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月餅

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By: Kansir

最近、「月餅」を食べる機会があった。

「月餅」と書いても、なんだ?それ?と思う人もいるだろう。
もしスーパーや、コンビニなどに行くことがあれば、
饅頭などをおいてある「和菓子」コーナーを見てほしい。
そこに個別包装された各種饅頭に混じって、
「月餅」と書かれたお菓子がおいてある筈だ。
型にでもはめ込んだような、凹凸がついており、
厚みのある円板状のお菓子である。
表面は、卵の黄身を塗って焼いてあるのか、
ほんのりと茶色実を帯びて、ツヤがある。
包み紙から取り出して、手に持ってみると
素材的には「栗饅頭」に似ているように感じられる。
小麦粉を主体とした生地を、焼き上げて作られた皮は、
「栗饅頭」の皮に非常に似通っているが、
それよりは幾分かしっとりとしているようだ。
これを手に持って、半分に割ってみると、
中には小豆餡が入っている。
スーパーやコンビニにおいてあるものは、
それほど高価なものではなく、
精々1個100円程度のものだろう。

これだけを見れば、ごく普通の和菓子のように思える。
しかし、「月餅」は和風にアレンジこそされているものの、
「和菓子」ではない。
この「月餅」は、古来より中国に伝わっている、
伝統のある「中華菓子」なのである。

「月餅」。
思わず「つきもち」などと読んでしまいそうだが、
これは「げっぺい」と読む。
「月」を「げつ」と読むのは、日本でもよくあることだが、
「餅」を「ぺい」と読むのは、いかにも中国的である。
中国では「中秋節」に食べるお菓子であるが、
時代が進むにつれて、「中秋節」に贈られる
贈り物としての意味合いが強くなってきた。
「中秋節」というのは、日本でいう「中秋」のことで、
日本では「中秋の名月」ということで、
ススキを飾り、団子をお供えする。
中国では、この団子の代わりに「月餅」を食べるのである。
「月餅」が丸い形をしているのは、
満月を象ったものだからといわれているが、
もともとは日本の「菱葩餅(ひしはなびらもち)」のような形を
しており、現在のような円形になったのは、
後代のことだという。
そうなると「月餅」の名前は、
これが月に似ているから、というわけではなく、
月に供えるもの、月を見ながら食べるものという、
日本の「月見団子」と同じような意味なのだろう。

日本のスーパーなどで販売されている「月餅」は、
どれも似たような大きさで、饅頭と同じく
中には小豆餡が入っているものがほとんどだが、
「月餅」の本場中国では、大きさも、
中に入っている餡についても様々な種類がある。
ホールケーキのようなサイズの「月餅」も、ごく当たり前で、
「中秋節」には、これを家族で切り分けて食べる。
日本での「月餅」は、それこそ1年中販売されているが、
中国では、あくまでも「中秋節」に食べるもので、
これを過ぎると、食べられることも無くなり、
小売店では売れ残った「月餅」を値引きして、
投げ売りすることもある。
この辺りは、日本のクリスマスケーキと非常に似通っている。
ただ、クリスマスケーキと違うのは、
「月餅」の消費期限が1ヶ月ほどもあることである。
メーカーの中には「中秋節」の後、
売れ残りの「月餅」を回収することによって
ブランドイメージを守ろうとする所もある。

「中秋節」に「月餅」を食べる習慣は、
唐代に始まったとされている。
「洛中見聞」によれば、
唐の僖宗は「中秋節」に、新科の進士に餅を賜ったという。
北宋の時代になると、これは「宮餅」と呼ばれ、
宮廷の中で流行した。
やがてこれらは民間にも伝わり、
「小餅」「月團」などと呼ばれた。
一説には元代のころ、
モンゴル人の支配下で苦しんでいた漢人たちは
反乱を考えていたが、元軍の監視が厳しく
連絡を取り合えなかった。
そこで漢人たちは一計を案じ、
「中秋節」の贈り物である「月餅」の中に
「8月15日にモンゴル人を殺せ」と書いたメモをいれて、
連絡を取り合ったという。
「月餅」の中に連絡事項を書いた紙を埋め込み、
監視人に気付かれずに連絡を取り合うという話は、
この他にもいくつかのバリエーションがある。
果たしてこのエピソードが、全くのフィクションなのか、
あるいは史実に基づいた事実なのかはわからないが、
そんなエピソードが生まれるくらいには、
「月餅」は中国の社会に根付いていたということだろう。

この「月餅」が日本に持ち込まれたのは、
大正時代末期から昭和初期にかけてのことだ。
中村屋の創業者夫妻は、中国へと視察旅行に出かけ、
そこで「月餅」に出会う。
中国では「中秋節」に、月に「月餅」を供え、
親しい人たちの間で、盛んに贈答が行なわれていることを聞き、
そこに「日本の風習との類似性」を見出した。
彼らは「月餅」を日本に持ち帰ったが、
中国の「月餅」は日本人の嗜好には合わなかった。
そこで彼らは「月餅」に改良を加えた。

・油っこさを取り除いた
・皮の口当たりを良くした
・形を美しく整える

などの改良を加えられた「月餅」は、
昭和2年に売り出された。
発売当初は中国の風習に習い、8月の間だけの販売であったが、
次第に愛好者も増えていったことから
通年販売を行なうようになった。
現在、日本のスーパーやコンビニで販売されている「月餅」は、
この中村屋のものが「元」になっているらしい。

1年中販売されている、日本の「月餅」と違い、
本場中国のものは、現在でも季節性の高いお菓子だ。
「月餅」そのものを贈答することもあれば、
近年では「月餅」の引換券を贈るケースも多くなっているという。
確かにそちらの方が、余計な輸送費がかからないし、
手間もかからない。
中国人の合理的な性格が見て取れる。
最近では、この「月餅」界に新規参入を試みる
世界のメーカーも多い。
コーヒーで有名な「スターバックス」、
チョコレートで有名な「ゴディバ」、
ドーナツで有名な「Mr.ドーナツ」、
アイスクリームで有名な「ハーゲンダッツ」など、
様々なメーカーが、それぞれに工夫を凝らした「月餅」を
販売している。
(ゴディバの「チョコ月餅」、
 Mr.ドーナツの「ポン・デ・月餅」、
 ハーゲンダッツの「アイス月餅」など)
端から見ている分には、
「伝統的な面でいえば、どーなんだ?」
と、首を傾げたくもなるのだが、
意外に中国では受け入れられ、そこそこ人気もあるらしい。

中国人の懐は、思っていたよりも随分深いようである。

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