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アジサイ

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何日か前に、近畿地方が梅雨入りしたというニュースがあった。

毎年のこととは言いながら、
ジメジメ、ジトジトと
鬱陶しい天気が続くのは、イヤなものである。
家の外のみならず、家の中まで
ジトジトと湿気てくるようで、
気分も沈みがちになる。
梅雨が好きだ、という人もいるかも知れないが、
さすがにこればっかりは、全く理解できない。

そんな鬱陶しい季節、
町の中を自転車で走っていると、
あちこちの庭先で、「アジサイ」が花を咲かせている。
何もかもが、鬱陶しく感じられる中で、
色とりどりの花を咲かせる「アジサイ」は、
この鬱陶しさを、わずかながらも晴らしてくれる。

毎年、この時期になると、姫路市安富町の安志稲荷へと出かける。
この神社の境内の中に、「あじさい公園」が整備されており、
おおよそ1万本ものアジサイが植えられている。
山の斜面をきれいに整備し、一面に植え付けられたアジサイは、
6〜7月ごろに開花期を迎え、
山の斜面を、色とりどりの花で埋め尽くしてしまう。
山の谷間には、小川が整備されており、
カエルやイモリがわんさかと生息している。
特にイモリに関しては、外敵がいないせいか
相当の数を見ることが出来る。
まさにイモリの楽園だ。
一面に咲き誇るアジサイの間に作られた、小さな小川。
その中にはチョコチョコと泳ぐ、人差し指大のイモリたち。
まさに梅雨の時期にのみ現れる、湿気た楽園である。
安富町は姫路市に合併されてしまったが、
宍粟郡安富町であったころは、「アジサイ」を町の花としていた。
安富町では、「あじさい公園」のみならず、
町の各所にアジサイを植え、
現在でも町のあちこちでアジサイの花を見ることが出来る。

アジサイは、アジサイ科アジサイ属の落葉低木である。
一般にはアジサイ属の植物を総称して
「アジサイ」と呼ぶが、
我々がアジサイとしてよく見かける
小さな花が半球状に集まったものを、
特に「ホンアジサイ」と呼ぶことがある。
アジサイの中には、中央部分に花が咲かず、
その周りに衛星状に花がついている種がある。
これは「ガクアジサイ」と呼ばれる種なのだが、
もともとはこの「ガクアジサイ」こそが、
日本古来より伝わる、日本原産のアジサイであり、
これが、はるか昔に中国へと渡り、
さらにヨーロッパへと伝えられた。
この「ガクアジサイ」を園芸種として改良し、
中央部分にも花が咲くようになったものが、
「ホンアジサイ」である。
ヨーロッパへ伝えられ、そこで品種改良された後、
再び日本へと逆輸入されたものを、
「セイヨウアジサイ」と呼ぶ。

樹高は1〜2mほどで、
庭園や公園などに良く植えられている。
5〜7月くらいの間に、紫(赤紫〜青紫)の花を咲かせる。
この花の色は、アントシアニンという色素によるもので、
どのような色になるかは、
土壌の酸性度、アルミニウムイオンの量、遺伝的な要素などが
複雑に絡み合って決定される。
土が酸性であれば、
土壌内に含まれているアルミニウム成分が溶け、
アジサイの根から吸収され、花を青く染める。
逆に土がアルカリ性であれば、
土壌内のアルミニウム成分は溶けず、
花は赤色を帯びるようになる。
だが、冷静にアジサイの花を観察してみると、
同じ木から咲いている花でも、色が違っていることがある。
アジサイの花の色は、開花から日をおくと
徐々に変化していく。
開花当初は、花に含まれる葉緑素のために、
薄い黄緑色をしているが、
これが時間とともに分解され、
さらにアントシアニンや補助色素が合成されることによって、
花は赤や青に変化していく。
さらに時間が経過すると、有機酸が蓄積されるため、
青い花であっても、だんだんと赤味を帯びてくるようになる。
これは花が「老化」したために起こる現象であり、
土壌の酸性度とは関係がない。

アジサイの、名前の由来については諸説あり、
どれが正しいのかは、はっきりしないのだが、
藍色が集まったものという意味を持つ「あづさい(集真藍)」説、
「味」が評価を、「狭藍」は花の色を表すという「味狭藍」説、
「集まって咲くもの」から転じたとする説、
「厚咲き」が転じたものとする説などがある。
日本最古の和歌集「万葉集」の中にも、
アジサイを題材にした和歌が載っており、
そこには「味狭藍」「安治佐為」と書かれている。
「味狭藍」はともかく、「安治佐為」の方は音を合わせただけの
宛て字であろう。
いわゆる「万葉がな」である。
現在では、アジサイを漢字で「紫陽花」と書くが、
実はこれは本来、アジサイのことではない。
この「紫陽花」というのは、唐の詩人・白居易が
ライラックの花につけた名前である。
これを平安時代の学者・源順がアジサイに当てはめたことから、
そのまま「紫陽花」はアジサイをさすようになった。
ライラックはヨーロッパ原産の花で、アジサイと同じように
小さな紫の花が集まった花であるが、
アジサイとは全く関係のない花である。
この源順の間違いは、誰にも気付かれることなく定着していき、
これが誤りであることに気付いた後も、
「紫陽花」はアジサイのまま、現在でも使用されて続けている。

江戸時代、日本にやってきたドイツ人医師・シーボルトは、
後にオランダに帰還し、
植物学者と共著で「日本植物誌」を著した。
その中でアジサイ属14種を、新種として紹介している。
ここで紹介されたアジサイの中に、
「Hydrangea otaksa Siebold et Zuccarini」というものがあり、
この中の「otaksa」という部分について、
アジサイが、日本で「オタクサ」と呼ばれているからと、
説明しているのだが、
日本ではアジサイを「オタクサ」と呼ぶことはない。
一説によると、シーボルトの日本人妻であった「お滝さん」から、
「オタクサ」という名前がつけられたともいう。
これが事実かどうかはわからないが、
もし事実だとすれば、自分の妻の名前をうまくごまかして
学名にしてしまおうとしたシーボルトは、
かなりのちゃっかり者である。
残念ながら、シーボルトの紹介したアジサイは、
すでに別の名前で登録されており、
シーボルトのつけた名前が、学名になることはなかった。
草葉の陰で、シーボルトも無念がっているかも知れない。

万葉の昔から、日本人に愛されて来たアジサイだが、
実は強い毒を持っている。
アジサイを食べるということ自体、全く行なわれないことなので、
通常、アジサイの毒でどうこういうこともないのだが、
2008年に、料理の飾り付けとして使われていた
アジサイの葉を食べた客が、中毒するという事故も起きている。
症状としては過呼吸、興奮、ふらつき歩行、痙攣、
麻痺などを起こし、最悪の場合は死に至ることもある。
庭にいくらでも咲いているからといって、
気軽に料理の飾り付けなどに、使わないようにしよう。

さて、先に書いた姫路市安富町の「あじさい公園」。
安志稲荷神社のすぐ側にあり、入場も無料だ。
(駐車場も神社の駐車場を使うのがいいだろう)
6月の頭である現在では、まだ花は咲き始めなので、
これから6月の下旬、7月の上旬にかけて
花が咲き揃っていくことになる。
また、6月28日には毎年恒例の「あじさい祭り」も開催される。
(こちらは、あじさい公園ではなく、
 ネスパル安富で行なわれる。
 場所を間違えないようにしよう)

ジメジメと鬱陶しい梅雨の日曜日。
満開のアジサイを眺め、気分を晴らすのも良いだろう。

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