
By: jarumcaster
先日、インターネットのニュースを見ていると、
こんなニュースがあった。
「タダで食べ放題」相席居酒屋で、大食い女性に退店して……。
店の対応は許される?
字面だけ見ているのでは、いまいちよく分からない話である。
このニュースタイトルを見ているだけでも、
よく分からない単語がある。
「相席居酒屋」である。
これは一体、どういうものなのか?
ニュースを詳しく見ていくと、この辺りが分かってくる。
つまり「相席居酒屋」というのは、
見知らぬ男女同士を同席させ、
男性は飲食代を払い、女性はタダという居酒屋であるらしい。
こうやって書いてみても、理解し難いシステムの店だが、
どうやら女性の分の飲食代金は、
同席している男性が支払うシステムのようだ。
男性にとっては、女性と一緒に食事をすることが出来、
女性にとっては、男性と一緒に食事をすれば、
その分の飲食代金はタダになるという、
男性にとってメリットがあるんだか、ないんだか
分からないシステムである。
どのような相手と同席することになるかはわからないが、
相手の飲食代を払うだけで、
女性と一緒に食事をすることが出来るというシステムなのである。
男性が割高な料金をとられ、女性がタダというシステムを見ると、
かつてのテレホンクラブのようなものなのだろう。
テレホンクラブの居酒屋版という風に考えると、
存外、本質をついているのかも知れない。
だが、自分がこのニュースに目を引かれたのは、
この「相席居酒屋」という部分ではないので、
ここの所については、これ以上書かないことにする。
重要なことは、女性がこの店にくれば、
誰かと相席することを条件に、タダで飲食出来るということだ。
今回のニュースのキモは、このシステムに起因している。
問題の女性は、上京してきたばかりの女性ということだから、
18歳くらいの女子大生、短大生、専門学校生という所だろうか?
彼女はこの店のシステムを知り、
自らの食費を浮かすために、この店に通い詰めた。
ニュースを見た所では、この「相席居酒屋」はチェーン店であり、
彼女はそのうちの何店かを、廻っていたらしい。
1日に4回も店に行っていたというから、
ほぼ、全ての食を、この店のシステムによって賄っていたのだろう。
まあ、それだけであれば、
さしたる問題にはならなかったかも知れない。
これが問題になったのは、
ひとえに彼女の食べる量が尋常ではなかったからである。
彼女が食べていた量というのが、
「ご飯は2~3升、おかずは数㎏」というものであった。
前後の文脈から察するに、これは1日に食べる量であるらしい。
(まさか、1回の食事量ではないと思うが……)
「升」である。
現在ではあまり目にすることもなくなったかも知れないが、
これは日本古来の体積を表す単位で、
分かりやすい単位になおせば、1升は1.8ℓになる。
米の容量を量る際には、普通、「号」が使われる。
家電量販店などに行くと、電気炊飯器などでは
いまだにこの「号」で、
米の容量を計量するシステムになっており、
一人暮らし用の炊飯器では3号炊き、
家族用の炊飯器では5号炊きより上のサイズが、販売されている。
この「号」というのは、
普通の料理で使う計量カップの単位に直せば、180mlである。
つまり10「号」=1「升」となるわけだ。
1日に3升の米を食べていた、ということは、
実に1日に30「号」の米を食べていたということになる。
一人暮らし用の炊飯器で10個分、
家族用の炊飯器でも6個分のご飯を、
この女性は食べていたことになる。
もちろん、ご飯だけをこれだけ食べられるわけではない。
ご飯と一緒におかずも食べていたわけだが、
そのおかずにしても数kgを食べていたというのだから、
その健啖ぶりには驚かされる。
ちなみにスーパーなどでは、5㎏や10㎏の単位で
米を販売しているわけだが、
30「号」といえば、この5㎏の米とほぼ等しい。
数kgのおかずというのを、もっとも少なく見積もり、
2kgとして計算しても、
実に毎日、7kgを食べていたということになるのである。
(実際には、米を炊けば水を含むので、
重量でいえば、これ以上になるのは間違いない)
現代の人間は、米を食べなくなったといわれる。
確かに、米の消費量は年々低下してきており、
小麦粉の消費量は、それに反比例して増加しているので、
日本人は、米食から離れてきているのは確かである。
かつては、あの宮沢賢治も「雨ニモ負ケズ」の中で、
「1日に4号の玄米と、味噌と、わずかな野菜を食べ」
と書いているように、日本人はかなりの量の米を食べていた。
陸軍では、歩兵1人の1日の食べる量として、
米6合を計上しているが、
これが当時の肉体労働者の食べる
米の量であったと見ていいだろう。
この女性は、歩兵5人分の量を食べているわけである。
さて、この恐ろしい健啖ぶりに泣いたのは誰か?
店か?それとも相席した男性だろうか?
この女性の食べた分を、相席の男性が支払っていたとしたら、
なるほど、これは泣きたくなるだろう。
自分の何倍もの量を、目の前で黙々と食べ続ける女性。
男性としては、食事中に女性と話して……なんてことを
考えていたかも知れないが、
恐らくそんな量を食べるのであれば、
口はずっと食物を咀嚼しており、
会話などは全く成り立たなかったのではないか?
当然、店にも苦情は行くだろうし、悪い噂も立つだろう。
悪い噂が立てば、店から客足が遠のくのは当たり前である。
店側にしてみれば、さすがに放置したままにしておくわけには
いかなかったのだろう。
それが今回、退店を要求する形になったのだと思われる。
ニュース記事の中では、女性無料を謳っておきながら、
この女性が余りに大量に食べるからと言って退店させるのは、
果たして法的に許されるのか?という視点で
この件を取り上げていたが、
自分の場合、「ご飯2~3升、おかず数kg」というのに
圧倒されて、そちらに関しては全く気にならなかった。
それほどに「ご飯2~3「升」」というのは、
衝撃的な数字だったのである。
この「升」をはじめ、「号」や「斗」など、
日本古来の単位は、細々ながらも使われ続けている。
「号」というのは、それこそ米の容量を量るのに使われているし、
「升」は、日本酒を入れる一升瓶などが残っている。
「斗」は、日本酒を入れる一斗樽の他にも、
各種燃料や溶剤、塗料や薬品を入れる一斗缶といった形で、
我々の生活の中に生き延びている。
1「号」は180ml、
1「升」は1.8ℓ、
1「斗」は18ℓと、リッター表示に変換することも出来るが、
これらの古い単位は、まだまだ滅びる気配はない。
それにしても、日に「升」単位で
ご飯を食べ続けることの出来る人間というのは、
一体、どのような胃腸をしているのであろうか?