
By: houroumono
一般的に、船はスピードの出る乗り物ではないと考えられている。
確かに、海上を航行している大型船などを見てみれば、
遠目であるとはいえ、のんびりとした動きに見える。
モーターボートなどの一部の例外を除けば、
船は非常にゆっくりと加速し始め、
そのままのんびりと加速しながら、港を出て行く。
見ている人が受ける印象は、実にゆったりとしたものである。
これはあくまでもイメージの話であるが、
「宇宙戦艦ヤマト」と「銀河鉄道999」が、
それぞれ宇宙を進んでいる所を、思い浮かべてみてほしい。
999号が、煙を吐き出しながら車輪を回し、
快調に宇宙空間を疾走しているのに対し、
ヤマトはのんびりゆったりと、宇宙空間を航行している。
両者とも設定上は亜光速(光の速さに近い速さ)、
もしくは光速以上の速度が出せるはずであるが、
画面上の演出においては、そのような場面は見られなかった。
問題は、列車と船の移動速度の演出である。
列車はかなりのスピード感で疾走しているのに対し、
船はまるで遊覧航行でもしているかのように
ゆったりとした歩調を歩んでいる。
これは、制作者側が視聴者たちに違和感を与えないために
行なった演出であろう。
いくら亜高速で航行できるからと言って、
ヤマトが超高速でビュンビュンと宇宙を飛び回っていれば、
戦艦大和から受け継いだ「重厚」なイメージは、
木っ端微塵になってしまう。
これを防ぐような意味で、
ヤマトでは「ゆったりと宇宙を進む」イメージが
演出されたのだろう。
これを逆に考えてみれば、視聴者たち、
つまり我々の意識の中には
「船」=「ゆっくり」というイメージが
根付いているということだ。
考えてみれば、これは無理も無いことかも知れない。
船はある程度の大型船になれば、
あまり高速で航行するものは、少なくなってしまう。
「大型客船」「大型貨物船」「大型タンカー」など、
どれをとっても、その動きはゆったりとしていて、
「高速」というイメージにはそぐわない。
モーターボートや、水中翼船など、
高速で航行するイメージを持つ船もあるが、
ほとんどの船は、のんびりと航行するイメージである。
これには理由がある。
船というのは、速度を出そうとすれば出そうとするほど、
大量のエネルギーを必要とするようになるからだ。
たとえば、時速10㎞から20㎞に加速する際には
10しかエネルギーのいらなかったものが、
時速60㎞から70㎞に加速する際には
100のエネルギーが必要になるという具合である。
(例に上げた数字は、あくまでも実際の数字ではなく、
イメージをしてもらいやすくするための
適当な数字である)
つまり船は、ゆっくり走れば走るほど、
燃費・経済的には優れているのである。
経済活動の中で運航されている船は、
経済効率を考えつくされた速度で、航行している。
速度を上げすぎれば、燃費が悪くなって赤字になるし、
速度が遅すぎれば、荷物を運ぶ効率が悪くなる上に、
顧客離れを起こしてしまう。
そうならない速度を計算して、船は運航されているのである。
では、実際に船の運航速度はどのくらいなのか?
様々なもので船の速度を調べると、
車や列車、飛行機などの速度とは違い、
「ノット」という単位が使われている。
1ノットというのは、1時間に1海里進むスピードである。
1海里は1852mであるので、
1ノットは大体時速1.8kmとイメージしておけばいい。
つまり「ノット」を、時速になおすには、
ノット数を1.8倍にすればいいと言うことだ。
これを元にして、有名な船の速度を見てみよう。
先にも書いた戦艦大和は27ノット。
時速になおせば48kmである。
自動車でいえば安全運転という所だ。
映画で有名な豪華客船タイタニックは23ノット。
時速は42㎞で、自動車でいえばノロノロ運転である。
しかしこれは100年も前の船である。
現在、世界最大の客船である「オアシス」級のひとつ、
「オアシス・オブ・ザ・シーズ」は、20ノットである。
時速は36㎞、自動車でいえば
クラクションを鳴らされるレベルだ。
何と100年前の大型客船よりも速度が落ちている。
もっとも全長が戦艦大和より100m長く、
幅が2倍近くあるのだから、鈍足になるのも無理は無い。
最近火事を起こしたフェリー、「さんふらわあ」は24ノット。
時速43㎞だ。
「オアシス・オブ・ザ・シーズ」や「さんふらわあ」の速度は、
現在航行している商業船の一般的なスピードだ。
そしてそれが、100年前から変わっていないということは、
その辺りのスピードが、燃費の上でも、経済効率の上でも、
もっともバランスがとれているということだろう。
逆に船というのは、その気になれば、
どれくらい速度が出せるのか?
太平洋戦争中、日本海軍でもっとも速かったのは
駆逐艦「島風」の40ノット、時速74㎞である。
現在航行されている船の、ほぼ倍のスピードである。
現在の軍用船舶では、ミサイル兵器が主力になっていて、
かつてほどスピードを必要としていないため、
速度も30ノットほどである。
これは時速55㎞ほどで、「島風」と比べても
はるかに遅い。
ギネス記録的な意味での最高速度をいえば、
数字はとんでもないことになる。
なぜなら、記録を求めるために
船にジェットエンジンを使うからだ。
え?船にジェットエンジンなんか積んで、大丈夫なの?
と、思う人がいるかも知れないが、もちろん大丈夫ではない。
水面上を超高速で突っ走るものだから、
わずかな波で船は転倒(?)し、
水面に叩き付けられてバラバラになる。
もちろん、そういう事態になると、乗っている人は死ぬ。
現在、ギネスに登録されている船の最高速度は、
ケン・ウォービーが出した時速511㎞であるが、
要するにこれは、これだけのスピードを出して事故を起こさず、
生きて返ってきたのが彼しかいないというだけのことである。
船の速度は、100年も前から大きく変わってはいない。
これは技術的な問題でもあるのだが、
人が船にこれ以上の速度を期待してはいないということだろう。
もしこの先、船の速度を大きく上げる技術が見つかれば、
(もちろん、安全で経済的な方法でだ)
人類の文明は、1つ上に上がることになるかも知れない。