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食べ物

牡蠣の冤罪と自己責任。

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牡蠣は「R」のつく月に食べる、といわれる。

学生時代、特に英語が苦手だった自分には、

該当する月が、すぐに思い浮かばないのだが、

要は9月~4月の間に食べればいい、ということらしい。

意外に長い期間、牡蠣を食べられるということだ。

さらにいえば、ここでいわれている牡蠣は「マガキ」のことで、

「イワガキ」などに関していえば、夏が旬ということになっている。

つまり、牡蠣の種類にさえこだわらなければ、

一年中、牡蠣を食べることができる。

播磨灘に面している播磨地方には、

自然のままの海岸が多く残っている。

そこには多くの岩場があり、散策してみると、

そこら中の岩に牡蠣が付着している。

岩に付着している牡蠣をよく見てみると、

殻がこじ開けられ、中身のない牡蠣殻が散見できる。

近くに住んでいる人たちが、岩に付着している牡蠣を獲って食用にする。

その残骸が、岩に残っているのである。

岩からはがされた牡蠣殻も、近くに落ちていることが多いので、

ここを歩く場合、足元に注意していないと思わぬ怪我をすることがある。

岩に付着している天然の牡蠣は、市販品に比べて小粒であることが多い。

しかし牡蠣の種類自体は、養殖物と変わらない。

もともと牡蠣の養殖というのは、ホタテの貝殻などを

海中に吊るしておくだけである。

そうして放置していると、牡蠣の幼生がこれに付着する。

この牡蠣の幼生を放出しているのが、岩場に付着している天然の牡蠣なのだ。

つまり養殖の牡蠣と、岩場に自生している牡蠣は親子なのである。

当然、小さいとはいえ、味は養殖物と変わらない。

地元の人間が、せっせと牡蠣を獲るのも無理のない話だ。

牡蠣は、ウグイスガイ目イタボガキ科に属する二枚貝である。

パッと見た感じでは、そう思えないかもしれないが、

アサリやハマグリなどと同じ二枚貝なのである。

同じ二枚貝であっても、アサリやハマグリとは違い、

自らの意志で動くことができない。

一度岩などに付着すると、一生動くことはない。

夏場の5月から8月までの間に産卵し、ほぼ一年間で成熟する。

例の「R」のつかない月は、牡蠣にとっての産卵期間にあたっていたわけだ。

そのため、この期間の牡蠣は産卵のために味が落ちている。

その期間は牡蠣を食べても美味しくない、という意味なのだ。

産卵によって海中に放出された幼生は、野生のものは岩場などに、

養殖のものは海中に吊るされた貝殻などに付着する。

一般的に、海中に吊るされているものの方が、栄養状態がよく、

大粒のものが育つ。

着生した岩場の環境などによっても、成長具合や形が変わってくるため

牡蠣の種類を見分けるのは、かなり難しい。

岩場などの他、船底などにも着生するが、

その場合、船の抵抗が増大し、機動性を大きく損なうことになる。

現在では、牡蠣などの幼生が付着しにくい塗料などが開発され、

船底に塗布されるようになってきている。

牡蠣はグリコーゲンの他、必須アミノ酸を含むタンパク質や、

カルシウム、亜鉛などのミネラルを豊富に含んでいる。

様々な栄養素が含まれているため、「海のミルク」とも称される。

これは栄養素の問題だけでなく、牡蠣の身の色が乳白色であることも

その語源となっているようだ。

「海のミルク」と称されるのはマガキであり、

それに対してイワガキなどは「海のチーズ」などと呼ばれる。

牡蠣に含まれている栄養素の中で注目するべきは、

「亜鉛」が多く含まれている点で、これが不足すると、

成長の遅れ・肌荒れ・味覚障害・肝臓の異常などを引き起こす。

古くから世界中で食用にされており、日本では縄文時代ごろから食べられていた。

貝塚からも、殻が大量に見つかっている。

面白いことに、日本ではほぼ生食されず、

大方の場合、火を通して食されていた。

刺身など、生食をよくする日本人にしては珍しいことだ。

