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フリーズドライ〜その2

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前回、食品を長期保存するための方法を色々と紹介し、
その中の1つ、「乾燥」について取り上げてみた。

肉や魚を乾燥させたものは、干し肉や干し魚として、
スーパーの棚にも並んでいるし、
野菜やキノコを乾燥させたものも、各所で販売されている。
最近では、果物を乾燥させたドライフルーツなども、
フルーツコーナーや製菓材料コーナーに並んでいる。
これらの乾燥食品というのは、我々の生活の中では、
もう、欠かすことが出来ないくらい、
身近なものになっているのである。

だが、干し魚や干しシイタケ、千切り大根やレーズンなどの、
非常に分かりやすい乾燥食品の他に、
え?これも乾燥食品なの?と、驚いてしまうようなものもある。
例えば、普段、何気なく使っているインスタントコーヒーなども、
実は乾燥食品であるし、高野豆腐や寒天なども乾燥食品だ。
もっと極端なことを言えば、粉薬などのサラサラの粉末も、
乾燥によって作られているので、
これらもまた、一種の乾燥食品(薬だが)ということもできる。
ここで挙げた食品の高野豆腐は、
普通の「豆腐」を乾燥させた食品である。
元の「豆腐」との差があまりに大きいので、
実は「豆腐」という名前はついているものの、
「玉子豆腐」や「杏仁豆腐」、「ゴマ豆腐」などと同じで、
「豆腐」とは全く関係のない食品だと、
思い込んでいる人もいるだろう。
だが高野豆腐は、まさしく「豆腐」そのものを乾燥させただけの、
まぎれもない「豆腐」なのである。

だが、「豆腐」を普通に天日干しにしても、
決して「高野豆腐」にはならない。
天日干しにされた「豆腐」は、
堅く、濃い茶色をしたレンガのような物体になる。
これを切ってみると、茶色に変色しているのは外側だけで、
中心部には、まだやや白さを保った部分が残されている。
これはこれで「六條豆腐」という名前で、
「豆腐」の加工食品の1つなのだが、
これは「高野豆腐」とは、全く違う食品である。
では「高野豆腐」は、一体、どういう乾燥の仕方をして、
あのカチコチのスポンジ状になったというのか?

そう、その方法こそが、今回のテーマである
「フリーズドライ」ということになる。

一般的に「フリーズドライ」といえば、
水分を含んだ食品などを、マイナス30度程で急速冷凍し、
これを真空状態の中に置くことによって、
水分を昇華させて乾燥させるというのが、その定義である。
……。
いや、ちょっと待て、という突っ込みが聞こえてきそうだ。
「高野豆腐」は、元々高野山の僧侶が作り始めたことから、
その名前がついたはずだ。
いつごろから作られ始めたのかは、明らかでないが、
戦国時代、東北地方を治めていた伊達政宗によって、
戦の非常食として生み出された、などという伝説が残っているあたり、
少なくとも、そのころにはある程度、
普及していたのではないかと思われる。
(さすがに伊達政宗が発明したとするのは、眉唾物だが……)
そんな時代に、マイナス30度という低温も、
真空状態も、用意できたはずが無い。
そう。
正確に言えば、「高野豆腐」の製法は、
「フリーズドライ」の定義から外れている。
その製法とは、こうだ。
まず、気温の低い冬などに、豆腐を適当な大きさに切り、
屋外へと出しておく。
すると、気温の低い真夜中になると豆腐は凍ってしまう。
やがて朝が来て、太陽が昇ってくると、気温が上がり
豆腐は解凍されて元の状態に戻る。
そのまま豆腐を放置しておくと、再び夜に豆腐は凍り……ということを
繰り返していくうちに、少しずつ水分が飛んで、
やがてあの、我々にお馴染みの「高野豆腐」になる、というわけである。
これが、暖かい状態であれば豆腐は凍ることも無く、
あっという間に傷んでしまうのだろうが、
厳寒の状況では、むしろ豆腐は凍っている時間が長く、
最近や微生物が全くといっていい程、活動できないため、
豆腐を腐らせずに、乾燥させることが出来るのだろう。
そういう意味では、たしかに冷凍(フリーズ)を利用した
乾燥方法(ドライ)であることは確かなので、
ものすごく大きな視点で言えば、これもまた、
「フリーズドライ」の一種ということになる。
ちなみに、これと同じ製法の豆腐が、
東北地方でも作られており、こちらは「凍み豆腐」と呼ばれている。
「高野豆腐」に比べると、その名前はかなりストレートである。
(もちろん、現在、高野山(寺院)では、高野豆腐は作られていない)

