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ワカメ

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8月に入り、連日続いていた猛暑も、
お盆を迎えて、ようやく一段落してくれたようだ。

我がたつの市では、連日30度越えの真夏日となり、
その中には気温35度を上回る猛暑日も多かった。
ちょっと前までは、気温が30度を越えれば
その暑さでグッタリとしていたものだが、
最近では、夜になり、
ようやく涼しくなったなと、温度計を見れば
まだ30度だったなんてことがあった。
夏の暑さがひどくなっているのは、毎年感じていることだが、
人間の方もそれに合わせるようにして、
適応していくものらしい。

だが、そんな人間の適応力にも限界はある。
その証明の1つが、熱中症による死亡者の増大である。
年別の熱中症死亡者数には大きな波があるものの、
20年前からのグラフを比較してみると、
明らかにここ10年ほどくらいは、
大きな右肩上がりを見せている。
自分自身、熱中症にこそならないものの、
猛烈な暑さによる肉体的な影響は出てきている。
顕著なものが、食欲の減退である。
若いころは、夏の暑さにも負けず、
食欲が沸いていたものだが、
だんだん夏場の暑さの中では、
食欲が沸かないようになってしまった。
日々の食事量は、通常の3分の1から4分の1ほどに落ち込み、
日ごとにズボンが緩くなってきている。
特にキツいのが、ご飯などの固形物の摂取量が減っていることで、
摂取するカロリーが激減してしまった。
コーヒーや紅茶などに多めに砂糖を入れ、
これらを冷ましたものを飲んで、
カロリーの摂取に務めているのだが、
正直、気休めにしかなっていない。
問題なのは、コーヒーや紅茶で摂取することの出来ない
塩分である。
汗によって、大量に塩分が出て行くこの季節、
塩分補給が出来なければ、それこそ熱中症などのリスクが上がる。
さすがにコーヒーや紅茶の中に、
砂糖と塩を入れて飲むというのには無理がある。
そうなってくると、何か他の方法で塩分を摂取する必要がある。

これをある程度、解決してくれているのが「ワカメ」だ。
乾燥ワカメを一握りほど水で戻し、
これを小鉢にとって、よく冷えたストレートタイプの
「そうめんつゆ」をかけ回して食べる。
水で戻したワカメは、それだけではボリューム感も
満腹感も無いのだが、逆にそれだからこそ
この暑い最中でも身体が受け付けてくれる。
もちろん、ワカメそのものにもある程度の塩分があるのだろうが、
塩分自体は「そうめんつゆ」の方が多いだろう。
だが、ワカメには食物繊維やビタミン、
ミネラルが豊富に含まれている。
カロリー的にはほとんど期待出来ないワカメだが、
無理無くこれらを摂取出来るそれは、
食欲の沸かない自分にとっては、命綱といえるかも知れない。

ワカメはコンブ目チガイソ科ワカメ属に属する、海藻だ。
北海道の一部から、九州にかけての日本全国の海岸、
及び朝鮮半島南部の海岸に生育している。
根状の部分で海底の岩などに固着しており、
そこから葉を水中へと伸ばし、
大きいものでは全長2mにもなる。
葉の中心部に、根から軸が通っており、
そこから左右に羽根状に葉を伸ばしている。
葉の基部にあたる部分は、
厚くなった葉が縮まり波を打っている。
この部分はメカブと呼ばれ、
ワカメの生殖細胞が集まっている部分であり、
この部分を細かく刻んだものが、
スーパーなどで「メカブ」として販売されている。

