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鮒寿司

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先日、ネットの情報サイトを見ていたら、
こんな記事が目に飛び込んできた。

「鮒ずし味ポテチ発売へ 「衝撃的挑戦」
 独特の風味いかに」

ポテトチップスで有名な製菓メーカー・カルビーが、
滋賀県ゆかりの発酵食「鮒(ふな)ずし」味のポテトチップスを
近畿6府県内で、11月13日から限定販売するという。

カルビーでは、地元に根付いた、いろとりどりの特別な美味しさを、
ポテトチップスとしてお届けする「JPNプロジェクト」を行なっており、
地元で愛されている「地元の味」を選択し、
その味をポテトチップスで再現しているという。
すでに第1弾のライナップは販売開始されているようで、
全国各地で17種類の「地元の味」が、
ポテトチップスとして販売されているらしい。
ざっと販売されている商品のラインナップを見ると、
青森県の「青森にんにく味」や、岩手県の「盛岡じゃじゃ麺味」、
山形県の「山形芋煮味」など、各地の名物が
ポテトチップスのフレーバーとして再現されている。
我が兵庫県の味は?と思って見てみたが、
まだ兵庫県のポテトチップスは、販売されてはいないらしい。

兵庫県近隣の味としては、大阪府の「たこ焼き味」、
京都府の「ちりめん山椒味」、
岡山県の「津山ホルモンうどん味」などがある。
ポテトチップスのフレーバーとしては、珍しさはあるものの
それほどのインパクトがあるわけでもない。
「たこ焼き味」のスナック菓子は、普通に販売されているし、
「ちりめん山椒味」や「津山ホルモンうどん味」にしても、
期間限定のフレーバーとして考えれば、
スナック菓子として、すでにどこかのメーカーが出していそうである。
まあ、良くいえば、上手くまとまった、
悪くいえば、いまいちインパクトに欠ける「味」といえるだろう。
全国のラインナップを見ていても、
まあ、どこも無難にまとめてきたな、という味ばかりであった。

そういう空気が漂っている中での、今回の「鮒ずし味」だ。
どういうモノが出来上がるのか?という不安感はあるものの、
話題性・インパクトという点では、これまでの
全国各地のフレーバーを突き放している。
話題を集め、イベントを大きく動かすという意味では、
むしろこれこそが、カルビーの本来の狙いなのかも知れない。

「鮒寿司」は、を用いて作られた「なれ鮨」で、
滋賀県の郷土料理の1つである。
「なれ鮨」という言葉は、
日常では、なかなか耳にすることもないだろうが、
主に、魚を塩と米飯で乳酸発酵させた食品である。
魚で作られたものが多いのだが、それ以外にも
獣肉や野菜などを用いて作ったものもある。
乳酸発酵により酸味が生じることから、「酸い」が変じて「酸し」、
ひいては現在の「寿司」へと変わっていった。
まあ、早い話が、現在日本中で作られている「寿司」の
いわば大元のような存在であると考えればいい。
全国各地には、様々な材料を使った、
様々な「なれ鮨」が存在しているが、
その中でも、もっとも有名なものが、この滋賀県の「鮒寿司」である。
しっかりと長期間発酵させる「なれ鮨」から、
後に数日間だけ発酵させる「生成(なまなれ)」が生まれ、
後に、発酵させず、酢を使って米に酸味をつけた「寿司」が生まれた。
そういう意味では、原初の「なれ鮨」と
現在の「寿司」の間に共通点として残っているのは、
「酸味」という味わいだけ、ということになる。
(まあ、原材料的にいえば、「米」という共通点もあるが……)
もともとは、春に捕れた鮒で作るものと、
秋に捕れた鮒で作るものがあったのだが、
夏の高温を経ないものは、やはりどうしても発酵の進みが遅いため、
次第に作られなくなっていった。
現在、「鮒寿司」として作られているものは、
春に捕れた鮒を加工したものばかりである。

「なれ鮨」そのものの歴史は、古くは弥生時代ごろ、
稲作の普及と共に、作られ始めたとする説がある。
ただ、現実的にいえば、これはあくまで
「鮒寿司」を作る材料が揃っていたというだけの話で、
実際にこれが作られ始めたのは、もうちょっと後の時代だと思われる。
恐らくは、大陸からやって来た渡来人あたりによって、
詳しい製法が伝えられたのではないだろうか?

