁起が悪いものとされるようになった。
そのために生まれた新しい名前が、
「アタリメ(当たりめ)」である。

今回は、食品としてのイカと、その歴史について書いてみた。
次回は、一個の生物としての「イカ」について書いていく。

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