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イモリ

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イモリといえば、黒焼きというイメージがある。

一体、どうしてこんなイメージが出来上がったのだろうか?
思い起こせば子供時代、マンガや絵本を読んでいると、
たまに魔女が出てきて、
大きな鍋の中に色々怪しげな材料を入れ、
何やら怪しげな薬を作る場面があった。
その、怪しげな材料の中には、かなりの高確率で
「イモリの黒焼き」なるものがあった。

「イモリの黒焼き」。

なかなか怪しい響きである。
丸焼きでも、蒸し焼きでも、あぶり焼きでもなく、
「黒」焼きというところに、
得体の知れない不気味さを感じる。
我々が料理において、食材を焼くときには、
様々な「焼き方」が存在し、
それぞれ食材や目的に合わせて、
様々な焼き方を駆使するものだが、
少なくとも料理技法の上では「黒焼き」なんていう焼き方は、
聞いたことがない。
ただイメージだけでいえば、直火でこんがりと、
それこそ「黒」焦げになるまで焼いたものが、
頭の中に浮かんでくるのだが、
これではただの消し炭のようなもので、
イモリに含まれている筈の薬効も何も、無くなっていそうだ。

インターネットの検索エンジンを使い、
「黒焼き」というワードで検索してみると、
「黒焼き」とは、土鍋の中に黒焼きにしたい食材(?)を入れ、
そのまま蒸すようにして、焼き上げていく技法らしい。
この焼き上げていく過程で、水分や脂肪、タンパク質などが
ほとんど失われ、炭水化物とミネラル、
少量のビタミン類だけが残るという。
そしてこの中に、生のままや、煮たり焼いたりしただけでは
得られない成分が、抽出されているのだという。
……。
話を聞いているだけでも、
どことなくオカルトっぽい話に聞こえる。
この「黒焼き」にすることによって得られる成分が、
人間の健康に、大変役に立つという。
調べてみると、イモリの他にもマムシやカタツムリ、
ナスのヘタや赤とんぼまで、「黒焼き」にされていた。
それぞれ健康に効果があるのだが、
どうしたって食欲の沸くラインナップではない。

イモリは、有尾目イモリ科イモリ属に分類される
両生類の一種である。
日本においてイモリといえば、
腹部の赤いアカハライモリをさしている。
本州、四国、九州に分布する日本の固有種であり、
別名をニホンイモリともいう。
全長は10cmほどで、4本の短い足と長い尾を持つ。
パッと見た感じだと、サンショウウオのようにも見えるが、
それとは異なり、皮膚はザラザラしている。
背中は黒か茶褐色で、腹部は赤く、黒い斑点模様が入っている。
ただ、色には地域差や個体差があり、
全身がほとんど黒いものや、斑点が見られないもの、
腹部だけでなく、背中まで赤いものなど、
様々なカラーパターンが存在している。
実は、フグと同じテトロドトキシンという猛毒を持っており、
腹部の赤黒の斑点模様は、自身が毒を持っていることを
他の動物に知らせる、警戒色だといわれている。
陸上において強い物理刺激を受けた際には、
身体を横にして反り返らせ、腹部の赤い模様をアピールする。
その腹出しアピールが、
どれほど効果を発するのかはわからないが、
相手が毒に対する警戒をもっていなければ、
まるで、どうぞお召し上がりくださいといわんばかりの
ポーズである。

イモリは非常に高い肉体再生能力を持っている。
例えば、尻尾が切れてしまった場合、
きっちりと骨まで含めて再生される。
尻尾を切るといえば、
トカゲの尻尾きりで有名なトカゲがいるが、
トカゲの尻尾も再生はするものの、
一度失ってしまった骨に関しては、二度と再生することはない、
そう考えてみれば、いかにイモリが
強い再生能力を持っているかが理解できるだろう。
イモリの場合、四肢(手足)をそれぞれ肩の部分から
切断したとしても、指先まで完全に再生される。
まるでピッコロ大魔王である。
ちなみに尻尾や四肢の他、目玉のレンズなども再生できるのだが、
どういう状況になれば、
目玉のレンズが無くなってしまうのかは、不明である。

名前が似ていることから、
イモリとヤモリを混同してしまっている人もいる。
姿・形は良く似通っているものの、
イモリは両生類、ヤモリはは虫類と、
全くの別物である。
両生類であるイモリは、
成体となった後は、ほとんどを水中で過ごすが、
は虫類であるヤモリは、
その一生を通じて、水の中に入ることがない。

さて、冒頭でも触れた「イモリの黒焼き」だが、
これには媚薬としての効果があり、
これを粉にして人に振りかけると
相手を惹き付ける力があるという。
科学的にいえば、そのような効果はありえないのだが、
だとしたら、どうしてそんな迷信が生まれたのか?
そのルーツをたどっていくと、
古代中国のある「まじない」に行き着く。
男性が「ヤモリ」に朱を食べさせて、これを飼い、
その血を採って、女性に塗るというものである。
もし女性が他の男と浮気をすれば、
塗った「ヤモリ」の血が消えるというのである。
これを「守宮(ヤモリ)のしるし」といい、
これが日本へと伝えられた。
……。
え?ヤモリ?イモリじゃないの?と、突っ込まれるだろうが、
中国の「まじない」で使われていたのは、
イモリではなくヤモリである。
これが日本に来た際に、ヤモリとイモリが混同し、
さらに混同されたイモリが
「媚薬」ということになったのである。
この「媚薬」としての働きは、「イモリのしるし」と呼ばれ、
しかもどういうわけか、イモリを黒焼きにして、
これを粉にしたものを人に振りかけるという、
中国の「まじない」の、影も形もないものへと
変貌してしまったのである。
もし、日本に伝来したときに、
ヤモリとイモリの混同が起こらなければ
黒焼きにされていたのは、ヤモリだったのかもしれない。
ヤモリは危うい所で、黒焼きの運命を回避したことになる。

ともあれ、イモリの黒焼きは
「媚薬」としての効果があるということで、
全国的に広まっていく。
イモリの黒焼きに、そのような効果があると信じられたのは、
イモリの雌雄が仲がよく、
良く交尾をすると信じられていたからだ。
(実はイモリは交尾をしない。
 雄が精子の入った袋を排出し、
 雌がそれを体内に取り込むことによって、受精する。
 つまり一般的な交尾行為は全く行なわないのである)
この「媚薬」としての効果は、
結構、最近まで信じられており、雑誌に黒焼きの広告が出たり、
アメリカなどへも、かなりの量を輸出していたらしい。
この化学の発達した世の中においてなお、
この手の怪しげな商品に頼ってしまう辺り、
「モテたい」という思いは、
人の目を曇らせてしまうものらしい。

最近では、水田のなどの環境が変わったせいか、
イモリの生息数は、どんとんと減ってきている。
さらに小さく、腹の赤いイモリは「かわいい」ということで、
ペット用に捕獲され、海外に輸出されることによって、
ますますその数を減らしている。
イモリを見つけても、捕まえたりはせず、
そっと見守ってあげるようにしよう。

間違っても、「黒焼き」に……、などとは考えないように。

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