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餅〜その1

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今回の記事は、昨年末に書いたものなのだが、
もろもろの事情があって、掲載できなかったものだ。
そのため、ちょっと時期的に合っていない話になっているが、
その点には目をつぶって、読んでいただければ幸いである。

先日、自転車で市内を走っていると、ある米屋の店先に

「お正月 餅 注文承ります」

と、毛筆で大書された張り紙が、貼り出されていた。
ああ、今年もそんな季節なんだなー、と
年末の空気をひしひしと感じたのだが、
よくよく考えてみれば、もともと我が家にとって「餅」といえば、
どこかの店で買って来るものではなく、
年末に「家で搗く」ものであった。

年末も押し迫ってくると、
母親が大きな袋で餅米を買ってくる。
これを研いでバケツの中に入れ、
そこに水を入れて一晩給水させる。
翌日、押し入れの中にしまい込まれていた
「電動餅つき機」が引っ張り出され、
これによって餅が製作される。
この「電動餅つき機」というのは便利なもので、
この中に適量の水と、吸水済みの餅米を入れると
自動で蒸し上げてくれる。
「電動餅つき機」からは、
餅米の蒸されるいい匂いが立ちこめてきて、
いやが上にも、年末気分が掻き立てられることになる。
餅米が蒸し上がるとブザーが鳴り、これを知らせる。
これを聞くと、我が家の3兄弟は台所に集まり、
餅つき機の釜の中の、蒸し上げられた餅米を眺めはじめる。
母親が「電動餅つき機」の「搗く」のスイッチを入れると、
とたんに餅つき機はゴッ!ゴッ!ゴッ!ゴッ!と、
音をたてて振動しはじめる。
一見すると、釜の中の餅米たちは全く変化が無いように見える。
しかし、ものの数分もすると釜の中の餅米はひとまとまりになり、
ボッテ、ボッテと、釜の中を回転しはじめる。
やがて米の粒が無くなっていき、ひとかたまりになった餅が
釜の中で踊るように回転することになる。
こうなってくると、子供たちは大喜びだ。
刻一刻と、餅へと変貌していく「それ」を眺めながら、
この後の餅料理の数々に思いを馳せる。
「電動餅つき機」の釜の中で、
ツヤツヤとしてうごめく真っ白な餅。
ついつい指で突いてみて、母親に叱られたものである。

やがて再び餅つき機がブザーを鳴らし、
餅が搗き上がったことを知らせてくれる。
そうすると、母親が餅つき機から釜を取り外し、
餅とり粉をひいた、大きく平べったい桶の中に、
釜の中の餅を落とす。
すぐさま、婆さんがこれを1口大に取り分けて、
子供の方に放ってよこす。
子供たちは婆さんがよこした餅をきれいに丸め、
形を整えて餅箱の中へと並べていく。

母親はそれを尻目に、餅の中から取り出した羽根と
釜を水洗いし、再び餅つき機に餅米をセットする。
我が家では、親戚の餅も搗いていたため、
最低でも3回ぐらいは連続して、餅を搗かなければならなかった。

やがて婆さんの手元に残っている餅が少なくなってくると、
この搗きたての餅に、餡やきな粉をまぶして食べることになる。
婆さんは搗きたての餅で餡を包み込み、アンコ餅を作る。
搗きたての暖かい餅で作ったアンコ餅は、
スーパーなどで買ってきた大福餅などとは違い、
搗きたての餅の香りがプンプンと香る、極上のアンコ餅だった。
もちろん、このアンコ餅は市販の大福餅と違い、
冷めれば固くなってしまう。
そうなれば、これを餅焼き網の上で焼くのである。
再び軟らかくなったアンコ餅には、香ばしさも加わり、
お正月前の最高のオヤツとなるのである。

