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フリーズドライ〜その3

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ここまで2回にわたり、食品乾燥法の中のひとつとしての
「フリーズドライ」と、その歴史について、簡単に触れてきた。

凍らした食品(まあ、食品には限らないのだが……)を
真空状態に放置しておくことによって起きる乾燥現象。
説明されてみれば、まあ、そういうものなのかな?と、
理解は出来るのだが、いかんせん、
実感を持って納得するという所には、至らないのではないだろうか?
この季節のことだから、「モノ」が凍るということには
ある程度、実感が沸いても、
それが真空中で乾燥するということになると、
どうしたって、本当にそんなことが起きるのかな〜?
という気になってしまう。
常に空気の中で生きている我々にとって、
「真空状態」というのは、全く縁遠いものだからだ。
今回は、そこら辺の原理について、
なるべく分かりやすいように、書いていくつもりである。

さっき、我々にとって「真空状態」というのは縁遠いもの、と
書いたのだが、実は我々の身近にも、この真空状態というのは
普通に存在している。
なんといっても、我々の住んでいる地球の周り、
つまり宇宙空間というのは、基本的に「真空状態」である。
読んでいる人の中には、そんな遙か空の上のことなんか分からない、
という人もいるだろう。
これはものすごく雑な話になるのだが、
地球上においての最高峰・エベレストでの山頂付近の空気は、
地上に比べて3分の1程しかないという。
エベレストの標高は8848m。
これを9000mということにして、
この高度で空気が3分の1になるペースで薄くなっていくとすれば、
4500mごとに空気は3分の1ずつ減っていくことになり、
13500m程登れば、空気は完全に無くなるということになる。
わずか13.5km程、場所をずれるだけで、
そこは真空地帯ということになる。
……。
まあ、実際にはそんなに急激に空気が0になることは無い。
一応、これより上が宇宙だよとされているのが、
上空100km程になっており、流れ星が輝き出したり、
地球に突入した宇宙船が燃え始めるのも、
この辺りから下ということになる。
これにしたって、せいぜい横移動だと、
兵庫県を東西に通過するにも足りない程度の距離である。
「真空」などというと、遠いどこかの世界のことのように思えるが、
実は、人間が今いる所から、車で一時間程移動する程度の場所に、
ずっと広がる「真空」空間が広がっているのである。
(実際には、上空100km以上でも、かなり薄い状態ではあるが、
 空気の層は続いている。
 今回は、話を進めやすくするために、
 かなりばっさりとした書き方をしていることを、断っておく)

話が、ちょっと大げさになってしまったが、
先に書いたように、エベレストの山頂付近では、
空気が地上の3分の1程しか無い。
当然、エベレストの山頂付近の気圧は地上よりも、ずっと低くなる。
具体的な数字を出すのであれば、
地上の気圧は1013hPa、3776mの富士山頂では630hPa、
8848mのエベレスト山頂だと300hPaということになり、
実に、地上の3分の1以下の気圧しかないという計算になる。
気圧が下がればどういうことが起きるのか?

有名なものが、水の沸点の低下である。
地上では、ご存知の通り100度で水は沸騰するが、
富士山頂では87度で水は沸騰し、
エベレスト山頂では70度で沸騰することになる。
我々は沸騰といえば、
お湯がボコボコと沸き立っている姿をイメージするが、
あれは100度に温められた水が、内部から気化しているのである。
要は、あの現象が87度、70度で起こることになる。
当然、さらに高度が上がり(上がらなくても良いのだが)、
気圧が低くなると、さらに沸騰する温度は低くなっていき、
完全な0気圧、つまり真空になるちょっと手前で、
0度を下回ってしまう。
当然、沸点が0度以下になれば、氷は液体に変わる行程をとばして
気体に変わっていくことになる。
ここに、氷(個体)→水蒸気(気体)という図式が出来上がり、
「昇華」と呼ばれる現象になる。

これが、凍っている状態の食品で起こると、どういうことになるか?

凍っていない食品が乾燥する場合、食品の中の水分が、
食品内を移動し、表面へとやってきてから気化する。
だが、この場合、水分は様々な成分を含んだまま、
食品内を移動することになる。
そのため、乾燥した食品の表面部分には、
塩分や水溶性タンパク質等が折り重なってしまい、
ゴワゴワとした状態になってしまう。
当然、この水分の移動によって、
構造が大きく変わってしまった食品の場合は、
再び水を吸収させても、元通りにならない。

だが、これが凍った場合で起こるとどうなるか?
水分は完全に凍結し、全く動くことの出来ない状態では、
水分の移動は行なわれず、そのままの位置で、
水分だけが表面から順に、気化していくことになる。
表面の水分が気化すれば、当然、そこに空洞が出来、
その空洞を通じて、内部の気化した水分も外へと出て行くことになる。
凍っていない状態での乾燥では、水分の移動に伴って
食品の内部構造が破壊(変化)されてしまっていたのだが、
凍った状態での昇華では、食品の内部構造は保たれたまま、
水分だけが抜けていくことになる。
これが、フリーズドライされた食品が、
水分を加えるだけで、ほぼ、元の姿に戻る秘密なのである。
ただそれでも、食材によっては食感や色など、
変化してしまうものもあるので、
全ての食品が、完全に復元されるわけではない。

さて、最初に「真空」というものを取り上げる際、
宇宙空間について触れた。
宇宙空間というのは、完全な真空状態であるし、
温度も絶対零度であるとされている。
つまり、「フリーズドライ」食品を作るのに、
宇宙空間というのは、結構、適した空間なのである。
だからといって、宇宙船から食材を宇宙に放り出したからといって、
これがたちまち、「フリーズドライ」になるわけではない。
まず、第一に重要なことだが、
宇宙空間に放り出された食材は凍らない。
え、そんなバカな、宇宙は絶対零度なんだから、
そんな所に放り出されたら、なんでも瞬間的に
凍るに決まってるじゃないか、という人は、
中学生レベルの理科が出来ていない。
たしかに宇宙よりずっと温度の高い南極などでは、
外に放り出されたバナナなどが瞬間的に凍り、
それで釘を打つことも可能だろう。
これはマイナス数十度に冷やされた空気の中に、
バナナを放り込むからで、冷やされた空気がバナナの熱を奪い、
一気に凍結温度まで、温度を下げるからである。
これと同じことは宇宙では起きない。
絶対零度の宇宙には、まさしく何も無いからである。
早い話、絶対零度とか、どうとか言う前に、
熱を持ったり、奪ったりするものが何も無いのだ。
そんな中に食材を放り出した所で、熱を奪われるはずも無く、
瞬間的に凍ったりするはずが無い。
せいぜい食材の瑞々しい面で水分が沸騰し、蒸発が始まる程度だ。
その際、気化熱によって冷えたり、
凍ったりすることはあるかもしれないが、
例えば、人間が放り出されたとして、
凍ってしまう様なことは無いだろう。
人間の皮膚は、水分が蒸発しにくい構造になっているからだ。
多くの動植物は、これと同じような構造を持っているため、
食材によっては、宇宙空間の中でも
水分の飛びにくいものもあるだろう。
(とはいえ、長い時間をかければ、水分は蒸発するだろうが……)
そのため、宇宙空間で「フリーズドライ」食品を作るのなら、
予め食材を船内の冷凍庫で凍らせ、
水分の飛びやすいようにしておいてから、放り出した方が効率がいい。

いずれ、人類が宇宙に進出するようになれば、
宇宙空間で加工された「フリーズドライ」食品が、
スーパーの棚に並ぶようになるのかもしれない。

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