「お笑い」というものに、あまり興味がない。
世の中で流行っているギャグ、というものには凄く鈍感だし、
お笑い芸人にも、全くといっていいほど、関心がない。
TVの「お笑い番組」や「バラエティー番組」なども、
ほとんど見ることがないので、その方面の話題に関しては、
他人についていくことが出来ない。
かつて見ていたお笑い番組といえば、
「お笑い!マンガ道場」か「笑点」くらいのもので、
「笑点」に関しては、随分と前に見るのを止めてしまい、
笑点メンバーに関しても、
随分、古いメンバーの顔しかイメージできない。
どちらの番組にしても、すでに何人かの物故者が出ているが、
それらが元気だったころの記憶しか、残っていないのである。
(「お笑い!マンガ道場」は、そういう例を待たずに、
相当に古いテレビ番組であるが……)
笑えるものが嫌いか?と、言われれば、
決してそんなことはないと答えるしかない。
小説にせよ、マンガにせよ、ドラマにせよ、映画にせよ、
笑える作品というのはどれも好きであるが、
「お笑い」のように、「笑う」ことだけを目的としているものは、
イマイチ、すすんでみてみようと言う気にはならない。
当然、「漫才」というものについても、
ほとんど、これを見ることはなく、
見るとしても、せいぜいお正月の「新春お笑い番組」で、
他に見るものがなく、仕様がなしに見る程度のものであった。
そういう自分が、この「The MANZAI」というタイトルの小説を
手に取ることになったのは、入院中、
かなり暇を持て余していたからである。
そういうときに、たまたま読める状況にあったため、
ふと、その第1巻を手に取って、読み始めてしまった。
「ジャイブ」という出版社が、
ピュアフル文庫という名目で出版している、文庫本サイズの小説で、
どちらかといえば、子供向けの感がある。
活字も大きく、文字数も少ないので、
すいすいと読み進めることが出来る。
当初、といっても本を手に取るまでの話だが、
自分はそのタイトルを見て、
漫才のネタを書いてある、台本形式の本なのかと思っていた。
まあ、全く勝手な、こちらの思い込みだったわけだが、
読み始めてみると、どうも自分の思っていた物とは毛色が違う。
中学生と、その周りの人間たちを中心にした、
ごく普通の小説である。
主人公はふとしたことから、不登校になってしまい、
それがきっかけとなって家族の間もギクシャクしてしまう。
姉が両親のケンカの仲裁に入り、頭を冷やさせるために
父親をドライブに連れ出すのだが、交通事故にあってしまい、
主人公は父親と姉を亡くしてしまう。
かなりハードな環境である。
残された主人公と母親は、母親の兄弟を頼って新しい町にやってくる。
物語はそこから始まっている。
新しい学校での、新たな出会いを通じ、
主人公は「漫才」に巻き込まれていく。
そう。
主人公は、自分の強い意志によって
「漫才」の道に邁進していくのではなく、
相方となる少年に巻き込まれるようにして、
「漫才」に絡んでいくことになる。
タイトルは「The MANZAI」となっているものの、
実は以外と「漫才」をしているシーンは少ない。
あくまでも「漫才」というのは、1つのツールであり、
物語の本質は、主人公とその周りの人間たちの生活を描いたものだ。
前述したような理由から、心を閉ざしかけている主人公が、
ある1人の少年との出会いによって、少しずつ変化していく。
この物語は、その過程を描いたものなのである。
とはいっても、物語自体はそれほど堅苦しいものではない。
登場してくるキャラクターたちは、皆、一癖、二癖はあるものの、
楽しいキャラクターばかりだし、
物語の語り手である主人公も、至極軽妙な語り口である。
特に、主人公と相方の少年との会話(と、いうか掛け合い)は、
万事、「漫才」じみていて、読んでいるものを笑わせてくれる。
作者である「あさのあつこ」は、
児童文学を多く書いている作家であり、
野間児童文芸賞、日本児童文学者協会賞、
小学館児童出版文化賞などを受賞している。
岡山県英田郡美作町出身、在住であるため、
播州人としては、わりと親近感を感じる。
(岡山県英田郡美作町は、兵庫県と岡山県の県境にあり、
兵庫県川の佐用町と隣接している)
同姓同名の女優がいるが、その女優と混同されないため、
ペンネームを平仮名にしているのだが、
正直、初めてその名前を見たときは、
やはり浅野温子の方を、思い浮かべてしまった。
居住している岡山県北部美作町近辺が、
発展から取り残されていることに、憤りを感じているらしく、
新聞のインタビューや、県知事選の際にも、
批判的なメッセージを出している。
そういう視点でいうのならば、美作町に隣接している
兵庫県の佐用町や、宍粟市、上郡町なども、
同じく発展から取り残されているといえる。
(もっと大胆にいえば、姫路市以西は
発展から取り残されているともいえるかも知れない。
個人的にいえば、発展することが、
単純に「いいこと」とも思っていないので、
特に批判的な気持ちは持っていないが)
シリーズは、全部で6冊発刊されており、それで完結している。
4巻のオビには、「祝・映画化決定!」の文字があり、
5巻のオビには、
「シリーズ200万部突破!映画化も着々進行中」とある。
ところが、シリーズ最終巻である6巻のオビになると、
「映画化」の文字は無くなってしまい、
「卒業……2人の思いが試されるとき」と、
6巻の内容とも微妙にずれた、
やや、ボーイズラブ臭を漂わすアオリ文だけになっている。
(6巻開始時点で、すでに卒業式は済んでおり、
卒業式自体が描かれることはない)
調べてみた所、映画化の話は途中でポシャってしまったのか、
2016年現在、映画化は未だ果たされていない。
(4巻は、2007年11月に初版が発行されている)
映画になった「The MANZAI」も、見てみたかっただけに、
なんとも残念なことである。