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万願寺とうがらし

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先週の日曜日、地区の草刈りがあった。

地区の草刈り、なんていうと、
なんてことの無いように聞こえてしまうが、
この時期の草刈り作業は、かなりキツい。
何がキツいといって、朝からグングン上がる気温と、
頭の上からガンガンに照りつけてくる太陽である。
何よりキツいのは、深い草むらの中で作業をするため、
長袖のシャツに、長靴と、かなりの重装備を必要とすることだ。
そんな格好をして、炎天下の元で作業するのだから、
これがキツくならないわけがない。
作業開始は、朝の7時30分という、比較的涼しい時間帯だが、
すでに太陽は頭上にあって、ジリジリと焼き付いてきている。
各自、刈り払い機を使って草を刈ったり、
熊手を使って、刈った草をかき集めたりと重労働が続く。
ほんの1時間もしないうちに、体中は汗でグショグショになり、
帽子をかぶっているはずの頭は、どこかボンヤリとしはじめる。

さすがに、そのまま作業を続けていると、
熱中症で倒れる人間が出てくるので、
1時間ほどで休憩が入り、冷たい飲み物が配られる。
これを飲んで、15分かそこら休憩をした後は、
再び炎天下の元での草刈り作業である。
太陽はますます苛烈に照りつけ、
まるでこちらを焼き殺そうとでもしているみたいだ。
やがて10時前になると、それぞれ作業を切り上げて、
集合場所に集まる。
ここで地区長の話を聞いた後、
各自、飲み物を1本貰って解散というのが、
我が地区の「草刈り作業」の、いつもの流れである。
途中休憩の際に配られるのは、大方がお茶などの清涼飲料水だが、
作業終了後に配布されるのは、ビールなどのアルコールである。

普段、全くアルコール類を飲まない自分にとって、
このとき、手渡されるビールは、
貴重な飲酒の機会を与えてくれる一杯である。
自宅に帰った自分は、ビールを冷蔵庫の中に放り込み、
汗でぐっしょりとなった服を脱いで、風呂場に駆け込む。
ここで頭から水をかぶり、充分に汗を流してはじめて、
ホッと一息をつくのである。

風呂場から出てきた自分は、扇風機にあたりながら
冷えたお茶を飲む。
冷蔵庫の中のビールは、まだまだ冷えていない。
これは夜のお楽しみ、ということになるのだが、
なんといっても普段、アルコールを飲みつけていないので、
350mlのビールを一缶飲むのにも、
何かツマミがいる、ということになる。
毎回、色々とツマミを変えて、数少ない飲酒を楽しんでいるのだが、
さすがにそろそろ目新しいモノを、思いつかなくなってきた。
こうなると、夜までの間、何をツマミにしようかと、
頭を悩ませ続けることになる。

その日の午後、そんなことを考えながら
土日だけ開催されている近くの「産直市」へと出かけていった。
こちらの方は、地元の農家が自主的に作物を持ち寄って
開いているもので、規模は小さいものの、
スーパーなどに比べると、値段は安く、量も多い。
自分などは、もうすっかり週末ごとに、これを覗きにいくほど、
常連になってしまっているのだが、
その日、並んでいた野菜の中に「万願寺とうがらし」をみつけた。
「ししとう」よりも随分サイズの大きい「とうがらし」が、
透明なビニール袋にパンパンに詰まっていて100円である。

思えば、長らく、この手の「とうがらし」を食べていない。
昔、婆さんが家に居たころは、毎年、夏になると
それこそ食べきれないほどの「ししとう」を作っていたものだが、
婆さんがいなくなってからは、とんと食べることが無くなっていた。
どうも、毎年、イヤというほど食べさせられていたおかげで、
スーパーで見かけても、わざわざ買ってきて
食べようという気にならない。
もっとも、婆さんが畑を作っていたころは、
まだまだ「万願寺とうがらし」など一般的ではなく、
「ししとう」ばかりを食べさせられていたのだが……。
「ししとう」をフライパンで焼き、これに醤油をかけて食べる。
全くシンプルな調理法であるが、暑い夏でもグングンと飯が進んだ。
(まあ、若かったということもあるのだろうが……)
そんなことを思い返していると、ふと、
冷蔵庫の中に入れている缶ビールのことが、頭に浮かんだ。
この「万願寺とうがらし」を同じように焼けば、
ちょうどいい、ビールのツマミになるかも知れない。
そう考えた自分は、早速1袋、「万願寺とうがらし」を購入した。

