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雑感、考察

赤潮

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先日、図書館に行くために自転車で走っていると、
道の傍の池の水が、赤く染まっていた。

染まっていた、といっても水自体が赤くなっていたわけではなく、
池の水面に赤い膜状のものが浮かんでいたのである。
自分が子供のころ、社会的問題として
大きく取り上げられた「赤潮」である。
海ではなく、淡水の池で発生したものを
「潮」と呼んでいいのかどうかはわからないが、
水面に濁った赤い色が浮かんでいる姿は、
まさしく、子供のころ、社会科の教科書に載っていた
「赤潮」そのものであった。

子供のころ、学校で教えられた「赤潮」は、
かなりヤバいヤツであった。
瀬戸内海一面が、かなり広い範囲に渡って赤く染まり、
養殖場では、「赤潮」によって呼吸することが出来なくなった
ハマチなどが全滅して海面に浮かんでおり、
まさに、海の地獄そのものといった風であった。
教師がいうには、家庭で使っている洗剤などの影響により、
海の水が富栄養化し、それによってプランクトンが大量発生、
それが海面を覆いつくす、
というのが「赤潮」のメカニズムだった。

では今回、自分が見た池での「赤潮」は、どうして発生したのか?
問題の池は、かつて「ヌートリア」の回でも出てきた小さな池で、
山の谷間のような場所に、ひっそりと存在している。
近くに生活排水や、工場排水を垂れ流す環境もなく、
その池に流れ込んでくるのは、山に降った雨が
小さな流れとなって流れ込んでいる、流れ込みだけである。
いわば、自然の水しか、流れ込んでこない池だ。
そんな池に、プランクトンが大量発生したというのだろうか?

だが、そんな環境にある池だといっても、
水はきれいに澄み通っていたわけではない。
「ヌートリア」の回でも書いた通り、
どういうワケか水は白く濁っていた。
ひょっとしたら、山の泥か何かが、流れ込んでいたのかも知れない。
だとすれば、その泥などに混じって、
天然の栄養素が池の中に流れ込み、
池の水を富栄養化させていた可能性は、否定できない。
池の水は、雨が降ればそれが流れ込み、水位が上がるが、
そうでないときは、ほとんど流れ出ることもなく、
自然に水が蒸発していくのを待つだけの、ため池である。
そういう環境であれば、水位があれば
それほど富栄養化していない水が、蒸発し濃縮されることによって
次第に富栄養化していくというのは、考えられないことではない。
それによって富栄養化した池の水は、
植物性のプランクトンを大量発生させ、
「赤潮」を発生させたのではないだろうか?

その池は、稀にヌートリアなどが姿を見せるものの、
魚などが生息している池ではない。
毎年、水田に水を張る季節になれば、
その水を全て汲み出されてしまうので、
水中生物は生きていくことが出来ないのである。
そんな池であったためか、今回、「赤潮」が発生しても、
水面いっぱいに魚の死骸が浮かぶということは、起こらなかった。
逆にいえば、その池の生態系は、
植物プランクトンや動物プランクトンは繁殖できるものの、
それらを食べる生物たちが、ほとんど生息しないため、
生態系ピラミッドの底辺部分のみで形成されているのかも知れない。
だとすれば、プランクトンにとっては
捕食者の少ない環境ということになり、
そのため、プランクトンが爆発的に増殖して
「赤潮」を発生させたのだろう。

このプランクトンの異常発生により
海面が覆いつくされる現象は、一般的に「赤潮」と呼ばれているが、
実は他に、水面の色によって、他の呼ばれ方をすることもある。
海面が白くなれば「白潮」、緑になれば「緑潮」、
池などの淡水環境で、水面が緑色の微細藻類に覆いつくされれば
これを「青粉(アオコ)」と呼んでいる。
さらに、同じように水面がブルーに染まる
「青潮」という現象があるが、
これはプランクトンによるものではなく、
海水に含まれる硫黄が、コロイド化して起こる現象である。
一見、「赤潮」とは全く別のものにも思えるが、
原因となる硫黄が、大量のプランクトンの死骸から
発生することを考えると、
やはりその根本的な原因は、海水の富栄養化であり、
その点は「赤潮」と同じであるといえる。
赤、白、緑、青と、カラフルな現象であるが、
どれも結構、シャレにならない現象なのである。

「赤潮」などと聞くと、いかにも公害とか、
環境悪化などという言葉が浮かんでくる。
なるほど、自分が子供のころに騒がれていた「赤潮」は、
合成洗剤などに含まれていたリン酸塩が、その原因と目され、
各家庭で合成洗剤を使わないようにしたり、
下水道を完備して、家庭排水が
そのまま海に流れ込まないよう、その対策が練られた。
もっとも、自分が見たように、
家庭排水などの流れ込まないため池などでも、
「赤潮」が発生することもあるし、
奈良時代に書かれた「続日本紀」には、
天平3年(731年)6月13日に、和歌山県沿岸で海の色が
5日間に渡り、赤く染まったことが記されている。
これなどは「赤潮」のことだと思われるが、
奈良時代に合成洗剤などが存在しているはずがない。
そうなると、この「赤潮」は、
全くの自然現象として、たまたまプランクトンが大量発生し、
海面を染めたことになる。
ただ、こうして記録に書き残されている所を見ると、
当時、海が赤く染まる「赤潮」は、
相当に珍しい現象だったようだ。

では、下水道が大幅に増やされ、
家庭排水がそのまま海に流れ込むことが、ほとんど無くなった現在、
「赤潮」は発生しなくなったのだろうか?
もちろん、合成洗剤など存在していなかった時代から
「赤潮」が発生していたという、先の話からすると、
これを根絶してしまうのは不可能だろうが、
かつての「赤潮」発生頻発期に比べると、
その数は減っているはずである。
瀬戸内海沿岸に接している、香川県の「赤潮」発生件数を見ると、
「赤潮」発生頻発期であった昭和50年前後には、
年間40回ほど「赤潮」が発生しているが、
それ以降は年間10〜20回の発生件数のまま、
30年ほど推移してきている。
思ったほどに「赤潮」は、減っておらず、
現在でも、結構、あちこちで発生しているのである。

古来より、海を赤く染めてきた「赤潮」。
人類は、いつかこれを根絶することが出来るのだろうか?

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