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チーズケーキ

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自分が子供のころ、チーズケーキはボリュームがあった。

人によっては、自分が何を言っているのか
分からない人もいるだろう。
自分が子供のころだから、今から大体30年ほど前の話だ。
そのころには、龍野市のような田舎町でも
お店に行けばチーズケーキを購入出来るほどには、
その知名度が上がっていたのである。
ただ、そのころのチーズケーキは、
どれも判を押したように同じ姿をしていた。
その形というのは、デコレーションケーキから
一切の飾り付けと、塗りたくられている
生クリームを取り去ったような円柱形で、
円柱の上部が緩やかな丘状に膨らんでいた。
円柱の側面は、普通のスポンジケーキと同じような
クリーム色なのだが、丘状の部分はくすんだオレンジ色で、
何かゼリー状のものでも塗られているのか、
ツヤツヤと輝いていた。

これを普通のデコレーションケーキと同じように
切り分けて食べるのだが、
チーズケーキの内部は、普通のスポンジケーキのように
フワフワではなく、みっちりと詰まっている感じであった。
このみっちりと詰まっている部分には、
スポンジケーキとは比べ物にならないほどの
ドッシリとしたコクと、わずかに感じられる酸味があった。
自分はたちまちこのチーズケーキが大好きになった。
みっちりと詰まった中の、ドッシリとした濃厚な味は
デコレーションケーキのスポンジや生クリームよりも
大きな満足感を与えてくれていたからである。
これ以降は、小さなケーキの詰め合わせなどを貰うと、
率先してチーズケーキを狙うようになった。
食べ盛りの子供にとって、
食べごたえがあって味が濃いというのは、
何物にも勝る必須条件であった。

しかし女子と違い男子は、成長していくに従って
ケーキ類とは付き合いが疎遠になっていく。
決してケーキ類を嫌いになったわけではないのだが、
喫茶店に入ってケーキと紅茶を注文するよりは、
定食屋に駆け込んで、カツ丼とラーメンをがっつくようになる。
(まあ、全ての男子がそうなるわけではないだろうが……)
10代後半から20代前半にかけての猛烈な食欲は、
どうしたってケーキと紅茶だけでは、満足させることが出来ない。
だがやがて、その猛烈な食欲が収まった際、
その目はケーキや紅茶などにも注がれるようになる。
(もちろん、そうならない者もいる)
自分なども、一時期の猛烈な食欲が収まってしまえば、
一度離れた甘味の世界などに、目を向ける余裕もできた。
そして、再び甘味の世界に目を向けた時、
そこには変わり果てたチーズケーキの姿があった。

久しぶりにあったチーズケーキはペッタンコであった。
雄々しく立ち上がって、頭頂部が丸く膨らんでいたチーズケーキは
ひどく薄っぺらくなってしまって
何かサックリとした皿のようなものに乗せられている。
こんもりと膨らんでいた表面は、ベッコリとへこみ、
まるで皿の形に合わせて、張り付いているように見える。
これではボリュームも何もない。
自分が甘味から離れていた間に、
チーズケーキに何が起こったというのだろう?

「チーズケーキ」の定義というのは、非常にシンプルだ。
チーズを使ったケーキ、これだけである。
それじゃ、余りにシンプルすぎるだろと、
思う人もいるかも知れないが、
チーズケーキには何種類か種類があり、
それらに共通している部分というのは、
「チーズ」を使っているという、その1点なのである。

現在、チーズケーキというのは、大きく3つに分けられている。

まず、ベイクト・チーズケーキ。
チーズ、卵、牛乳などを混ぜて焼いたもので、
3種類のチーズケーキの中では、
もっともドッシリとしたコクがある。
現在、作られているチーズケーキの中では、
その元祖といえるものであり、
全てのチーズケーキのもとになったものでもある。
先に書いた、自分が子供のころ食べていたチーズケーキは、
このベイクト・チーズケーキである。
最近では、皿状のタルトの上に生地を乗せて焼いたものもある。
(これが、自分が目にしたペッタンコチーズケーキである)

次にレア・チーズケーキ。
これはその名前の通り、火を通さないチーズケーキである。
クリームチーズに生クリームなどを混ぜ合わせ、
ゼラチンなどを使って固める。
ベイクト・チーズケーキと同じように
タルトの上で作られることもある。
かなり柔らかい仕上がりになる。
火を通していないため、これって本当にケーキなの?
ゼリーとかババロアとかそういうものじゃないの?
なんて風に思う人もいるかも知れないが、
一応、ケーキのカテゴリーに入る。

最後がスフレタイプ・チーズケーキである。
これは、焼いたりゼラチンを使って固めるのではなく、
泡立てた卵を湯煎や、蒸し上げることによって固めたものだ。
泡立てた卵が使われているためスフレタイプと呼ばれる。
3つの中では、もっともふんわりとした軟らかさを誇る。
だが、このスフレタイプ・チーズケーキは、
日本で作り出されたものであり、歴史も浅い。

チーズケーキの歴史を遡っていくと、
紀元前776年、古代ギリシャで行なわれた
第1回オリンピックに辿り着く。
このとき、チーズケーキがアスリートたちに振る舞われた。
このチーズケーキは「トリヨン」という名前で呼ばれていたが、
これは現在のチーズケーキと違い、
チーズを使ったプティング状の食べ物であったという。
これが記録に残っている上で、もっとも古いチーズケーキとなる。
現在、我々が食べているチーズケーキの直接の祖先は、
中世ポーランドで生まれた。
トゥファルクという、生乳を発酵させて作ったチーズを使い、
「セルニック」という名前のチーズケーキが作られた。
これは焼いて作られたベイクト・チーズケーキである。
「セルニック」は、現在でもポーランドポドハレ地方で
郷土料理として食べられ続けている。
この「セルニック」が、ポーランド系移民の手によって
アメリカに伝えられ、世界中に広がっていくきっかけになった。
1872年にはクリームチーズが発明され、
チーズケーキのレシピの発展に一役買った。
(レア・チーズケーキはこれ以降に作られたと考えられる)

日本では、明治6年に書かれた「万宝珍書」と言う書物の中に、
「甘味の製法」という項目があり、
そこに「ライス・チースケーキ」とある。
(このころは「チーズ」ではなく「チース」と呼んでいた)
どうもライスとチーズの混じったものだったらしく、
当時の人たちには受け入れられなかったようだ。
チーズケーキが本格的に日本に入ってきたのは、
戦後になってからのことである。
当時、アメリカで食べられていたベイクト・チーズケーキや
レア・チーズケーキが、進駐軍によって持ち込まれた。
ただ、冷蔵設備がしっかりと整うまでは、
それほど一般的なものではなかったようだ。
チーズケーキが一般的になっていくのは、
昭和40年代も後半のことである。
女性誌でチーズケーキが特集されたことをきっかけにして、
爆発的な「チーズケーキ」ブームが起こり、
一気にメジャー化していったのである。

現在では、ほとんどの洋菓子店で
「チーズケーキ」を買うことが出来るし、
スーパーやコンビニでも、これを置いている所が多い。
時代の流れとともに、昔懐かしい
ボリュームのある頭テカテカのチーズケーキは少なくなったが、
これは新種のチーズケーキが増えたために、
目立たなくなってしまったためで、
決して無くなってしまったわけではない。
ちゃんと探せば、普通に手に入れることが出来る。

自分が子供のころから30年。
チーズケーキは「選んで」買う時代になったのである。

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