「万願寺とうがらし」は、京都府舞鶴市発祥の京野菜の1つである。
大正時代末期から昭和初期にかけて、江戸時代から栽培されていた
「伏見甘長とうがらし」と、アメリカから導入されたピーマン
「カリフォルニア・ワンダー」の交雑によって誕生した。
親である「伏見甘長とうがらし」もまた京野菜の1つで、
見た目は「万願寺とうがらし」と似ているものの、
サイズは「万願寺とうがらし」の方が大きく、ふっくらとしている。
この大きさから「とうがらしの王様」と呼ばれることもある。
果肉は大きくて厚みがあり、肉質がピーマンよりなため、
かなり食べやすくなっている。
「万願寺」という名前に関しては、
舞鶴の万願寺地区で生まれたために、つけられた名前で、
地元では「万願寺」「万願寺甘」「万願寺甘唐」などと呼ばれている。

「ししとう」の場合、たまに辛いものが出来たりするが、
もともと「万願寺とうがらし」も、同じように辛いものが出来たり、
紫色に発色するものが、出来たりしていた。
だが、品種改良が進められていき、
2007年には「京都万願寺1号」が品種登録、
2011年には「京都万願寺2号」が品種登録され、
翌年には、JA京都にのくに管内(舞鶴市、綾部市、福知山市)の
露地栽培ものが全て、この新品種に切り替えられた。
この新品種に変わった後は、辛いものや紫色に変色するものの数が、
ほとんど無くなったという。
もちろん「万願寺とうがらし」も「唐辛子」の一種なので、
緑色のものを収穫せずに放置しておけば、
本家の「唐辛子」と同様に、赤く変色してしまう。
このようにして赤く変色した「万願寺とうがらし」は、
「赤万願寺」と呼ばれて、市場に流通することになる。
真っ赤に変色した「万願寺とうがらし」は、
いかにも辛そうなイメージだが、実際にはほんのりと甘味が出て、
全く辛さを感じさせない。
どちらかといえば「唐辛子」というよりは、
「赤ピーマン(パプリカ)」的な性質が強いようである。
赤い「万願寺とうがらし」は、味も良く、発色も良いのだが、
どうしても赤く熟すまでに時間がかかってしまうので、
その分だけ、価格も高くなっている。

さて、「産直市」で「万願寺とうがらし」を購入した自分は、
早速、その夜、これを焼いて、ビールのツマミにすることにした。
フライパンを充分に熱した後、ゴマ油をひいてから
そこに「万願寺とうがらし」を上手く並べていく。
後は中火のまま、ときおり箸で「万願寺とうがらし」を
ひっくり返せばいい。
ものの1〜2分もあれば、充分に火を通すことが出来る。
この際、ヘタやら、中のタネやらについては全く気にせず、
そのままフライパンで丸焼きにすればいい。
買ってきた「万願寺とうがらし」は、結構な量があるので、
2回に分けてフライパンで焼き上げる。
熱いフライパンに接触していた部分は、まず白っぽく変色し、
その後、黒く焦げ目がつく。
両面に適度な焦げ目がついたときが、
焼き上がりのタイミングだ。
焼き上がった「万願寺とうがらし」を皿に盛りつけ、
ビールとグラス、醤油を用意する。
もちろん、ビールはキンキンに冷えている。
缶のフタを開けて、グラスにビールを注ぎ、
一口ビールを飲んだ所で、「万願寺とうがらし」に箸を伸ばす。
口の中に放り込んで咀嚼すると、香ばしさ、辛み、甘味、
そしてピーマン類独特のわずかな青臭さが、口一杯に広がる。
「唐辛子」と名前がついているものの、
「唐辛子」らしさは全く無いといっていい。
安心して、どんどん食べ進めていったのだが、
今回食べた「万願寺とうがらし」の中に1つ、
ちょっと辛みの強いものがあった。
20本ほどある「万願寺とうがらし」のうち、
わずかでも「ししとう」のような辛さを見せたのは、
たった1本だけである。

子供のころは、辛い「ししとう」に当たると、
正直、ババを引いたように感じたものだが、
現在では、辛い「万願寺とうがらし」に当たると、
ちょっと得したような気分になった。

この辺りの味覚の変化が、
「大人になった」ということなのかも知れない。

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