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網干メロン

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前回、「ゴーヤ」について書いた際に、
うちの婆さんが作っていた「網干メロン」に触れた。

これは、うちの婆さんが作っていた作物の1つで、
見た目はマクワウリ(真桑瓜)に良く似ている。
前回の記事の中では、婆さんが作っていた瓜を
「マクワウリ」と書いたが、改めて調べてみると、
「マクワウリ」と「網干メロン」は、微妙に違う種である。
婆さんは頑固に、これを「メロン」と言い切っていたが、
「網干メロン」は、「マクワウリ」と西洋のメロンを
交配して作り出されたものなのである。
そういう意味では、純粋な意味での別種というよりも、
「マクワウリ」の雑種、と言った方が正しいようである。
もっとも、これを作っていた婆さんが、
その違いをどれだけ知っていたかは、わからない。
ただただ頑固に、「メロン」と言い切っていただけである。

我々が「メロン」と聞いて、一番最初にイメージするのは、
まん丸く、表皮に網目状の模様の入った「マスクメロン」である。
一般的には高級フルーツとして知られ、
いいものになると、値段もバカのように高い。
硬い表皮のすぐ内側に、柔らかい果肉の層があり、
さらにその内側には、ジュクジュクとした柔らかい層があり、
そこにメロンのタネが含まれている。
大体の場合、これをくし形に切り、
中央のジュクジュクとしたタネの部分を取り除き、
柔らかい果肉の部分をスプーンなどですくって食べる。
果肉は中央部に近いほど柔らかく、甘味も強い。
逆に表皮に近い部分になると、果肉も硬くなり
甘味も弱くなってしまう。
メロンを食べ慣れているような「富裕層」と違い、
滅多にこれを食べられない「庶民」は、
ついつい意地汚く、表皮近くの甘味の少ない所まで
スプーンでこそげとり食べようとする。
あまりお行儀のいいことではないと、わかってはいるのだが、
ついついスプーンでガリガリとやってしまう。
恥ずかしい限りである。

こういう「高級品」と違い、
「網干メロン」は極めてお手軽なフルーツだ。
大人の握りこぶし位の大きさをした、楕円形の果実は、
マスクメロンのように表皮に模様のない、薄緑色をしている。
マスクメロンが、やれ蝶よ花よともてはやされ、
箱入り娘のごとく過保護に育てられるのと違って、
「網干メロン」の栽培はわりと粗雑で適当である。
まるでスイカやカボチャのように地面の上を這わせ、
実るがままに、実をつけさせる。
「網干メロン」は樹勢も強く、豊産性であるので
結構な数の果実を収穫することができる。

もともと、種としてのメロンの原産地は、
北アフリカから中近東にかけての一帯である。
紀元前2000年ごろには栽培が始まっていたというから、
実に4000年もの歴史があるわけである。
この種のうち、西へ広がっていったものは
「メロン」と呼ばれ、
東へ広がっていったものは「瓜」と呼ばれた。
「網干メロン」は、「マクワウリ」と西洋の「メロン」の
交配種であることから、
西と東へ別れ、それぞれの進化を遂げたものが、
再び1つになったものと捉えることもできる。
「瓜」が日本に入ってきたのは古く、
縄文時代早期の遺跡から「瓜」のタネが出土している。
2世紀ごろ、美濃国の真桑村が良品の生産地であったことから
「マクワウリ(真桑瓜)」の名前が付けられた。

この「マクワウリ」と西洋種の「メロン」の交雑で
生まれたといわれるのが、「網干メロン」である。
記録によれば、大正年間にはすでに栽培が始まっており、
昭和2〜3年ごろに「網干メロン」の名が付けられた。
昭和10年ごろには、当地にあった県立蔬菜採種地で
採種・選抜改良が行われた。
昭和13年発行の「兵庫之園芸」の中では、
網干メロンについて、マクワウリとしては出色のものであり、
外観と日持ちに改良が加われば、日本一のマクワウリだと
記されている。
少なくとも、ここに書かれている文章から判断すれば、
「網干メロン」は、やはりマクワウリの一種であると、
認識されていたようだ。
ちょうど7月から8月にかけてが収穫期に当たることから、
姫路地方のお盆には、欠かせない果物だった。
メロンとの交配種であるためか、
メロンに似た芳香があり、甘味も強い。
姫路市内や近隣市町村のスーパーの青果売り場、
さらには地元の直売所などで販売されている。
マスクメロンなどと違って追熟させる必要がないので、
食べごろのものを収穫し、冷やすなりして食べることになる。
ただ、甘い香りがあるためか、コバエがよってきやすい。
(コバエは別名フルーツフライともいい、
 果物に良くたかる)
スイーツなどの材料として、加工されることもあるが、
基本的には冷蔵庫で冷やし、生食をするのが一番である。

我が家では、ごく稀に手に入る「マスクメロン」と、
婆さんが量産していた、この「網干メロン」が、
2大メロンとして幅を利かせていた。
もちろん、「マスクメロン」の方は貰い物が100%であり、
わざわざ買ったりすることはなく、
我が家で食べられていたメロンは、
99%がこの「網干メロン」であった。
さすがに1玉、数千円〜数万円もするような
「高級メロン」には遠く及ぶことはなかったが、
そこそこは似たような味がして、
なにより、いくら食べても、無くなることがなかった。
夏の美味しいオヤツとして、
食後の冷たいデザートとして、
夏にかかせない、味覚の1つであった。

当時は、ほぼ、婆さんが作るものを食べるだけであったが、
最近では各地に直売所などが作られ、
こういった地元独特の果物も、手に入りやすくなった。

マスクメロンと違い、見た目は結構しょぼいのだが、
しょぼい見た目に反して、味の良い、
お手軽なメロンである。

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