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佐川芳枝「寿司屋のかみさん」シリーズ

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「寿司」に、悪いイメージを持っているという人は、
少ないだろう。
だが、「寿司屋」に悪いイメージを持っているという人は、
かなり多いかも知れない。

自分自身、寿司が好きなので、
このブログのテーマの中にも「寿司」を取り上げたものが、
何本か存在しているのだが、
それらをよくよく見てみると、
一度も「寿司屋」に行ったと書かれていない。
それも道理で、何故なら自分は、
これまで「寿司屋」に行ったことが、1度しかないからである。

ここでいう「寿司屋」とは、もちろん「回転寿司」のことではない。
俗にいう「廻らない寿司屋」のことである。
店の中に入ると、ガラスケースのついたカウンターがあり、
その中には様々なネタが、所狭しと並んでいる。
カウンターの中には、寿司屋のオヤジさんがいて、
こちらの注文に応じて、寿司を握ってくれる。
かつては、世間一般で言う「寿司屋」とは、
そういう店のことを言うのであって、
店の中に長いベルトコンベアーが張り巡らせられており、
その上を、小さな皿に乗った寿司が、
ゆっくりと流れている「回転寿司」というのは、
そういう本来の「寿司屋」から見れば、
鼻で笑われるような存在だったのである。

自分が、回らない「寿司屋」に行ったのは、
小学生のころのことである。
姫路に住んでいる親戚の所に遊びにいった際、
そこのおじさんが、寿司屋へと連れて行ってくれた。
もちろん、超高級な店というわけではなく、
ごく普通の、町の「寿司屋」である。
そこで、ごく普通の「にぎり1人前」を食べさせてもらった。
後にも、先にも、普通の「寿司屋」で
寿司を食べた経験というのはこれっきりで、
それ以外は、「回転寿司」に食べに行くか、
スーパーや小僧寿司で買って食べるか、
家で作った寿司しか、食べたことがない。
あのとき、親戚のおじさんが
「寿司屋」に連れて行ってくれなければ、
恐らく未だに、「寿司屋」に入ったことがないまま、
人生を送ってきていたことだろう。

そもそも我が家にとって寿司とは、
店に食べに行くものではなく、家で作るものであった。
巻き寿司はよく作っていたし、
ちらし寿司もよく作っていた。
稀にいなり寿司も作っていたし、
にぎり寿司でさえ、家で作っていた。
家で作らなかった寿司といえば、バッテラやアナゴの押し寿司、
後は鮒寿司のような、なれ鮨だけである。
よくよく思い返してみれば、
家族で「寿司屋」に行ったことはないし、
「回転寿司」にすら、1度しかいったことがない。
(まあ、自分が子供のころは、
 まだ「回転寿司」自体が少なかった時代だったのだが……)
つまり、自分にとって「寿司屋」のイメージというのは、
ほぼ、TVの情報番組や、小説やマンガなどのフィクションによって、
築き上げられたものなのである。

では、そんな自分の「寿司屋」のイメージとはどんなものか?
まず、値段が高い。
食べる順番、食べ方など、しきたりにうるさい。
オヤジは頑固で、気に入らないことがあれば睨んでくる。
ウマい。
……こんな所であろうか。
ウマい、以外はロクな所がない。
もちろんこれは、今までまともに
「寿司屋」に行ったことのない人間が、
世間で漏れ聞く情報だけを元に作り上げた、
「寿司屋」のイメージである。
「蕎麦屋」のイメージもコレに似ているが、
ものが蕎麦だけに、値段が高いといっても、
それほど大したことがなく、まだ敷居が低い。
「うなぎ」の場合も「高い」イメージがあるが、
それでも、5000円も払えば、ほとんどのウナギ屋で
ハイエンドな「うなぎ」を食べることが出来る。
「寿司屋」の場合、5000円はスタートライン的な感じがある。
コレではさすがに、気軽に「寿司屋」に行こうという気には
ならないだろう。
近年、「回転寿司」人気が爆発的に高まっているというのは、
自分と同じようなイメージを持っている人間が、
かなり多いということではないだろうか。

そういう「寿司屋」の実情を、ありのままに綴ったエッセイが
「寿司屋のかみさん」シリーズである。
作者である佐川芳枝は、現役の「寿司屋」のおかみさんで、
寿司職人であるご亭主と2人で、小さな寿司屋を切り回している。
そんな「寿司屋」のおかみさんが、毎日の生活の中から、
心に残った様々な出来事を書き綴ったものが、このシリーズで、
現在、12冊ほど発刊されている。

お店にやってくる、個性的なお客さんたち。
季節ごとに変わる魚たちと、
それから生み出される、数々の寿司と料理。
「寿司屋」という特殊(?)な職業に起こる、
様々な出来事と、その生活。
このシリーズを読んでいると、ああ、「寿司屋」も我々と同じ、
普通の人間なんだなぁと、認識させられる。(当たり前だが……)

「寿司屋」という、食べ物を扱う仕事について書いているため、
話の中には、寿司、魚介類を始めとした様々な食べ物が出てくる。
他の作家や、エッセイストなどが書いている文章と違い、
日々、それらの食材を扱っている人間の書いている文章だけあって、
その描写は、淡々としているのに、真に迫ったものがある。
シリーズの中には、おつまみやメニューなどを
詳しく紹介しているものもあり、
それを見ていると、寿司屋と思えないような
意外なメニューが載っていたりする。
そりゃ、「寿司屋」と言ったって、
普通に生活している人間なんだから、肉も食べれば、野菜も食べる。
魚ばっかり食べているなんていうのは、
他所から見ている人の、勝手な思い込みだろう。
ただ、それらのメニューが、
ひとつひとつ、丁寧に作られているのを見れば、
ああ、この辺りが江戸前の「寿司屋」の仕事なのか、と、
感心してしまう。

この「寿司屋のかみさん」シリーズが発行され、
おかみさんの「寿司屋」には、本を読んだという人たちも、
やってくるようになった。
その中には、内閣総理大臣・橋本龍太郎もいたというのだから凄い。
(そのエピソードについても、話の中で取り上げられている)
そんなことがあっても、おかみさんの「寿司屋」は変わらず、
ご主人と2人で、せっせと寿司を作り、お客さんを迎え続けている。
(現在は息子さんが2代目として入店し、
 親子3人で営業しているようである)
そんな「寿司屋」の姿は、自分の「寿司屋」観を、
かなり平和なものにしてくれた。
おかみさんの「寿司屋」に、読者たちがやってくるというのも、
作中の平和な「寿司屋」を体験してみたい、ということだろう。

そういう意味では、このおかみさんは、
「寿司屋」という仕事のイメージアップに、
大きく貢献していることになる。

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