最近、ホットケーキ界隈が、賑やかになっている。
自分が子供のころは、ホットケーキといえば子供のオヤツだった。
喫茶店などにに行けば、置いている所もあったが、
基本的には家で作る、家庭のオヤツであった。
それがいつの間にやら、「パンケーキ」と名前を変え、
(パンケーキというのも、もともとの名前なので、
厳密に言えば、名前は変わったわけではない)
今や、人気の店には長蛇の列もできるという。
今回は、この「ホットケーキ」について書いていく。
子供のころ、うちの母親は割と良くホットケーキを焼いてくれた。
先にオヤツと書いたが、うちでは昼食として出されることが多かった。
子供1人当たり、2枚も食べさせておけば満足しているので、
1回の食事につき5~6枚くらい焼いていた。
ホットケーキをそれだけ焼くのは、面倒そうに思えるかもしれないが、
実はお好み焼きなどに比べると、手間は驚くほど少ない。
タネさえ充分な量を作っておけば、後はフライパンの上で弱火で焼くだけだ。
フライパンを2つ並べて焼けば、あっという間に焼き終わる。
よく考えてみれば、お好み焼きと違って具材を用意する必要がなく、
焼き終わったホットケーキを皿にのせれば、
後は子供がマーガリンなり、ハチミツなりをかけて食べた。
メープルシロップなどという、しゃれたものはなかった。
これで子供は喜ぶのだから、なんとも楽なメニューだったに違いない。
ちなみに海外に行けば、「お好み焼き」も一種の「パンケーキ」として扱われる。
ケーキと呼ぶには、いろいろと抵抗もあるが、
外人の目から見たら、あれもパンケーキに見えるのだろう。
ホットケーキ、パンケーキは、実に単純な食べ物だ。
小麦粉、卵、砂糖、牛乳、それにベーキングパウダー。
これらを混ぜ合わせたタネを、フライパンの上で焼くだけである。
普通のケーキは、ふんわり感を出すために、卵を黄身と白身に分け、
白身を泡立てて使用するが、ホットケーキだとそういうこともしない。
タネの中に入っている、ベーキングパウダーがその代わりをしてくれる。
ベーキングパウダーというと、ちょっと身構えてしまうが、
早い話が膨張剤、ふくらし粉である。
もっとも一般家庭では、いちいちこれらを調合するようなこともなく、
市販品の「ホットケーキミックス」を使う。
これは小麦粉、砂糖、ベーキングパウダー、香料が混ぜ合わされているもので、
これに卵と牛乳、あるいは水を加えてタネを作る。
タネを作ってしまえば、後は油をひいたフライパンの上に1枚分のタネを広げ、
ごく弱火でもって焼いていくだけである。
(ちなみに「ホットケーキ」を「パンケーキ」と呼ぶワケであるが、
これはフライ「パン」で焼く、ケーキだからである。
いわゆるブレッド、食パンなどの「パン」の意味ではない)
しばらくすると、タネの表面にぶつぶつと泡が出はじめる。
その泡が増えてきたあたりで、えいやっとひっくり返し、
逆サイドも焼き上げる。
特にフライパンの上にタネを落としてからは、手をかけるのはこの時だけで、
後は放っておけば良い。
適当に焼き上がれば、皿の上に移して出来上がりである。
この「ホットケーキミックス」という商品は、
お菓子作りに最適な配合がなされているため、タネの固さを変えることにより、
ドーナツや蒸しパン、あるいは鯛焼きや回転焼きなどの生地としても使える。
お菓子作りをするものにとっては、なんともありがたい商品だ。
原料と調理が手軽であるだけに、ホットケーキの歴史は古い。
その歴史を辿れば、古代エジプトにまで行き着く。
これは、記録をたどっているだけなので、
実際には有史以前より、食べられていたものだと思われる。
もちろん、小麦粉の精製度、砂糖などの調味料の質、牛乳以外の動物の乳等々、
現在のものとは大きく違う要素も、多くあっただろうから、
現在のものと同じ味わいであったとは、考えにくい。
欧米を中心とした、小麦食文化の地域では、
古くからこのホットケーキに近いもの、あるいはそれに類するものが、
食べられていたようだ。
フランスのクレープやガレット、
ロシアのブリヌイなども、パンケーキに類している。
日本に伝わったのは、明治30年代のことである。
もちろん、それまでにも「麩の焼き」や「文字焼き」等、
小麦粉で作ったタネを、鉄板で焼いたものは存在しており、
長崎で作られていた「カステラ」などにも、パンケーキに通じる所がある。
「麩の焼き」「文字焼き」には、卵がはいっておらず、
生地は膨らまないので、出来上がりはクレープに似ているし、
「カステラ」は、ベーキングパウダー(ふくらし粉)のかわりに、
卵の白身を泡立てることによって、生地をふんわりと仕上げている。
その様な所へ、西洋食のひとつとして、「パンケーキ」は持ち込まれた。
このパンケーキからヒントを得て作られたのが、「どら焼き」である。
実は、それまでにも「どら焼き」は存在していたのだが、
大正3年(1914年)、上野の和菓子屋「うさぎや」が、
パンケーキをヒントにして、アンコを挟む方式の「どら焼き」を発明した。
恐らくは、現在と同じようにパンケーキを2枚、重ねて供していたのを見て、
2枚の皮を重ね、その間にアンコを挟む方式を思いついたのではないだろうか?
この「どら焼き」の発明により、しばらくの間、
「パンケーキ」と「どら焼き」が混同される状況が続いた。
これが完全に分離して考えられるようになったのは、戦後になってからである。
一番最初に、ホットケーキを子供のオヤツと書いたが、
アメリカをはじめとする欧米各国では、普通に朝食として、
ホットケーキが食べられている。
もちろん子供だけでなく、成人男性が当たり前のようにホットケーキを食べる。
あの旺盛な食欲を誇る、アメリカ人を満足させるわけだから、
相当なボリュームのホットケーキである。
よく考えてみれば、先に書いた通り、ホットケーキを焼くのは手間がかからない。
これを忙しい朝の食事に持ってくるのは、意外に理にかなっている。
さすがに、まだ日本では、朝にホットケーキを焼く人は少ないが、
やってみれば、存外にリッチな気分を味わえるかもしれない。