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「梨」というのは、不遇な果物だ。

何が良くないと言って、まず、その色がいけない。
果物といえば、その鮮やかな色彩が自慢の1つだ。
リンゴの赤、ミカンのオレンジ色、ブドウの紫、
バナナの黄色、桃のピンク色。
どれをとってみても、色鮮やかであり、
古来より果物は、静物画の格好のモチーフであった。

その点、梨は色合いが良くない。
くすんだ赤褐色か、くすんだ黄緑色である。
同じような形状をしているリンゴの場合、
赤いものはキッパリ「赤」と主張しているし、
青いものはキッパリ「緑」と主張している。
いや、ほらでも、キウイなんかもくすんだ色をしているし……、
なんていう人がいるかも知れない。
しかしキウイなどは、外見上はくすんでいたとしても、
ひとたび包丁を入れれば、
色鮮やかで艶やかな緑色を見せてくれる。
梨の場合、包丁を入れても、
オフホワイトのくすんだ白さがあるだけだ。
これをモチーフにして絵を描いたとしても、
画面には全く彩度が足りず、
セピア色の色褪せた写真のような仕上がりになってしまう。

だからといって、「梨」に実力がないか?といえば、
決してそんなことはない。
お見舞いなどに持って行くフルーツの盛り合わせでも、
法事などで仏壇に供えるフルーツの盛り合わせでも、
「梨」は、必ず目立たぬ所に控えている。
(もともと目立たない色をしているのだが……)
そして、フルーツの盛り合わせの中では、
比較的、日持ちのする部類に属しているため、
食べるのがどんどんと後回しにされていき、
主だったものがほとんど食べられた後で、
ようやく手を出されることになる。
最後の最後に手を伸ばされた「梨」は、
相変わらず、瑞々しくほのかに甘い果汁と、
シャクシャクとした独特の歯ごたえを見せてくれる。
パンチの効いた味ではないが、
どこかホッとさせてくれる、優しく控えめな味わいである。

「梨」は、バラ目バラ科ナシ属に属する落葉高木である。
もしくは、この木になる果実をさして「梨」と呼ぶこともある。
パッと見た感じには、リンゴの果実によく似ているが、
リンゴも「梨」と同じバラ科の植物であるため、
比較的近い品種であるといえる。
「梨」には大きく分けて、和梨、中国梨、洋梨の
3つに分けられるが、日本で「梨」といえば
和梨のことをさしており、ここでもこの和梨について書いていく。
和梨と書くことから、いかにも日本原産の梨のように思えるが、
実はこれは中国原産の梨である。
日本では弥生時代の遺跡から、
食用にされた梨の種が出土しているのだが、
一定の年代から過去の遺跡からは、全く出土していない。
このことから、梨は弥生時代中に中国から日本へと
持ち込まれたものだと考えられている。
人為的に持ち込まれたということもあり、
人の手によって栽培されていた可能性もある。
文献の中で、もっとも最初に「梨」が出てくるのは「日本書紀」で、
これによれば、693年、持統天皇の詔によって
五穀とともに「桑、苧(からむし)、梨、栗、
蕪菁(かぶ)」の栽培を、奨励する記述がある。
恐らく7世紀にはすでに、梨の栽培が成立していたと思われる。
梨は日本の果物の中で、もっとも古いものの1つなのである。

梨の一番の特徴といえば、
あのシャクシャクとした歯触りだろうか。
サクサクではなく、シャクシャク。
どことなく、水気を含んだ擬音である。
この梨独特のシャクシャクとした食感は、
梨独特の「石細胞」によるものである。
梨の切断面をしげしげと見つめてみると、
透明な果肉の中に、白い点々のようなものが見える。
これが「石細胞」で、これは果肉細胞が木質化したものらしい。
それなら「木細胞」じゃん、と突っ込みたくなるが、
そこはおいておこう。
日本人には余りに気にならない、
この「石細胞」とその食感だが、
外国人、特に西洋人などは、このシャクシャク感を嫌がる。
まるで「砂」のようだ、ということで、
日本の梨のことを「サンドペア」などと呼ぶ。
たしかに、彼らの所の洋梨は、ネットリとした食感で
日本の梨のそれとは対象的である。
彼らは洋梨のことを「バタリーペア」と呼んで有り難がる。
逆にいえば、日本人の場合、あのネットリとした食感に
違和感を感じる人も多いので、
どっちもどっちということだろうか。

全く何の手も入れずに栽培すると、
樹高15mほどの高木に育ってしまうのだが、
日本ではこれを栽培する際に、
あまり背が高くならないように剪定し、
棚状で横に広がるようにして、育てている所が多い。
梨は、植えてから5~6年ほどで実を付けはじめるが、
同じ品種間では結実しないため、
苗木を1本購入してきて、これを植えたとしても、
まず実がつかない。
ならば、別の品種の梨をもう1本購入してきて、
横に植えておけばいいのか?ということになるが、
梨の場合、異品種間であっても結実しない場合があるので、
苗木を買う場合は、かなり慎重に苗木を選ぶ必要がある。

古い文献によれば、一種の救荒作物として栽培されていたようで、
その記述を信じるのであれば、
他の植物(例えばイネなど)がうまく育たないような、
気候条件の悪い年でも、
それなりに実を付けていたということになる。
このように梨の栽培自体は、
かなり古い時代から行なわれていたようであるが、
その品種名が文献上に現れるのは、江戸時代に入ってからである。
1753年に行なわれた、江戸幕府による特産品調査では、
実に150もの品種が記録されている。
品種改良が行なわれるようになったのは、
20世紀に入ってからのことなので、
恐らくこれらの品種は、珍しい品種が偶然出来上がったものを
育て上げて定着させたものだろう。

日本の梨は、大きく赤梨系と青梨系に分別出来る。
これは果実の色によって品種を分けたものであるが、
現在の日本で90%以上の生産量を誇る4品種、
幸水、豊水、二十世紀、新高のうち、
幸水、豊水、新高が赤梨系、二十世紀が青梨系である。
かつては二十世紀が圧倒的なシェアを誇っていたが、
現在では、シェア第1位の座を、幸水に明け渡している。
(現在、二十世紀はシェア3位、2位は豊水である。
 この二十世紀がもっとも栽培されているのが鳥取県で、
 現在でも、全二十世紀の40%は鳥取県で生産されている)

「梨」の語源に関しては、様々な説がある。
貝原益軒の「日本釈明」によると、果肉の色が白いので
中白(なかしろ)となり、「なし」になったという。
また、他の説では、芯の部分になるほど酸味が強くなることから、
「中酸い(なかすい)」が変じて、
「なし」になったとする説もあり、
風が強いと実がならないことから
「風なし」→「なし」という説もある。
古来より、「梨」は「無し」に通じることから
縁起が悪いとされてきたが、
逆に「悪いことが「無し」」という風に捉えることもあるという。
一部では、「梨」のことを「ありの実」などと呼ぶこともあるが、
結局、「梨」という名前は古来より変わっていない。

その名前に色々と文句を付けながらも、
結局、そのまま受け入れてしまう所が、
日本人の懐の広い(いいかげんな?)所かも知れない。

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