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食べ物

ボラ

投稿日:

世の中には、当たり前に食べることができて、

しかもいくらでも存在しているのに食べない、というものがある。

今回取り上げる「ボラ」も、そういう魚の一種だ。

河口付近の、橋の上から川面を見ると、

水面近くに、恐ろしいほどの数の、魚の群れがいることがある。

ボラの群れである。

群れによって大きさも変わってくるが、

大体30cm~50cm位のサイズの群れが多い。

そういう巨大な群れを見るわりに、スーパーの鮮魚コーナーでは

ボラを見ることはない。

これには地域性があり、普通にボラを取り扱っている地方もある。

自分の住んでいる、関西ではこれを食べない。

釣りをしていて、たまたま釣れてしまった場合でも、

よほどの物好きでなければ、これを食べない。

だから関西の防波堤を歩いてみると、たまにボラが捨てられていることがある。

ボラ。

漢字で書くと「鯔」となる。

鼻先は平たく、口は小さい。

魚体は断面がほぼ逆三角形で、背中が平べったいのが特徴だ。

成長していくにつれて、名前が変わっていく、出世魚だ。

関西では、ハク→オボコ→スバシリ→イナ→ボラ→トド、となる。

関東では、オボコ→イナッコ→スバシリ→イナ→ボラ→トド、となる。

東西を問わず、ほとんど同じ呼称が使われている。

もっとも現在では、サイズによる呼び替えをせず、

ただ「ボラ」ですますことも多い。

国内では、北海道以外でよく見かける。

淡水域や、汽水域の河口付近で、見かけることが多いが、

もちろんれっきとした海水魚である。

汚れた水にも適応するので、都会のドブ川のような場所でも普通に生きていける。

雑食性で、藻類なども食べるが、アミエビやオキアミなどの

動物性の釣り餌にも食いついてくる。

ボラは、江戸時代から縁起の良い魚として、親しまれた。

「お食い初め」にボラの尾頭付きを膳に添えたが、

これは子供がトントン拍子に出世することを、祈ってのことだ。

また江戸3大祭りのひとつ、神田明神の祭りは、旧暦の9月15日であるが、

神田明神の神輿は江戸城内まで入っていった。

このとき、神輿の道筋の店は、店先に金屏風を立て、お神酒を振る舞った。

金屏風の無い店は、祭りの時だけ借りてきたが、

これを返す時には、スバシリを添えて返すのが、習わしだった。

ボラはほぼ1年中見ることができるが、旬は秋から冬にかけてである。

食べ方としては、酢味噌で食べる刺身や洗い、なますや塩焼きも美味であり、

天ぷらにしても美味しい。

ただ、腸をうまく傷つけないようにして、とらないといけない。

特に夏のボラの腸は悪臭を放ち、

これを潰すと、臭くて食べられなくなってしまう。

これもボラが悪食で、何でも食べることが原因である。

そんなボラの腸の中でも、胃はよく洗って塩焼きなどにすると、

こりこりとした食感があり、酒の肴に最適である。

これは「ボラのへそ」とか、「ソロバン」などと呼ばれる。

「胃」といっても、幽門部分の発達した筋肉で、

ボラは泥と一緒に餌もここですりつぶし、栄養分のみを吸収する。

ボラの腸が泥臭いのは、このためである。

もっとも、内臓を取り除いた後に、しっかりと流水で身を洗えば、

臭いも大半は落ちてしまうので、普通に食べられる、という人もいる。

どっちにしても、水質のよくない所でとったボラは、臭いがキツいことが多い。

このようにボラは、我々の身近にいる魚で、決して高級魚ではない。

というよりは、どちらかといえば大衆魚の部類に入るだろう。

しかし、いざその卵、となった場合、話は違ってくる。

江戸時代、天下の三大珍味といわれたものが、越前のウニ、三河のコノワタ、

そして長崎野母のカラスミである。

このカラスミが、ボラの卵で作られている。

カラスミは「唐墨」と書く。

日本の墨は長方形をしているが、中国の墨は端が丸くなっていた。

ボラの卵巣を数日間塩漬けにし、一昼夜ほど水に浸して塩を抜く。

それを板に挟み、軽く重しをして水を切って、形を整える。

これを、10日ほど天日に干して作る。

なお、かつては鰆の卵巣で作られた、安いカラスミもあった。

今でも長崎産のものがもっともよいとされ、ちょっといいものになると、

桐の箱に入れられ、10000円以上の値段がつく。

ネット通販で調べてみたが、もっとも高いものでは、

100gあたり13500円もする。

高級牛肉も、真っ青だ。

ボラを使った変わった料理として、「イナまんじゅう」というものがある。

これはイナ包丁と呼ばれる専門の道具で、イナのエラから内臓と背骨を取り出し、

そこにできた空洞に、味噌、ゆず、ネギ、椎茸などを混ぜ込んだものをつめ、

これを焼いたものである。

イナ包丁の扱い方は難しく、これを作るには高い技術が必要となる。

愛知県名古屋南部で作られた、伝統的な郷土料理である。

昔、うちの近くにあったスーパーの鮮魚コーナーで、

ボラの刺身のパック詰めを見たことがあった。

当時は、ボラの刺身など、買って食べる人がいるのか疑問だった。

それから10年以上、すでにそのスーパーはつぶれてしまった。

現在では、どこを探しても、ボラの刺身は売っていない。

今では、あのとき買って試してみればよかったと、ちょっと後悔している。

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