逆にフランスなどを中心とする欧米では、昔から生食がさかんであった。

明治時代に入り、牡蠣を生食する食習慣が西洋より移入された。

現在でも、欧米ではさかんに牡蠣の生食が行なわれており、

生ガキをメインにメニューを構成している、オイスターバーなども存在している。

養殖が始まったのは室町時代ごろからで、

当初の養殖は竹などを海に突き刺し、それに牡蠣を着生させるものだった。

現在のような、イカダから糸を通した貝殻などを吊るす方式は、

大正末期に考案され、戦後になって広く取り入れられ始めた。

先に書いたとおり、もともと日本では牡蠣を生食する習慣は、ほとんど無かった。

わずかに牡蠣の生産地辺りで、生食していたに過ぎない。

基本的には加熱処理して、これを食べていた。

といっても、それほど牡蠣のメニューが多かったわけではなく、

概ねはアミの上で焼いて食べることが、ほとんどであった。

広島の名物鍋として有名な「牡蠣の土手鍋」だが、

これは江戸時代、広島の牡蠣を大阪まで船で輸送していたころに、

大阪の川の土手下で、味噌仕立ての鍋を食べさせたのが始まりとされているが、

他にも「土手吉助」なる人物が考案したという説、

鍋に塗った味噌が土手のように盛り上がっているからという説など、

異説も多く、はっきりとしない。

現在では、牡蠣の調理法として定番の「カキフライ」だが、

これは明治時代、東京の洋食店「煉瓦亭」によって考案された。

煉瓦亭は洋食店の草分けといえる店で、

「とんかつ」や「海老フライ」発祥の店でもある。

恐らくは、まず「カツレツ」をもとにした「とんかつ」が考案され、

その技法を他の食材にも応用して、

「海老フライ」「カキフライ」が考案されたのだと思われる。

牡蠣を食べるについては、「あたる」ことが知られている。

この場合、貝毒のような有毒プランクトンによるものと、

ノロウイルスのように、ウイルスや細菌によるものに分けられる。

どちらにしても、激しい嘔吐や下痢などの症状をもたらす。

自分もかつて友人と牡蠣を食べにいった際、

これにあたったことがある。

友人は早い段階で吐き戻したため、数日で回復したようだが、

自分は吐き戻しがなかったため、症状が半月以上継続してしまった。

最初はそれが「牡蠣」によるものだとは気づかず、

回復した後、友人と話している中で「牡蠣」によるものだったと判明した。

原因がウイルスによるものだったのか、

あるいは貝毒によるものだったのか、

はたまた牡蠣が傷んでいただけだったのかは、

全くわからずじまいであった。

翌年、同じ町に牡蠣を食べにいったのだが、その時は自分は平気だったが、

友人は再び牡蠣にあたった。

これ以降、友人は牡蠣を口にしなくなってしまった。

面白い、といえば不謹慎だが、どこかでノロウイルスが発生したとか、

牡蠣による貝毒が発生したというニュースが流れれば、

とたんに牡蠣の売り上げが落ちる。

室津、相生、赤穂、日生など播磨灘でも牡蠣の養殖をしている所は多いが、

こういうニュースが出た際には、地元の直売所などでも牡蠣が売れなくなる。

一種の風評被害である。

そうなってくると、直売所などを訪れる観光客の客足にも響いて、

客の数が目に見えて落ちてくる。

そういうときに直売所に行けば、驚くほど安価で牡蠣を買うことができる。

一度、牡蠣でノロウイルスが発生した際に、

友人と日生の直売所に行ったことがあったが、

客も少なく、投げ売りに近い状況であったため、

かなり安価に牡蠣を買うことができた。

その時は、存分に牡蠣尽しを楽しんだ。

確かにウイルスというのは怖いし、牡蠣にあたるとひどい目には遭うが、

状況によっては、安価に牡蠣を食べるチャンスにもなりうる。

風評に惑わされないのであれば、直売所に足を運ぶのも良いだろう。

もちろん、あたってしまえば「それみたことか」と、

まわりからはやし立てられる危険性もあるが、そこは「自己責任」である。

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