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農民車

投稿日:

もう大分前のことになるのだが、インターネットのニュースサイトで
地元(兵庫県内)ニュースを見ていると、
そこで「農民車」なるものが紹介されていた。

農民の車…とは、なかなか凄いネーミングである。
どういうものかといえば、まあ、読んで字のごとく、
農家が農作業などの際に使っている車という意味になるのだが、
この言葉を最初に聞いたとき、頭の中に浮かんできたものがあった。
それが、耕運機が台車を引っ張っている姿である。

現在では、あまり目にすることもなくなったが、
自分が子供のころなどは、耕運機に座席と荷台付きの台車を取り付け、
それに乗って農道を走っている農家が見られた。
馬が荷車を引っ張る「馬車」というものがあるが、
あの馬の部分を、そのまま耕運機に取り替えただけのものといえば、
イメージしてもらいやすいだろうか。
近所のちょっとした農家などは、この台車付きの耕運機を持っており、
(というよりは、耕運機のオプションとして座席付きの台車が
 販売されていたようだ)
畑などへの足として、そこら辺の公道を走っていたものである。
正直に言ってしまえば、はたしてアレで公道を走って良かったのか?
なんていう疑問もあったのだが、なんせ、ほとんどの農家が
あの荷台付きの耕運機に乗って、そこら辺を走っているのである。
それが余りにも日常の光景過ぎて、
いつしかそんな疑問を感じることもなくなっていた。

しかし、それから10年、20年という月日が流れ、
最近では、そういった台車付きの耕運機を見かけることも
ほとんど無くなってしまった。
その代わり、と言うこともでもないだろうが、
農家が軽トラックに農具を積み込んで、畑に向かう姿なんかは
現在でも、そこかしこで目にすることが出来るので、
台車付きの耕運機から軽トラックへと、
時代と共にシフトしていったのかもしれない。

ともあれ、自分はそんなものを脳裏に思い浮かべながら、
その「農民車」というものを取り上げているニュースを
クリックしてみた。

そこに現れたのは、なんとも珍妙なものであった。

自分が頭の中で思い浮かべていた台車付きの耕運機と違い、
それには耕運機はついていなかったが、
全体の形としては、耕運機の後ろについていた座席付きの台車と
ほとんど変わらない姿をしている。
ただ、違っているのは座席の下部分にも車輪が取り付けられており、
さらに座席の前部分には、まるっきりむき出し状態で
エンジンが取り付けられている。
さらににょっきりとハンドルも生えてきており、
座席に座った人間はそれを操作して、これを方向転換させるようだ。
こういう風に書くと、なんか普通の車の様に聞こえてしまうのだが、
一見してちゃんとした車の形をしておらず、
まるで適当なエンジンやハンドルをどこからか見つけてきて、
それらを無理矢理つぎはぎした様な、へんてこな仕上がりぶりである。
そのニュースの中では、複数枚の写真によって
数台の「農民車」が紹介されていたのだが、
紹介されていた全ての「農民車」が、この手のへんてこぶりなのである。

改めてニュース記事を読み進めてみると、
この「農民車」は、淡路島の中で独特の進化を遂げた車だ、とある。
思わず「進化?」と首をひねってしまったが、
この「農民車」は、淡路島内での農作業のために
特化して製作された車らしいのである。
しかも、これを製作しているのは、正規の自動車メーカーではなく、
淡路島内の鉄工所だという。
もう、こうなってくると、全くワケがわからないが、
どうやら淡路島内の農家(主にタマネギ農家)が、
自分たちの必要に応じた農作業用車の製作を鉄工所に依頼し、
オーダーメイドで作り上げられた、完全なワンオフ車ということらしい。

もちろん、鉄工所ではエンジンなどのパーツを製作できるわけがないので、
パーツの大方は中古自動車や、農作業機械から取り外し、
これらを自分たちで組み上げて「農民車」を作るという。
こうなってくると、まるでゲームか何かの世界みたいだ。
ただ、パーツ自体は既存のものから取り外して集めてくるとはいえ、
それだけに手間がかかり、ほとんど軽自動車の新車と
同じ程度の値段がかかるということである。
もちろん、その分だけ細かく注文を付けることが出来、
車幅などを規定のものより小さく作ってもらったり、
肥料等を運搬しやすいように、ダンプ機能(荷台を斜めにして
積み荷を一気に下ろす機能)をつけたり、
タマネギなどを棚にかけて乾燥させる際、その作業がしやすいように
荷台がフォークリフトの様に上下する機能を持たせたりと、
その自由度はかなり高いといっていい。
そこまで注文通りに作ってもらえるのであれば、
少々値段が張っていても、顧客の満足度は高いだろう。

淡路島ではタマネギの栽培が盛んだが、
これは水稲の裏作として栽培されているため、
その栽培地は非常にぬかるんでいる。
昔、使われていたオート三輪や、軽トラックでは、
このぬかるんだ農地で使い物にならなかったため、
当時、耕運機などを作っていた鉄工所に、専用の車の製造を依頼した。
そう、それが「農民車」である。
その後、これを見た島内の農家からの注文が相次ぐようになり、
島内の10を超える鉄工所では、どんどんと「農民車」が作られた。
もちろん、それらは全て、各々の顧客の要望に応えた
オーダーメイド品である。
1980年代には、淡路島内に10000台を越える
「農民車」があったという。
淡路島という、決して広くはない地域に、
それだけの数のオーダーメイド車が存在していたというのは、
ちょっと驚くべき事実である。
そして、それだけの受注に答えて、一台ごとに様々な機能を持った
オーダーメイド車を作り続けて来た、淡路島内の鉄工所の工作力だ。
それだけ細かくオーダーメイドされているため、
淡路島の農家たちにとって「農民車」は、なくてはならないもので、
「これがなくては、淡路島の農業は衰退する」とまで
言わしめているらしい。

ただ、近年では、この「農民車」も減ってきているらしい。
乗り手となる農家自体の数が減っているのと、
自動車がやたらハイテク化してしまったため、
これまでのように中古車などから、パーツを引っ張ってくることが
難しくなってしまった。
さすがに鉄工所では、コンピュータ制御されたパーツを組み合わせて
「農民車」を作り出すことは難しい。
恐らく、いずれは使えるパーツ自体が少なくなっていき、
生産も修理もおぼつかなくなっていくはずだ。

そうなったとき、淡路島の農業に、どれくらいの影響が出るのだろうか?

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