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食べ物

ちりめんじゃこ

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小学校のころ、給食の時間にひとりあたり5つの、煮干しが出た。

米飯給食のときだけではなく、パン給食のときもついていた。

目的は、子供のカルシウム補給だったようだ。

冷静に考えてみると、給食には毎食、牛乳がついているわけで、

そこまでカルシウムに対して、神経質にならないでもいいのでは?

と思うのだが、やはり過剰摂取だろうが何だろうが、

とらせておくにこしたことはない、とでも考えていたのだろう。

はっきり言って、給食に煮干しは不評であった。

しょっぱくて苦くて、大してうまい物とも思わなかった。

煮干しからは、いいダシがとれるのだから、

もうちょっとうまくてもいいはずだが、子供の口には合わなかった。

しようがなしに、コッペパンなどに挟んで、無理矢理食べていた。

冷静に考えてみれば、これはそもそも用途を間違っていたのではないか?

煮干しというのは、基本的にダシをとる物であって、

そのままバリバリと食べる物ではない。

少なくとも、煮干しをそのままバリバリかじるのは、猫だけのはずだ。

ということは、自分たちは子供のころ、猫と同じ扱いを受けていたことになる。

冷静に考えてみれば、鰹節の欠片をかじっているようなものであり、

昆布をそのまましゃぶっているようなものであり、

干し椎茸をそのまま食べているようなものだ。

いくら、小魚がカルシウムの宝庫だ、という話を聞いたとはいえ、

煮干しをそのまま齧らせるというのは、どこか間違っていたのではあるまいか?

そのまま食べられる小魚、というものも存在する。

今回取り上げる「ちりめんじゃこ」だ。

子供のころ、実家で一番食べさせられた魚は、この「ちりめんじゃこ」だった。

子供にとって、魚というのは、決して好きな食べ物ではない。

刺身や寿司のように、そのまま食べれるようなものに関しては、

子供も嫌悪感を示さないが、焼き魚や煮魚のように、

身をほじりながら食べないといけない魚には、激しい嫌悪感を示す。

子供はうまく箸を使えない。

よしんば使えたとしても、その技術は大人に比べるとまだまだ未熟で、

骨やヒレのついている魚を食べるのは、苦手とするところだ。

そういう子供にとって、「ちりめんじゃこ」は扱いやすい魚だ。

何といっても、身をほじる必要がない。

余計なことをせずに、ただご飯の上にまぶして、そのままかき込めばいい。

いわば、ふりかけ感覚だ。

親の方も、その辺りはよく心得たもので、

「ちりめんじゃこ」ならば、子供が抵抗なしに食べることを知っていて、

わりと頻繁に食卓にあげていた。

さて、「ちりめんじゃこ」と気軽に言っているが、

もちろんこれは、魚の名前ではない。

では「ちりめんじゃこ」とは、一体何の魚なのか?

実は「ちりめんじゃこ」に使われている魚は、一種類だけではない。

カタクチイワシ・マイワシ・ウルメイワシ・シロウオ・イカナゴなどの

仔稚魚を食塩水で煮上げた後に、天日で乾燥させたものである。

やはり収量の多い、カタクチイワシを使ったものが多い。

これらの稚魚のように、体が半透明なものを「シラス」と呼ぶ。

「シラスウナギ」なども、半透明なうなぎの稚魚である。

この「シラス」を干しているので、「ちりめんじゃこ」を「シラス干し」と

呼ぶこともある。

また、この「シラス」を食塩水で茹で上げ、干していないものを

「釜揚げシラス」と呼ぶ。

これもまた、同じようにご飯にまぶして食べた記憶がある。

その他にも、大根おろしの上に、「釜揚げシラス」をのせて、

醤油をかけ回して食べる方法もある。

ちりめんじゃこの歴史は古い。

1300年前、奈良時代にはすでに食べられていた。

天日乾燥してあるので、保存が利く点。

さらにコメなどと同じように、俵などに入れて運ぶこともできた点。

以上の2点を考えてみれば、海から離れた内陸部においては、

手に入りやすい海の魚であったに違いない。

さらに牛乳が食生活になじまなかった古代では、

貴重なカルシウムの補給源であったろうことは、想像がつく。

「ちりめんじゃこ」は、カルシウムの他にも、タンパク質やビタミンDなどを、

豊富に含んでいる。

この中のビタミンDは、腸内でのカルシウムの吸収を助ける働きがある。

その点を考えてみても、「ちりめんじゃこ」はカルシウムを補給するのに、

適した食材であるといえる。

主な産地は、九州から東海にかけての各沿岸部である。

もちろん外洋のみでなく、瀬戸内海のような内海でも獲れる。

主に西日本がその産地であるが、面白いことに日本海側では、

あまりこれを獲っているところはないようだ。

「ちりめんじゃこ」という名前であるが、

これを漢字で書くと「縮緬雑魚」ということになる。

この「縮緬」というのは、細かなしわを持つ絹織物のことである。

これは、シラスを干している状態が、「縮緬」の様に見えることから、

この名前がついた。

この「縮緬」が中国から日本に伝わったのは、

天正年間(1573~1593年)のことである。

つまり、「ちりめんじゃこ」が食べられ始めたとされる、奈良時代には、

「ちりめん」の名を冠していたはずがない。

恐らくこのころは、「シラス干し」と呼ばれていたのではないかと思われる。

自分が子供のころは、自宅でしかお目にかからなかった「ちりめんじゃこ」も、

現在では普通の料理屋のメニューの中に、その名前を見つけることができる。

もちろん料理屋のメニューだけでなく、スーパーやコンビニの弁当や、

おにぎりなどにも「ちりめんじゃこ」を使ったメニューがある。

「ちりめんじゃこ」は安価で、非常に大衆的な食べ物のように思えるが、

実は非常に贅沢な食べ物だ。

ご飯の上にバサバサとふりかけて食べるとすると、

それだけで数百から、千匹以上の魚を食べていることになる。

茶碗1杯のご飯を食べるためだけに、これだけの数の魚を必要とするのである。

そういう見方をすれば、実に贅沢な食べ方だ。

しかし近年、おなじ「シラス」である「シラスウナギ」が、

乱獲によって、その数を大きく減らしている。

いくらでも獲れるからといって、無計画に獲り続ければ、

やがて同じ運命を辿ってしまうかもしれない。

これからも長く「ちりめんじゃこ」を楽しめるように、

漁業関係者には、慎重なシラス漁をお願いしたいものだ。

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