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青椒肉絲

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昔から、時々食べに行く中華料理チェーン店がある。
その具体名を出すと憚りがあるかもしれないので、
その店名のヒントだけを挙げておくと、
とあるボードゲームの、駒の名前のついた中華料理チェーン店である。

そこのメニューの、一品料理の欄を見てみる。
おおよそ値段帯は400〜600円ほどで、
かなりリーズナブルではあるものの、その値段帯の中には
最大で1.5倍程度の価格差が存在している。
もっとも安価なものは「野菜炒め」と「もやし炒め」で、
これらは共に410円である。
逆にもっとも高価なものは「エビのチリソース」、「エビの甘酢」、
そして「牛肉とピーマンの細切り炒め」となっており、
これらがそれぞれ600円である。

「エビのチリソース」、「エビの甘酢」ともに、
その料理の主役になっているのはエビである。
この2つの値段が高いということは、恐らくは主材料である
エビの価格が高いということになるのだろう。

では、もうひとつの「牛肉とピーマンの細切り炒め」はどうか?
メニューの中には「牛肉とピーマンの細切り炒め」と同じように、
肉と野菜を炒めあわせたものも、いくつか存在している。
しかしそれらは、どれも「牛肉とピーマンの細切り炒め」ほどの
値段はしていない。
同じように肉と野菜を使っている料理であっても、
それらは480〜500円ほどの価格帯であり、
どういうわけか「肉とピーマンの細切り炒め」のみが、
頭ひとつ飛び抜けた価格設定になっている。
それらのメニューと、「牛肉とピーマンの細切り炒め」の違いは何か?
それはただ1つ、肉が「牛肉」かどうか、ということである。

一品料理のメニューを見回してみると、
他にも「肉」を謳った料理がいくつかある。
「回鍋肉」や「ニラ肉炒め」、「肉団子」、
「肉と卵のいりつけ」などがそうである。
もちろん、これら以外にも「肉」を謳った料理はある。
例えば、「酢豚」、「焼豚」、「豚キムチ」、「棒棒鶏」などだ。
これらは「肉」という単語は使っていないものの、
それぞれに「豚」とか「鶏」という文字が使われており、
その材料に豚肉や鶏肉が使われていることを、表している。
中華料理では、本来、「肉」といえば「豚肉」を指している。
それを念頭に置いて考えてみると、
先に述べた「回鍋肉」や「ニラ肉炒め」、「肉団子」や
「肉と卵のいりつけ」などは、すべて豚肉が使われていると
考えるべきである。

そうなると、このチェーン店の一品料理の中で、
牛肉が使われているのは、この「牛肉とピーマンの細切り炒め」だけと
いうことになり、この料理が他の料理よりも
高い値段を付けられているのは、材料に使われている牛肉が
原因であるという風に結論づけることが出来るのである。

我ながら、つまらないことを長々と書いてしまった。
ここまで書いた中で何度も出てきた「牛肉とピーマンの細切り炒め」だが、
世間一般ではこれを「青椒肉絲」と呼んでいる。
難しい漢字が並んだが、これは「チンジャオロース」と読む。
「青椒」とは「ピーマン」のことを表しており、
「肉」はそのまま「肉」、「絲」は「糸のように細く切る」という
意味であるらしい。
……。
ここで鋭い人なら、あることに気がついたはずである。
先ほど自分はこういう風に書いた。
中華料理では、本来、「肉」といえば「豚肉」を指している、と。
つまり、「牛肉とピーマンの細切り炒め」と「青椒肉絲」は、
別のものではないのか?と、思っているはずだ。
そう。
実は、これは全くのその通りで、この中華料理チェーン店のように
「牛肉」と「ピーマン」を細切りにして炒めあわせている場合、
「青椒肉絲」ではなく「青椒牛肉絲」となる。
言葉の上では、牛肉とピーマンのみを炒めているように
聞こえるのだが、実際にはそれ以外の材料を加えることも多い。
(多くの場合、「ニラレバ炒め」にもやしが入っている様なものだ)
タケノコやタマネギ、もやしやネギなどを加えることもあるが、
これらがあまり多くなってしまうと、
それこそタダの肉野菜炒めになってしまう。

この「青椒肉絲」が、いつごろから作られ始めたのか?と
いうことに関しては、ハッキリしたことは分からなかった。
ただ、当初、この料理に使われていた「青椒」というのは、
現在で言う所のピーマンではなく、ししとうの様な
辛みの少ない、いわゆる「甘唐辛子」が多かったらしい。
だとすれば、アメリカ大陸原産のこの植物が世界中に広まっていくのは、
コロンブスによって新大陸が発見された15世紀から
16世紀ごろにかけてのことになるので、中国にこれが伝わったのも
当然、これ以降ということになり、「青椒肉絲」が作られ始めたのも
それ以降のいつか、ということになる。
(一般的に、ピーマンが世界中に広まっていったのは唐辛子よりも遅く、
 日本では唐辛子が江戸時代以前に伝来していたのに対し、
 ピーマンは明治以降に伝来してきている)

調べてみた所、この「青椒肉絲」は福建料理とも、北京料理とも、
四川料理とも伝えられており、中国のどこで生まれたかと
いうことについては分からなかった。
現在、日本で一般的に食べられている「青椒肉絲」は、
辛みよりも旨味を重視する味付けがなされており、
辛みの強い四川料理とは相容れないように思えてしまうが、
「青椒」というのが、唐辛子を指しているのだとすれば、
もともとは辛みの効いた料理だったのかも知れない。
そういう風に仮定するのであれば、
「青椒肉絲」が四川料理であったとしても、それほどおかしくはない。

さて、自分が子供のころの我が家では、婆さんが畑を作り、
そこで様々な野菜を大量生産していたことは、何度も書いたが、
その大量生産される野菜の中にはピーマンも入っていた。
当然、自分は子供のころから、
その大量のピーマンを食べさせられてきたわけだが、
うちの母親のピーマンレシピは非常に少なく、
その調理方法は天ぷらにするか、炒めるかであった。
このピーマンを炒めたものには、牛肉の細切れが入っており、
味付けは醤油だけであった。
全くシンプルな料理だったが、油で炒めた青臭いピーマンと牛肉、
そこに醤油の味がピッタリとあって、グイグイとご飯のすすむ
我が家の定番料理であった。

後々になって、気がついたのだが、
この料理の基本的な構造は、「青椒肉絲」によく似ている。
ピーマンに関しては、細切りになっていたし、
牛肉は細切りではないものの、小片の細切れであったからだ。
ただ、味わいに関しては、やはり「青椒肉絲」とは違っており、
我が家のものは、どこまでいっても「ピーマンと牛肉炒め」であった。

これをきっちりと中華料理に仕上げる辺りが、
プロの技ということなのかも知れない。

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