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メバル

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「釣り」というものには、季節性がある。

大自然の中で、野生の魚を相手にしているのだから、
これは当然のことである。
だから釣り人たちは、この季節にはこの魚、
この季節にはこの魚、という風に、
季節によって対象魚を変えるのである。

もちろん、1年中狙える魚もいる。
淡水魚だと、鮒や鯉、ブラックバスなどは
1年中釣ることが出来るし、
海水魚だと、各種根魚などには通年で狙えるものも多い。
しかし、このように通年で狙える魚にしても、
季節によって、エサや仕掛け、ポイント、タナ(水深)など、
きっちりと考慮して釣らなければ、
マトモな釣果をあげることは難しい。

この酷暑の中、釣具店に足を運んでみれば、
店の中は防波堤からのサビキ釣りなどをメインにした、
ファミリーフィッシングを大アピールしているはずだ。
この時期、防波堤からサビキ仕掛けを投げ込めば、
それこそ面白いように小アジやサバなどが釣れる。
特に難しい技術もいらず、小さな子供や、
釣りをしたことの無い女性などでも、
ガンガン釣り上げることが出来る。
夏休みになって、暇を持て余している子供たちを連れて行けば、
楽しい夏の思い出を作ることが出来るだろう。

また、この時期には、アユ釣りのコーナーが拡大され、
高額なアユ竿や、川の中に入るためのウェダーなどが
ずらりと並んでいるのを目にすることが出来る。
7〜8月というのは、まさにアユ釣りの最盛期だ。
小さすぎず、大きすぎないサイズのきれいなアユを
釣ることが出来る。

今回、取り上げる「メバル」という魚も、
それほど季節に関係なく、釣ることの出来る魚である。
播磨地方一円の釣具店などでは、
特に冬場になると「メバル」釣りをアピールする傾向があるが、
これは他の釣りものが少なくなる冬場においても、
「メバル」が釣れるためにやっているだけである。

メバルはカサゴ目メバル科メバル属に属する、硬骨魚類である。
つい最近まで、「メバル」とひとくくりにされていたが、
2008年に「シロメバル」「アカメバル」「クロメバル」と
3つに分けられることになった。
それぞれに、冠している色の名前が違うが、
それが、それぞれの体色の違いを示している。
2008年以前は、これらの体色は
棲む場所に適応しているだけだと考えられていたのだが、
詳しく調べてみて、別種だということが判明した。
体長は20㎝〜30㎝ほどで、
同じカサゴ目のカサゴよりは、幅が薄く、体高も高い。
身体には数本のぼんやりとした縞模様がある。
口と目が大きく、「メバル」という名前も、
目が大きく張り出していることから「目張る」となった。
目が大きいだけに視力がよく、太いハリスを使っていると
喰いが悪くなるといわれている。
日本の北海道南部から九州にかけての沿岸、
および朝鮮半島南部の沿岸に生息している。
根魚ということになっているが、
岩陰などに潜り込んだりすることはほとんどなく、
岩礁の海藻まわりを泳ぎ回っている。
面白いことに、メバルは立ち泳ぎをする。
もちろん、四六時中立ち泳ぎをしているわけではないが、
場所によっては水面を向いて、
ホバリングするように泳いでいることもある。
水槽の中に入れられているメバルも、
このような泳ぎ方をすることがあるので、
水族館などでメバルを見かけたら、じっくりと観察してみよう。

メバルは、別名「春告魚(はるつげうお)」と
呼ばれることからもわかるように、
本来は春先が旬の魚である。
防波堤などから、いくつも釣り針のついた胴付き仕掛けで狙ったり、
ウキ釣りや、極小のワームなどを使ったルアー釣りなどで
狙うことが出来る。
(小型のルアーでメバルを狙う釣り方は、メバリングと呼ばれ、
 最近になって人気の出てきた釣り方である)
特に姫路を中心とした播磨地方では、
ブツエビ(ミナミヌマエビ)を撒き餌にして、
ウキ釣りをするのが一般的である。
このブツエビを入れるための、エビ箱というものもある。

どういうわけか、播州人はこのメバル釣りが大好きで、
その入れ込み方は、他地方の人間から見れば狂信的にも映る。
高い所では100gで1000円近くするブツエビを、
kg単位で購入し、これをバラまきながらメバルを釣るのである。
播磨地方の防波堤、磯では、さぞかし多くの播州人が
メバルを釣るために竿を出しているんだろうな、と
思われる人がいるかも知れないが、
これは大きな間違いである。
現在、播磨地方の防波堤でメバルを狙って竿を出しているのは、
狂信の度の低い、にわか者ばかりで、
本当にメバルに狂っている播州人たちは、
淡路島に渡ったり、四国に渡ったり、日本海に向かったり、
和歌山に向かったりする。
自分の知っている限りでは、メバルを釣るために
隠岐島に渡った播州人や、
高知県まで出向いた播州人もいるのである。
そこまで行けば、他にもいい魚がたくさん釣れるだろうと
思うのだが、播州人はそんな魚には目もくれずメバルを釣る。
石鯛や真鯛などが釣れることよりも、
メバルが入れ食いで釣れることの方を尊ぶ。
それが播州人(あくまでも一部)のメンタリティなのである。

どうして、彼らは地元の瀬戸内海でメバルを釣らないのか?
実は、播磨地方の海(瀬戸内海)では、
あまりメバルは釣れないのである。
もちろん、メバルが生息していないというわけではない。
防波堤や岩場に行って、竿を出していれば、
ガシラなどの根魚と一緒に、何匹かは釣れるはずである。
しかし、入れ食いになるほどの濃い魚影は望めない。
気候や自然条件から考えて、もともと播磨地方には
結構な数のメバルが棲息していたはずである。
魚影にしても、相当に濃かったであろう。
しかし、恐らくこれらは
メバル釣りに目覚めた播州人達によって
散々に釣り荒らされ、その数を大きく減らしてしまった。
現在、狂信的なメバル好きたちは遠征を中心に釣っているが、
狂信的でない釣り人たちは、
防波堤から気軽に狙えるターゲットの1つとして、
メバルを釣っている。
それだけならば、次第に数は回復しそうなものだが、
不幸にしてメバルは美味しい。
釣り上げられたメバルたちは、
結構小型のサイズのものまで持ち帰られ、
美味しく煮付けられてしまうのである。
こんな状況では、資源の回復は望めないだろう。
かくして播磨地方のメバルは、
少ない数の中で懸命に子孫を作り、生き延びているのである。

メバルには不思議な魅力がある。
大きくなってもせいぜい30㎝ほどにしかならない
この根魚は、大きな目と、愛嬌のある顔、
そして何より美味しいそのボディで、
播州人をノックアウトする。
これにやられた播州人たちは、狂ったようにメバルを求め、
ブツエビを山のように買い込んで、遠征に出かけていく。
遠征先では、他の魚には目もくれず、
狂ったようにメバルばかりを釣って、
現地の人に怪訝な顔をされる。

この「メバル偏愛」は、播州人のみが罹る一種の精神病である。

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