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ししとう

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前回、「トウガラシ」について書いた。

この手の野菜の話を書くときは、
大概、婆さんが畑で作っていて〜となるのだが、
この「トウガラシ」については、
婆さんはついに作ることがなかった。
恐らく、他の野菜と違い、普通に食べることが出来ず、
香辛料としてしか用いることの出来ない「トウガラシ」は、
婆さんにとって作る甲斐のないものだったのだろう。

その代わりに婆さんが作っていたのが「ししとう」だ。
青トウガラシによく似たそれは、ピーマンとともに、
婆さんの畑の、夏の収穫物の一画をなしていた。
母親は婆さんが畑から持ち帰ったそれらを、
炒めたり、天ぷらにしたりして子供たちに食べさせた。
ほぼ9割方、炒め物になっていたと思う。
毎日、わんさかと大量生産されるピーマンとししとうを前に、
いちいち手間のかかる調理など、やっていられなかったのだろう。
ピーマンを使った定番メニューとして、
「肉詰めピーマン」があるが、
こんなに手間のかかる料理は、
ついぞ我が家で出てくることはなかった。
ししとうについても、天ぷらのタネにする以外は
ほぼ毎回、フライパンで炒めて醤油をかけたものだった。
どういうわけか、婆さんの作るししとうは辛いものが多く、
これを炒めただけのものに醤油をかけると、
グングンご飯が進んだ。
よく、ししとうは10本に1本、辛いものがある、
などといわれるが、
婆さんの作るししとうは、半分近くは辛かったような気がする。
辛くないししとうに、辛いものが混じっていることから、
ロシアンルーレットのようだ、といわれることがあるが、
婆さんの作るししとうの場合、丁半博打に等しかった。
2本に1本、辛いししとうを引き当て、
辛さのあまり、ご飯をかき込む。
我が家のししとう料理は、そんな感じのものであった。

ししとうは、ナス科トウガラシ属に属するトウガラシの一種だ。
正式には「獅子唐辛子」という。
「獅子」とついているのは、このししとうの先端が
「獅子」の顔に似ているからだという。
この「獅子」が現在のようにライオンを意味しているのか、
それとも狛犬や獅子舞のような、
架空の「獅子」のことなのかはわからないが、
どちらにしても「獅子」の顔は丸い。
ししとうの先端の尖った形状とは、明らかに違っている。
この「ししとうの先端が獅子に似ている」という話は、
ししとうの語源として、あまりにも圧倒的なのだが、
これに疑問を持つ人間はいないのだろうか?
ともあれ、そんなししとうも、
熟すとトウガラシのように赤くなる。
ピーマンにしろ、ししとうにしろ、
未熟な若い果実を食用にしているのである。
(海外ではピーマンを完熟させて食べることも多い。
 赤や黄色に変色したピーマンが、普通に販売されている。
 完熟させたピーマンは甘味が増すといわれている)

ししとうは、その名前が示しているように
トウガラシの変種の1つである。
15世紀、コロンブスによって
ヨーロッパに持ち込まれたトウガラシは、
ヨーロッパの気候風土の中でも栽培することが出来た。
中南米と違い、ヨーロッパの冷涼な気候の中で栽培するうちに
辛みの少ない品種が誕生したといわれる。
これがししとうとなった。
そういう誕生の経緯からか、ししとうを水の少ない環境や
夜も暑い環境で育てると、
辛いししとうが多く出来るといわれている。
これは原産地に近い環境で育てられることによって、
一種の先祖返りを起こしているのかも知れない。
前回書いた通り、日本には16世紀にトウガラシが持ち込まれた。
しかし、甘味種であるししとうが持ち込まれたのは、
明治時代に入ってからで、しかも定着しなかった。
これが、本格的に日本に定着するのは、
第2次世界大戦以後のことである。

さて、ここで面白いことに気付くだろう。
トウガラシをヨーロッパの冷涼な気候の中で育てると、
辛みの少ない甘味種である、ししとうが誕生した。
日本では16世紀にトウガラシが持ち込まれ、
19世紀に甘味種が持ち込まれるまで、
辛みの少ない甘味種はついに誕生しなかった。
つまりトウガラシにしてみれば、日本はヨーロッパよりも
生まれ故郷に近い環境だと言うことである。
ししとうが辛くなるというのも、
日本の環境がトウガラシの原産地に近いため、
と考えても良さそうである。

ししとうはトウガラシに比べて「辛さ」がないが、
トウガラシの辛み成分・カプサイシンは含まれている。
そのため、トウガラシと同じく
脂肪燃焼効果や血行を良くする効果が期待出来る。
トウガラシの「辛さ」が苦手な人にとっては
ありがたいことだろう。
また食物繊維を豊富に含み、
緑色の濃いものほどカロテンの含有量が多い。
さらにはビタミンCも豊富なため、免疫力強化や
疲労回復の効果なども期待出来る。

さて、最初に婆さんの作るししとうは、
どういうわけか半分ほどが辛かった、と書いた。
ししとうが辛くなるわけは、
近くでトウガラシを栽培していた場合、
その花粉がししとうに受粉してしまい、
辛くなることがある、というのが1つ。
もう1つは、先に書いたように
夜でも暑い環境で育てるか、
水の少ない環境で育てるか、である。
これらの環境で育ったししとうは「ストレス」を感じ、
辛み成分であるカプサイシンを多く作るという。
婆さんの畑が、果たして
夜でも暑かったのかどうかはわからないが、
少なくとも、水やりはマメにしていたので
水不足ということはないだろう。
さらにいえば、婆さんはトウガラシを栽培していなかったので
トウガラシの花粉が〜という理由も考えられない。
(ひょっとしたら、近くの畑でトウガラシを栽培していたという
 可能性は否定出来ないが……)

婆さんの作るししとうは、どうしてあんなに辛かったのか?
全くの謎である。

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