海藻には数千種類もの品種があるが、
実は世界的に見ても、これを食用としている地域は少ない。
日常的に海藻を食べているのは、
日本の他には、韓国くらいのもので、
最近では日本などの影響で、
中国などでも食べられ始めているらしいが、
日本などに比べると、まだまだ一般的とは言い難い。
日本では、青森県亀ヶ丘の泥炭遺跡から
縄文式土器と一緒に、ワカメなどの海藻が発見されている。
日本では、有史以前からワカメを常食していたらしい。
縄文人たちが、どのようにしてワカメを食べていたのかは
明らかになっていないが、
塩を作る技術の無かった時代には、
塩分補給を目的として、ワカメを食べていたと考えられる。
ワカメなどの海藻類は、天日で干せば
あっという間にカラカラに乾かすことができる。
乾燥したワカメは、容量が小さくなり、重量も減って、
さらに保存性が増すため、遠方へ持ち運ぶには好都合であった。
そのため、古代人たちは「税」として
ワカメなどの海藻類を朝廷へと納めた。
日本最古の法律である「大宝律令」には、
租税として8種の海藻の名前が挙げられている。
日本最古の和歌集である「万葉集」でも、
海藻を「玉藻」と表現しており、
実に100首以上、「玉藻」を読み込んだ和歌が載っている。
租税として集められた海藻類は、他の食品と同じように
朝廷に仕える人々や、寺社に支給された。

平安時代になっても、海藻類は重要な租税の1つであった。
当時の貴族たちは、コメを常食にしていたが、
当時はまだまだ野菜類の品種が乏しく、
野草などを摘んで、これを調理して
食べているような状態であった。
そんな中、長期の保存がきく乾燥ワカメなどは、
野菜や野草の少ない時期をカバーし得る、貴重な副食であった。
この時代の海藻類は、現在とほぼ変わらない形、
つまり佃煮、みそ汁、おひたしなどで
食べられていたとされているが、
醤油が作られたのははるかに後の時代のことなので、
佃煮はまだ無かった筈である。
さらに味噌を、みそ汁という形で飲むようになったのは、
室町時代か、江戸時代のこととされているので、
みそ汁もまだ無かった筈である。
佃煮というよりは海藻の煮付け、
みそ汁というよりは潮汁に近いものだったのだろう。

「ワカメ」は漢字で書くと「若布」「和布」
「稚海藻」「若芽」などと書く。
古くは海藻類を「も」、食用になる海草類を「め」と呼び、
「ワカメ」というのは「ワカ」+「メ」で、
「若い」「め」というのが語源らしい。
つまりワカメが、食用の海草の代表であった。
先に書いたように、「万葉集」では海藻類を「玉藻」と
書き表しているが、この「玉」というのは美称のひとつであり、
藻の中でもっとも良いもの、つまり食用になるものとして
「玉藻」と書き表したものであろう。
「若芽」と書いたのでは、陸生の植物の新芽と
混同してしまうため、あえて「藻」という文字を使い
海藻であることを表した上で、
これに「玉」をつけることで、
「ワカメ」のことしたものと思われる。
「万葉集」にはこの他にも、「和可米」「稚海藻」
「和海藻」などの表現も見られる。

ワカメはみそ汁の具を始め、サラダ、酢の物など、
様々な料理に用いられる。
先に書いた通り、暑さにやられて食欲の無い自分は
乾燥ワカメを水で戻し、
これに冷たいそうめんつゆをかけて食べているが、
これは一種の「ワカメサラダ」といえるだろう。
カロリーこそ低いものの、食物繊維、ビタミン、ミネラルを
豊富に含んでおり、中でも食物繊維は
非水溶性食物繊維であるセルロースと
水溶性食物繊維であるアルギン酸を両方持ち合わせている。
ワカメの食物繊維は多く、重量比で4割ほどが食物繊維になる。
この4割の中の8割を占めるのがアルギン酸で、
体内の塩分と結びついて、これを体外に排出する働きがある。
……。
ここで、多くの人が自分に突っ込むかも知れない。
アンタ、塩分補給の意味でワカメを食べているって書いてたが、
食べる端から排出してるやないか、と。
その通りである。
ワカメにそういう働きがある以上、
ワカメを食べての塩分補給というのは、効率的とは言えない。
むしろ普段、塩分を取りすぎて血圧が高いような人こそ、
ワカメを食べるべきだろう。

だが、自分がワカメを食べるのは、暑さにやられた身体でも
抵抗無くこれを摂取出来るためでもある。
暑くて身体の弱っている間は、ちょっと塩分を多めにして、
ワカメを食べ続けることになるだろう。

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