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杏仁豆腐

更新日:

世の中には様々な種類の「豆腐」がある。

もちろん、豆乳を「にがり」で固めたものが、
本来の意味での「豆腐」であり、
これには「木綿豆腐」「絹ごし豆腐」「おぼろ豆腐」などがある。
それぞれに、若干の製法の違いはあるものの、
どれも大豆をすりつぶして作った「豆乳」を、
「にがり」によって凝固させたものである。

その一方で、まったく「大豆」を使っていない「豆腐」もある。
「ゴマ豆腐」や「玉子豆腐」などがそれである。
「ゴマ豆腐」はすりつぶしたゴマを、葛などで固めたものだし、
「玉子豆腐」はダシを加えた卵液を、温めることで固めたものだ。
両者ともに、「豆腐」の要素は全く持ち合わせていないが、
その形状が「豆腐」に似ているため、
「豆腐」の名前を冠しているのである。

今回のテーマである「杏仁豆腐」もまた、
まったく「大豆」を使っていない「豆腐」である。
日本ではもっとも有名な中華デザートである「杏仁豆腐」。
はたして、どういうものなのだろうか?

日本で「杏仁豆腐」といえば、甘いシロップの中に
白い豆腐状のものが浮かんでいるものを思い浮かべる。
日本のみつ豆のように、
カットフルーツなどが入れられることも多いのだが、
本来、「杏仁豆腐」というのは、
この白い豆腐状の物体のことをさす。
これを掬って口に入れてみると、
独特の風味と甘さが口の中に広がる。
口当たりは豆腐のそれではなく、むしろゼリーや寒天のそれだ。
それもそのはずで、この白い物体は牛乳やコンデンスミルクなどを
寒天で固めたものなのである。
砂糖も使われているため、甘い味がする。
しかしこれだけでは、ただの牛乳寒天である。
「杏仁」要素はどこにあるのか?
ここでちょっと、先に書いた部分を読み返してみてほしい。
「独特の風味」とあるのに気がつくだろう。
そう、この「独特の風味」こそが、
「杏仁」によるものなのである。

ここで、疑問を持つ人もいるだろう。
そもそも「杏仁」って、なんだ?と。
物の本の中には、「杏仁」と書いて
「アーモンド」とルビをふっているものもある。
そういうものを見て、
ああ、杏仁ってアーモンドのことなんだな、と思っている人も
いるかもしれない。
たしかに市販の「杏仁豆腐」の中には、
アーモンドエッセンスを使って、風味をつけているものもあるが、
本来、「杏仁」とはアーモンドのことではない。
「杏仁」の「杏」とは、アンズのことを指している。
アンズとは英名でアプリコットと呼ばれるもので、
中国では「唐桃」とも呼ばれている。
ただ、このアンズの果肉が使われているわけではない。
「杏仁」の「仁」というのは、アンズの種の中の部分のことで、
これを粉末化したものが
「杏仁(きょうにん)」と呼ばれる。
これは本来、漢方薬として用いられているものである。
この「杏仁」には苦みがあり、
これを少しでも服用しやすいようにと考えられたのが、
「杏仁豆腐」なのである。
アンズとアーモンドは、もともと非常に近い品種であるのと、
杏仁もアーモンドも、ともに種子部分なので、
似たような味がしており、
そのため「杏仁」=「アーモンド」という誤解もあるのだろう。
ちなみに「杏仁」を使った「杏仁豆腐」には、
「杏仁」の薬効があるが、
「アーモンドエッセンス」を使用した「杏仁豆腐」では、
薬効は全く期待出来ない。

「杏仁」が、中国で用いられてきた歴史は古い。
「三国志」で有名な三国時代(220~280年)、
建安三神医と呼ばれた1人、董奉は
廬山で多くの患者を治療していたのだが、
彼は一切治療費をとらず、
「もし治ったら、アンズの木を植えてください」と言っていた。
この言葉に従い、治った患者たちが
アンズの木を植えていったので、
やがて広大なアンズの林が出来上がった。
董奉は、このアンズから採れた「杏仁」を使い、
患者を治療していった。
一説によれば、「杏仁豆腐」もこの「杏仁」を使い、
董奉が作り出したという話もあるが、
さすがにこの話は出来過ぎだろう。
現在の「杏仁豆腐」は、寒天やゼラチンで固められているので、
素材的に言えば、これらが発明されるまでは、
「杏仁豆腐」を作ることが出来なかったことになる。
寒天は1644年に日本で作られ、
ゼラチンはアヘン戦争終結後の19世紀中期以降に
中国へと持ち込まれた。
日本と中国間では、江戸時代でも貿易が行なわれていたので、
寒天も17世紀には中国に伝わっていただろう。
恐らくはそれ以降に、「杏仁豆腐」は作られた筈である。

実は、「杏仁豆腐」には地域性がある。
中国の北と南で、「杏仁豆腐」の形状が変わるのである。
日本でもお馴染みの、白い牛乳寒天が
シロップに浮いているものが中国北部の「杏仁豆腐」、
一方、中国南部の「杏仁豆腐」は軟らかく、
プリンか、固めのヨーグルトに近い形状になっている。
これは、使われている凝固剤の違いから来ており、
中国北部の「杏仁豆腐」が寒天やゼラチンで固めているのに対し、
中国南部では、コーンスターチを用いているためである。

面白いことに、最近の「杏仁豆腐」のレシピを見ていると、
牛乳やコンデンスミルクでなく、
「豆乳」を使ったものがいくつかある。
もちろん、「にがり」を用いて固めるのではなく、
ゼラチンや寒天、コーンスターチを使って固めるのだが、
より、本物の豆腐に近くなっているのは確かである。
近年の「健康志向」からきたものなのは間違いない。

「豆腐」を名乗りながら、
まったく「豆腐」に関係のなかった「杏仁豆腐」が、
時代の流れで、本物の「豆腐」に近くなっていくことは、
面白い現象と言わざるを得ない。

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