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天津飯

更新日:

「天津飯」と聞いて、何を思い浮かべるだろうか?

もっとも多くの人が思い浮かべるのは、
「かに玉」がご飯の上に乗った、中華料理だ。
丸く、ふわふわに焼かれた、具材入りの卵焼きがご飯の上に乗り、
そこにトロミのついた「あん」がかかっている。
いくつかの店では、この上に
何粒かのグリーンピースをあしらってある。

その次に思い浮かべるのは、目玉が3つある坊主頭の男だ。
マンガ「ドラゴンボール」に登場するキャラクターで、
最初のうちは主人公・孫悟空のライバルか?と、思わせつつ、
全然そんなことはなかったキャラクターである。
真面目ひとすじの男に見えるが、
その実、ニヤけた顔で「排球拳(はいきゅうけん)」を繰り出す
お茶目な男でもある。
作中での扱いは、ヤムチャ以上、クリリン以下という所だった。

インターネットで画像検索をかけると、
80枚画像が出てきたうち、
5枚がこの三目男で、のこり75枚が「かに玉ご飯」であった。
割合でいうと94%が「かに玉ご飯」で、6%が三目男だ。
「天津飯」というキーワードの画像検索では、
この2種類の画像しか出てこない。
今回は、この94%の方の話である。

先にも書いたが、天津飯は「かに玉」をご飯の上にのせて、
トロミのある「あん」をかけた料理である。
「天津」は、中国の首都・北京の
南東100㎞の位置にある町である。
こう書くと、
「ああ、天津飯というのは、天津の名物なんだな」
と、思ってしまうが、天津には「天津飯」は存在していない。
と、いうよりは中華料理の中に
「天津飯」というメニューは存在していないのである。
では、どうして「天津飯」は「天津」飯なのか?

ちょっと考え方を変えてみよう。
「天津飯」を「天津」と「飯」に分解して考えてみる。
「飯」というのは、そのまま白飯のことだ。
ということは、「天津」というのが
「かに玉」を指していることになる。
日本で「かに玉」として知られている料理は、
中国では「芙蓉蟹(フーヨーハイ)」と呼ばれている料理だ。
ああ、じゃ、その「芙蓉蟹」が
天津の名物料理なんだなと思ってしまうが、
この「芙蓉蟹」は広東料理である。
広東地方は、香港を中心とした中国南部の一帯で、
中国の北部に位置している天津とは、大きく距離が離れている。
「芙蓉蟹」が天津の名物であるというのは、
これが広東料理である以上、あり得ないといっていい。
天津の立地から考えてみるに、
天津の料理は山東料理の影響が大きいと考えていいだろう。
では、どうして「天津」と「芙蓉蟹」が一致しないのか?
いや、そもそも本当に「天津」と「芙蓉蟹」は同じなのか?
そう思って、「芙蓉蟹」について調べてみると、
これは「芙蓉」の花のように「蟹」を仕上げた料理だという。
「芙蓉の花」を調べてみると、
白かピンク色の花を咲かせるという。
あれ?黄色じゃないの?と、思って調べてみると、
本場中国の「かに玉」こと「芙蓉蟹」は、
全卵を使わず白身のみを使うため、白く仕上がるという。
「芙蓉蟹」というキーワードで画像検索してみると、
かなりの数の黄色い「かに玉」に混じって、
わずかに真っ白な「かに玉」が存在している。
つまり、このわずかな真っ白な「かに玉」こそが、
本当の「芙蓉蟹」であったわけだ。
つまり「天津」とは「芙蓉蟹」のことではなく、
全く別のものを指しているということになる。

先に書いたように、「天津飯」という料理は
中華料理の中には存在しない。
つまり、これは日本で作られた料理ということになる。
通説によれば「天津飯」は、戦後、物資不足のおりに
中国天津産の米を使って作った
「蟹肉入り卵焼き乗せご飯」ということで、
「天津芙蓉蟹肉飯」と名付けられたという。
これの頭と最後を取って、「天津飯」になったというのである。
一見、なるほど、と思ってしまいそうだが、
これはちょっとおかしい。
使っている米の産地が「天津」だからといって、
それを料理の名前に入れるだろうか?
例えば、魚沼産コシヒカリを使った親子丼を、
「魚沼親子丼」などと名付けるだろうか?
どう考えても不自然である。

ここから先は完全に推測になるのだが、
恐らく天津付近で食べられている料理の中にも、
卵を使った料理があるのではないだろうか?
天津は比較的海に近い場所にある町だが、
それでも100㎞近く離れているのである。
川は流れているわけだから、蟹が全くいないとはいわないが、
広東にある香港のように海に面しているわけではないので、
恐らく「芙蓉蟹」ほどには蟹が使えなかったのだろう。
蟹が少ない分、わざわざ卵を白身と黄身に
分けたりするようなことも無く、
全卵に他の食材を入れることによって、
それっぽい料理を作っていたのではないだろうか?
ようは、色々入った中華風のオムレツである。
天津から日本へとやってきた料理人が
これを作っているのを見て、日本の中華料理人が、
これを飯の上に乗せることを思いついた。
そう、その当時作られ始めていた「親子丼」にヒントを得たのだ。
だが、親子丼にはツユがあるが、
この中華風オムレツのせ飯には、ツユが無い。
ツユの代わりに、中華風に作った「あん」をかけて、
中華風親子丼を作ろうとしたのだ。
しかし、問題があった。
この中華風親子丼には「親」である鳥肉が入っていない。
入れてもいいが、その分値段が上がってしまう。
しょうがなしに「親子丼」の名前を付けるのはあきらめ、
この中華風オムレツの故郷である、天津の名前を取って、
「天津飯」としたのであろう。

実は、東京と大阪には、それぞれ1軒づつ
「天津飯」発祥の店というのがある。
ただ、どちらにしても、何故「天津」とつくのか?
という疑問に関しては、納得出来る答えが出されていない。

さて、その出自には様々な疑問の残る「天津飯」だが、
家庭で作る分には、意外と簡単である。
スーパーなどに行けば、レトルトパックの
「かに玉のもと」が売られており、
卵が何個かあれば、すぐに「かに玉」が作れるからである。
これで作った「かに玉」をご飯の上に乗せれば、
たちまち「天津飯」が出来上がる。
卵だけあれば、すぐに作れる手軽さが良かったのか、
我が家では結構な頻度で「かに玉」が食卓にあがった。
当然、それをご飯の上に乗せ、
「天津飯」にして食べることも多かった。

あまりに手軽なので、一人暮らしの際にも作ってみた。
だが、「かに玉のもと」で作れば、
3~4人分ほどの「かに玉」ができる。
これをやれば、「かに玉」をおかずにして
「天津飯」を食べなければならなくなる。

よほど「天津飯」「かに玉」が好きな人でなければ、
あまりお勧めは出来ない。

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