さて、話を本来の定義での「フリーズドライ」に戻そう。
「高野豆腐」など、冷凍を用いた乾燥というのは、
古くから世界中で(といっても、ある程度の
「寒さ」のある場所でだけだが……)行なわれていたのだが、
現在のような「フリーズドライ」が研究され始めたのは意外に遅く、
20世紀に入ってからのことである。
20世紀初頭、物質の保存を目的とした
「フリーズドライ」の研究が始まったが、
この時点では、食料の保存目的というよりは、
薬学・生物学上の目的のためであり、第2次世界大戦中には、
大規模な血液の乾燥が行なわれていた。
1950年代に入ると、アメリカで軍によって、
食品を「フリーズドライ」にする研究が始められた。
軍用の食料を、いかに長期保存が効き、
運搬に便利なように軽量化できるか?ということは、
軍隊運用上でも、重要な課題であった。
さらにいえば、食品の味を落とさないことは、
それらを食べる兵士たちの精神状態にも関わってくる。
この研究により、「フリーズドライ」の研究は一気に進み、
1960年代に入ると、産業界からも、
この技術への注目が集まるようになった。
日本では1970年代初めに、
「さけ茶漬け」や「カップヌードル」の具材として、
「フリーズドライ」加工されたものが用いられたのをきっかけに、
技術が広まっていった。

現在では、インスタントコーヒーなどを始めとしたインスタント食品や、
非常食、アウトドア用食品、軍用食として、
幅広く用いられているだけでなく、当初の研究目的であった
医薬品の製造などにも、「フリーズドライ」が利用されている。

前回、インスタントコーヒーの製造方法として、
コーヒーを噴霧器にて「霧」状にして、高温状態にさらし、
その水分を一気に蒸発させて乾燥させる
「スプレードライ」という方法を紹介した。
このコーヒーの乾燥を、「フリーズドライ」を用いて行なうとすると、
どのような手順になるのだろう?
まず、当然のことながら、普通に入れたコーヒーを、
一気に冷凍庫で、凍らせてしまわなければならない。
定義の所で書いたように、マイナス30度以下の温度で、
急速に凍らせるのが一般的なようだ。
凍らせたコーヒーを細かく粉砕し、
その状態で、真空状態の中に放り込む。
そうすると、細かく砕かれたコーヒー氷の水分(氷だが)が、
そのまま気化し始める。
普通、氷は一度融解して水になり、さらにその後気化するのだが、
ここではこの融解の部分をすっ飛ばして、いきなり気化してしまう。
こういう風に、固体から液体を経ずに気体になることを、
「昇華(しょうか)」という。
水分がすっかり気化してしまった後、
コーヒー氷は、2〜3ミリ程度の大きさの、
角の尖った荒い粒状になっている。
きれいな粉末状になる「スプレードライ」とは、
ここの所が大きく違っており、
そのインスタントコーヒーが、どのような製法で作られたのかを
知るための大きな手がかりとなる。
この「フリーズドライ」で作られたインスタントコーヒーは、
乾燥の際に、全く熱を加えていないため、
コーヒーの風味が失われにくいという特徴がある。
ただ、マイナス30度以上の低温で一気に冷凍し、
さらにそれを真空状態にさらさなければならないため、
どうしても、ある程度の設備が必要になるのが、
大きなデメリットといえるだろう。

さて、今回は「フリーズドライ」の手順について書いてみた。
次回は、その原理についてつらつらと書いていく。

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