さて、長々と自分の「餅搗き」に対する思い出を語ったわけだが、
最近の若い人の中には、「電動餅つき機」といっても
それがどういうものなのか、分からないという人も
いるのではないだろうか?
この時期ならば、家電量販店やホームセンターなどに行けば、
何種類もの展示品が並んでいるだろうが、
この時期を逃してしまえば、
あっという間に店頭から姿が消えてしまう。

大方の製品は、一抱えほどのサイズのプラスチック製の箱に、
フッ素樹脂加工された「釜」がついている。
この釜の底には、回転式の羽根というか
ヘラのようなものが取り付けられており、
蒸し上がった餅米の中で、この羽根が回転することによって
餅米を餅へと変貌させて行く。
……。
そう、ここで多くの人が疑問に思うことだろう。
あれ?それって餅を「搗いて」いないんじゃあ……?
我々が「餅搗き」と聞いて、まず思い浮かべるのは
杵と臼を使った「餅搗き」である。
臼のくぼみに置かれた餅を、
巨大なトンカチのような杵を用いて「搗いて」いく。
もちろん1人で出来る作業ではなく、
杵を餅に振り下ろし、これを搗き上げる者と、
これとタイミングを合わせ、餅を濡らし、
餅を折り曲げたり寄せたりする者と、2人がかりの作業になる。
この杵で餅を「搗いて」いく光景は、
年末のニュース番組などでも度々取り上げられるし、
年末年始のイベントとして、
自治体などで執り行われることもある。
先に書いたホームセンターなどでも、「電動餅つき機」と並んで
木製・石製の臼と杵が販売されている。
この、いわば原初の「餅搗き」から考えてみれば、
蒸し上げた米の中で、羽根を回転させて餅にしていく餅つき機は、
餅を「搗いて」いるといえるのかどうか、怪しく思えてしまう。

実は「餅」の製法には、大きく2つの方法がある。
ひとつは、先に書いた「蒸した餅米を搗いて作る」方法だ。
……。
いや、餅の製法ってそれだけじゃないの?と、
思う人もいるだろう。
実は「餅」の製法にはもう1つあり、
スーパーなどで販売されている「餅」のほとんどは
このもう1つの方法で作られている。
その方法では、まず餅米を粉末状に加工し、
これを湯で練り上げる。
これを蒸し上げたものを「餅」とするのである。
材料が、餅米と粳米の違いはあるものの、
これは団子を作る方法と全く同じである。
いわばこの「練り餅」は、
餅米を使って作った「団子」といっていい。
「餅」も「団子」も白く、粘りのある物体なので、
一見した所、判別することは難しいように思えるが、
実は、商品の裏の原材料の表示を見てみると、
「搗いて」作った餅の場合は、「水稲もち米」となっており、
「練って」作った餅の場合は、「もち米粉末」となっている。
工程的にも、「練って」作る餅の方が大量生産に向いているため、
比較的安価な餅のほとんどは、「もち米粉末」を使って作った
「練り餅」になっている。
もちろん、スーパーなどでも「水稲もち米」を使って作った
「搗き餅」も取り扱っているが、
その数は少なく、また値段も高い。

さて、ここで話を「餅つき機」に戻そう。
先に述べたように、「餅つき機」は構造的には、
釜内部の羽根の回転によって、蒸したもち米を練り上げて
「餅」へと変貌させる仕組みになっている。
この部分だけをみれば、
たしかにこれは「練り餅」と見ることが出来る。
しかし、「餅つき機」で扱っている材料は、
「もち米粉末」ではなく、「水稲もち米」そのものである。
この原料という視点から考えるのであれば、
「餅つき機」で作っているのは、
まぎれもなく「搗き餅」ということになる。
機械の名前が、餅「搗き」機であることからも、
あくまでも「搗き」か「練り」かという区別は、
原材料によって分別されているらしい。

さて、今回は年末恒例の「餅つき」の思い出と、
「搗き」「練り」に大別される、餅の種類について書いた。
次回は、日本の正月に欠かせない「餅」の、
歴史について書いていく。

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