前回、悪評高き映画「バリゾーゴン」の元となった事件、
「福島女性教員宅便槽内怪死事件」について書いた。
事件のおおよその流れと、この一件が事故ではなく
他殺なのではないか?という疑問の声が多いことから、
この事件の不審な点を検証し直す、ということで、
この事件の最大の謎である、
「男性はどうやって便槽内に侵入したか?」
という点について、考察してみた。
その結果、便槽内に侵入するのは非常に困難で、
他者によって押し込まれることは全く考えられず、
ここに侵入するためには、男性の強い意志と
ある程度の時間が必要である、という結果に至った。
この事件に対し、警察が下した判断と同じ結果になったわけだ。
しかし前回も書いたように、この
「男性はどうやって便槽内に侵入したか?」
というのは、この事件の最大の謎ではあるものの、
複数ある謎のうちの1つに過ぎない。
ただ、この事件最大の謎から導き出された答えというのは、
かなり大きな意味を持つので、今回はこの結果を踏まえた上で、
残っている謎についても、検証していきたい。
さて、前回、この「福島女性教員宅便槽内怪死事件」において、
・男性はどうやって便槽内に侵入したか?
・男性がいなくなった24日から、死亡したとされる26日まで
2日間の空白があるのは何故か?
・どうして男性の靴の片方が、
現場から離れた土手に落ちていたのか?
・男性の人望・評判からすると、今回の事件は理解し難い。
それなのにどうして警察は
事故ということで早期解決してしまったのか?
の4つを、「謎」として取り上げた。
そしてこの4つの謎のうち、最大の謎である
「男性はどうやって便槽内に侵入したか?」
について検証し、結果、警察と同じ見解に至った。
今回は残りの「謎」について、1つ1つ、検証していこう。
まず「男性がいなくなった24日から、死亡したとされる26日まで
2日間の空白があるのは何故か?」という「謎」である。
前回の結果を踏まえて考えるのであれば、
これはわりと簡単に説明がつく。
恐らく、男性は24日に便槽内に侵入し、
そのまま身動きが取れなくなり、
そのまま26日に至って、凍死してしまったのではないだろうか?
現場近くの農協駐車場に、男性の車が鍵付きで停めてあったため、
男性は自分で車を運転して駐車場に行き、そこから徒歩で
女性教員宅に向かい、便槽内に侵入したものと考えられる。
車に鍵がついたままになっていたのは、
万が一にも、便槽内で鍵を落としたりしないように
鍵を置いていった、ということではないだろうか。
だが、これでは男性は2日間ほど
生きたまま便槽内に閉じ込められていたことになる。
彼が助けを求めたか、求めなかったのかは分からないが、
そこに住んでいた女性教員が彼に、気付かなかったのは何故か?
実は、この女性教員は24日から27日まで実家に帰省しており、
不在であった。
そのため、男性は女性教員が不在の間に便槽内に侵入し、
そして死亡してしまったことになる。
27日に帰ってきた女性教員が、28日まで
便槽内の男性に気付かなかったのは、男性が死亡していたため、
全く人の気配を感じさせなかったためだろう。
ある程度の死臭が漂っていたとしても、トイレの臭いに紛れてしまい、
全く気付くことは出来ないと思われる。
また、気温の低い季節であったため、それほど死体の腐敗も
進まなかったのではないだろうか?
続いては、男性の靴の片方が、
現場から離れた場所に落ちていた、という「謎」である。
前回書いた通り、男性の靴の片方は便槽内の便器下、
男性の死体の顔辺りの上に置いてあり、
もう1つは、現場から離れた土手で発見された。
このことから、男性はどこか別の場所で殺害され、
便槽内に入れられたのではないか?という疑惑を呼んだのだ。
しかし、前回検証した通り、男性自身に便槽内に入ろうという
強い意志が存在しない限り、便槽内に入ることは不可能なため、
この他殺説はあり得ない。
さらに靴といえば、土手で発見された靴も「謎」であるが、
それ以上に便槽内で発見された靴も「謎」だ。
どうして男性の「上」に置かれていたのか?
これから先は、ほとんど想像になる。
恐らく男性は、便槽内に侵入する前、靴と上着を脱いだ。
上着を脱いだのは、少しでも肩幅を減らし侵入しやすくするため、
靴を脱いだのは、脱出後、逃亡する際に
汚物による足跡を残さないためだろう。
上着を中へ持ち込んだのは、外においておくと目立つため、
靴は恐らく、それほど目立たないので外に置いておいたと思われる。
(まあ、前述した理由から靴を汚さないためというのもあるだろうが)
この置いてある靴の片方が、離れた土手で見つかったことについては
比較的説明は容易い。
恐らくは犬がこれをくわえ、持ち去ったのではないだろうか。
そうして靴は、現場から離れた場所まで運ばれることとなった。
問題はもう1つ、便槽内、男性の上に置かれていた靴である。
ひょっとすると、犬が並べてあった靴の片方を持ち去る際、
もう1つの方の靴に触れて、これを便槽内に落としたのではないか?
これを顔(?)の上に置いたのは、男性自身しか無い。
そこにどういう心理が働いたのかは分からない。
便器口の下にある顔をそれで隠そうとしたのか、
あるいは、そのうち降ってくるであろう糞尿を防ぐつもりだったのか?
とりあえず、その姿勢を保ったまま、便槽内で凍死してしまったため、
死体の上に靴が置かれているという、奇妙な姿が出来上がったのだろう。
そして最後の謎。
男性は、スポーツと音楽が好きな好青年で、
村長選挙では応援演説を頼まれるほどの人物だった。
そんな人物が、覗き目的で便槽内に入るわけが無い、というものだ。
ただ、正直、これは「謎」としていいのかどうか分からない。
まさかあの人が、と言うような人物が犯罪を犯す例は
枚挙に暇が無いし、それだけでは何の証拠にもなり得ない。
特にこの事件の場合、男性があまりにも不名誉な死に方をしているため、
家族・友人らにとっては、容易に受け入れ難いという状況であるし、
そうであってほしくない、と言う願望が、
この「謎」の骨子になっている。
ひょっとしたら、あまりにも不名誉な事故であったため、
「謎」という形で事件に疑問を持たせることで、
男性やその家族の面子を保とうとしているということもあり得る。
第3者としては、これを「謎」とすることによって、
残された家族たちを不名誉から守ることが出来る。
ただ、警察の捜査の上では、そのような感情は排除される。
全く冷静・冷徹に、男性が自ら入ろうとしなければ入れないであろう
非常に狭い便槽内で見つかった、という事実を重要視し、
もっとも可能性の高い、「覗き目的で侵入した」という結論で
事件を終了したのだろう。
さて、ここまでこの事件の「謎」について書いてきたが、
やはりもっとも重要なポイントは、汲取式トイレの
侵入するのも困難な便槽内で、死体が見つかったということだろう。
ここを軸にして事件を考える限り、どうしても事件は
警察の出した結論に落ち着かざるを得ない。
他の「謎」を元に、他殺などを疑ってみても、
全て、この便槽内への侵入方法という1点で、壁にぶち当たる。
そういう状況であった限り、警察が早々に事故として
事件を処理したことは、当然のことであったろう。
さて、「汲取式トイレ」、「バリゾーゴン」、
そしてこの「福島女性教員宅便槽内怪死事件」と、
随分とクサいテーマが続いてしまった。
次回からは、一転、キレイなテーマに戻していきたい。