文献上のことを言うのであれば、
奈良時代のものとして知られる長屋王家木簡や二条大路木簡に
「鮒鮨」や「鮨鮒」の名前が見られる。
この時代には、貴族たちが「鮒寿司」を食べていたのである。
本来は主食として食べられる米を、
大胆にも発酵材料として用いる「鮒寿司」は、
それなりに、高級な食品だったのかも知れない。
ただ、当時の貴族の間では、イワシを焼いたものですら
臭いがキツく、下賎な食べ物とされていたという事実があるので、
そんな中、現在ですらその強烈な臭いで知られる「鮒寿司」が、
はたしてちゃんと受け入れられていたのかには、疑問も残る。
しかし、平安時代の「延喜式」の記載によれば、
近江の国からの貢納品の品目の中に「鮨鮒」があるところからも、
やはり、価値ある食べ物であることは間違いなかったようだ。

現在でも、滋賀県の名物として食べられている「鮒寿司」だが、
その製法は、昔ながらのやり方を踏襲しているようだ。
春に捕獲したフナ(ニゴロブナ)の、ウロコとエラ、
卵巣以外の内蔵を取り除き、その中に塩を詰める。
その際には、包丁などでフナの腹を切ったりせず、
金属製の棒をフナの口から押し込み、
内蔵を引っ掛けてかき出すようにする。
そのため、フナはウロコが無い以外は元の形を保ったままである。
この加工を施したフナを桶の中に敷き詰め、
さらにこれに塩を敷き詰め、これを繰り返す。
早い話、フナの塩漬けを作っていると考えればいい。
この上に重石をのせて、夏ごろまで
塩漬け(これを塩切りと呼ぶ)にした後、これを取り出し、
洗って塩抜きをした後に、今度は米飯をフナの中に詰める。
そして、再び桶の中に敷き詰め、さらにこれに米飯を敷き詰め、
これを繰り返す。
桶に詰め終わったら、再び重石をかけて、冷暗所に保管する。
この際、乳酸発酵を起こさせるためには空気を遮断する必要があるため、
かつては重石をした後、桶に水を張ったりしていたのだが、
現在では、桶の中にビニール袋を敷いてから、その中に漬け込み、
中の空気を抜いて袋を閉じ、重石をのせるようになった。
夏に漬け込むと、秋の終わりごろには食べることが出来るようになるが、
さらに2〜3年ほど、漬け続けることもある。
また、この飯漬けの後、酒粕や味噌に漬け直すこともあり、
そういった行程を経ているものは、臭いが和らぎ、
食べやすくなっているとされる。
食べ方としては、丸のままフナをブツ切りにして、そのまま食べる。
骨なども残ったままだが、すでに乳酸発酵によって柔らかくなっており、
そのまま身と一緒に食べることが出来る。

と、いろいろ書いてきた「鮒寿司」だが、
味の評価については、面白いくらいに両極端に分かれている。
すごくウマい、という人もいれば、
ひどくマズい、という人もいる。
結構高価であり、気軽に口に出来る食品でもないため、
自分もまだ、これを食べたことが無い。
そういう意味では、今回のカルビーの挑戦は、
手軽な価格で、「鮒寿司」の風味を味わうことの出来る
絶好の機会であるともいえる。

果たしてその味は、いかなるものなのか?
(まあ、あくまでもポテトチップスであり、
 本物とは違うんだろうけどね……)

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