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トウガラシ

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夏になると、メニューの中に「激辛」を冠したものが
増えるレストランがある。

激辛カレー、激辛ラーメン、激辛麻婆豆腐など、
どれも夏場になると、食べたくなる人も
多いのではないだろうか?
自分も昔は、夏になると
「激辛」を謳った料理を食べていた。
カレーにしても、ラーメンにしても、
汗を噴き出させながら食べるのは、一種の快感ですらあった。

この手の「激辛」料理、
カレー以外はほぼ例外なく、真っ赤に彩られていた。
激辛ラーメンはスープの色が真っ赤だったし、
激辛麻婆豆腐は、ラー油の色で、全体に赤味がかかっていた。
食べ物のイメージカラーで言うなら、
「赤」は、熱の「赤」であり、辛さの「赤」である。
なぜ、辛さのイメージが「赤」なのか?
それは、その「赤」が、トウガラシの「赤」だからである。

日本で食べることの出来る「激辛」料理のうち、
そのほとんどはトウガラシでもって「辛さ」を出している。
激辛ラーメンには、粉末になったトウガラシと、
トウガラシを油で煮出したラー油が、タップリとはいっている。
激辛カレーを作る際、辛さを出すために入れるスパイスは
チリペッパーだ。
なんのことはない、これもトウガラシのことである。
激辛麻婆豆腐にしても、辛さを高めるには
トウガラシとラー油の量を増やさなければならない。
スナック菓子などでも、「激辛」を冠するものがあるが、
これもまた、トウガラシによってその辛さを出している。
つまり、言い換えれば、「激辛」というのは
「トウガラシ味」としてしまっても、間違いではないのである。

トウガラシは世界中で用いられている香辛料だ。
日本では七味唐辛子などでお馴染みだし、
韓国のキムチはトウガラシで真っ赤だ。
中国でも、四川料理をはじめとする辛い料理は、
トウガラシでその辛さを出しているし、
タイ料理の辛さもトウガラシによるものだ。
インドのカレーの辛さもトウガラシだし、
イタリアのパスタ、ペペロンチーノはトウガラシという意味だ。
中南米はもともとトウガラシの原産地だけあって、
パラペーニョやハバネロなど、その種類も多い。

トウガラシはナス目ナス科トウガラシ属に属する、多年草である。
これを聞いて、あれ?と思った人もいるだろう。
トウガラシを畑で栽培していた人の中には、
トウガラシって1年草じゃないの?と思う人もいる筈だ。
確かに日本でトウガラシを栽培した場合、
これが越年することはなく、枯れてしまう。
しかし、これは温帯である日本で栽培しているためで、
これをもっと暖かい(暑い)地域で栽培した場合、
トウガラシは越年するので、多年草ということになる。
40〜60㎝ほどの高さに成長し、茎は多数に枝分かれする。
7〜9月ごろに白い花が咲き、花の後に上向きに実がつく。
最初は緑色をしているが、時間とともに赤く熟していく。
品種によっては黄色や紫色になるものもあり、
かなりカラフルである。
トウガラシというと、「辛い」というイメージが強いが、
トウガラシには辛みが強く、香辛料に使われる種と
辛みが少なく、野菜として使われるものがある。
この辛みの少ないトウガラシを、特に甘トウガラシと呼ぶ。
ピーマンやパプリカ、ししとうなどは、
この甘トウガラシである。

トウガラシは中南米地方が原産地で、
メキシコでは紀元前6000年ごろから食用として
利用・栽培されていた。
長くアメリカ大陸でのみ利用され続けてきたが、
15世紀にコロンブスが新大陸を発見した際に、
トウガラシも一緒にヨーロッパへと持ち帰った。
だが、そもそもコロンブスが航海に出た目的は、
ヨーロッパから西に向かって海を越え、
インドでスパイス(胡椒)を手に入れるためであった。
もちろん、コロンブスの航海は
アメリカ大陸にぶつかることによって果たされなかった。
しかし、コロンブスは自分がインドに到達したと思い込み、
現地で見つけたトウガラシを、胡椒と勘違いして
ヨーロッパへと持ち帰った。
その名残が、トウガラシの英語名「レッドペッパー」で、
直訳すれば「赤胡椒」ということになる。
もちろん、トウガラシと胡椒は全くの別物なので、
これはかなりおかしなネーミングということになる。

トウガラシが日本に伝えられたのは、
16世紀の半ば、ポルトガル人達によってである。
鉄砲などと同時期に、日本へと伝えられた。
トウガラシを漢字で書くと「唐辛子」となり、
いかにも「唐」、つまり中国から来たもののように思えるが、
実際には「唐」というのは、
漠然と「外国」を意味していたようだ。
南蛮人がもたらしたということで、
南蛮辛子と呼ばれることもある。
かつて、「なんばん」について書いた際に、
ネギやトウガラシなどを「南蛮」と呼ぶと書いたが、
トウガラシを「南蛮」と呼ぶのには、
トウガラシが南蛮辛子と呼ばれていたことと
無関係ではないだろう。
日本でも九州などでは、トウガラシのことを「胡椒」と呼ぶ。
(柚子胡椒の胡椒も、トウガラシのことである)
トウガラシを「胡椒」と呼ぶようになるのに、
どういういきさつがあったのか、はっきりとしないが、
かつてのコロンブスと同じ間違い(?)をしている辺りに、
歴史の面白さを感じる。

16世紀半ばにもたらされたトウガラシは、
江戸時代の初期にはすでに栽培されていたようで、
1625年に「七味唐辛子」を作り出した、中島徳右衛門は
「からしや」を営んでいた。
少なくとも、江戸時代の初期には「からしや」という、
トウガラシを専門(?)に扱っている店も出来ていたのである。
そのような店ができるほどに、
トウガラシは広く受け入れられていたのだろう。

実は、近年まで日本のトウガラシ栽培は非常に盛んで、
昭和38年には年間7000トンもの生産量があり、
海外へも輸出している、トウガラシの輸出大国であった。
しかしその後、円高の影響で輸出が難しくなり、
さらに手作業で手間のかかる
トウガラシ栽培が敬遠されたこともあり、
生産量は急激に減少していった。
現在では、国産トウガラシの生産量は年間200tまで落ち込み、
国内で消費しているトウガラシのほとんどを、輸入に頼っている。

いわゆる「辛い」料理を作るためには、
必需品とも言えるトウガラシ。
その朱色を帯びた「赤」は、
見るものに強烈な辛さを印象づける。
比較的気温の高い地域で好まれているのは、
トウガラシにはビタミンAやビタミンCが多く含まれており、
夏バテを予防する効果があるからだといわれている。
しかし、いくらトウガラシをよく食べると言っても、
所詮は香辛料である。
栄養補給と考えられる量は食べられないだろう。
そうなると、トウガラシの効果は
パンチの効いた「辛さ」と、その鮮やかな「赤さ」での
食欲増進効果であり、
それこそが夏バテを防いでくれているのだろう。

食欲をいや増す、トウガラシの「赤」。
それの効きが悪くなってきたということは、
歳をとった証拠かも知れない。

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