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動物 食べ物

アナゴ

投稿日:

By: t-mizo

我が家では、長らく「うなぎ」を食べなかった。

ただそれだけなら「ああ、そうなの」で終わる話である。
我が家では「うなぎ」の代わりとして、
「アナゴ」を食べていた。
一般家庭では、「今夜はウナギよ」ということになると、
子供は「わーい」と喜んで、晩ご飯を心待ちにする。
我が家では、「今夜はアナゴよ」ということになり、
それを聞いた子供たちは「ふーん」と聞き流す。
そんな調子であった。

なぜ我が家が、「アナゴ一辺倒」だったのかは
わからない。
父親か母親が、「うなぎ」嫌いだったのかもしれないし、
あるいはもっと単純に、
「ウナギは高いから」という理由だったのかもしれない。
かくして我が家の3兄弟は、
「うな丼」の代わりに「アナゴ丼」を食べさせられてきた。
だから自分が生まれて初めて「うなぎ」を食べたのは、
高校生になってからのことである。
今でもはっきりと覚えているが、
親戚の家で、スーパーで買ってきた半額の蒲焼きを
電子レンジで温め、ご飯の上にのせたものであった。

人生初のウナギである。
TVやマンガなどでは、何度もその姿を見ていたが、
そこでは、ウナギは最高にウマいものという表現が
貫かれていた。
焼きアナゴのおとなしい、地味な見た目と違い、
ウナギの蒲焼きは全身がタレと脂にまみれ、
「ギラギラ」と輝いている。
自分は、期待に胸を膨らませながら、
ウナギの一片をつかみ口に運んだ。

「……」

しばらく言葉もなかった。
マズいのである。
あー、スーパーの半額品だからなーとか、
そういうレベルの話ではなく、
ベットベトの脂と、ベットベトのタレが口の中に溢れ返り、
思わず頭がクラクラした。
おかしい。
TVやマンガでは、もっとウマそうだったはずだが……。

しかし、考えてみればこれは当たり前である。
生まれてから10数年間、
アナゴのさっぱり味しか食べてこなかった人間が、
脂分過剰の養殖うなぎを食べれば、
100人いれば、100人が自分と同じ感想を持つだろう。

以降は、「うなぎ」に苦手意識を持ってしまい、
一人暮らしをしていたときも、
「ウナギの蒲焼き」だけは、たとえ半額になっていても
絶対に買うことはなかったのである。
(もっとも、もうこの苦手意識は無くなり、
 全く普通にウナギを食べているが……)

「アナゴ」はウナギ目アナゴ科に属する魚類の総称である。
数多くの種類のアナゴがいるが、
日本で一般的に「アナゴ」として知られているのは、
マアナゴのことである。
ウナギ目という部分からもわかるように、
ウナギに近い品種で、見た目もウナギに似ている。
とはいえ、もちろん違いもあり、
アナゴにはウナギのように鱗はないし……、
と、こう書くと、
いやいやウナギにも鱗は無いじゃない、
と思われるだろうが、実はウナギには鱗がある。
皮膚の下に小さな鱗が埋まっているので、
人間の目には見えないだけである。
その点、アナゴは見た目通りに、鱗がない。
さらにウナギは淡水の川を遡上するが、
アナゴは一生を海の中で過ごす。
ウナギ同様に、その生態には謎も多く、
たとえば、アナゴがどこで産卵しているのか?
というような問題に関しても、
ウナギと同じく、はっきりとはわからない。
恐らくは、東シナ海かフィリピン近海に産卵場所があり、
そこで生まれたアナゴの幼生が、
黒潮に乗って日本近海までやってくるのだろうと
考えられている。

いつごろから、食べられているのか?
という点に関しても、
全くといっていいほど資料がない。
江戸時代には、すでに江戸前のアナゴが
有名だったことから、
江戸時代にアナゴが食べられていたのは確実だが、
それ以前のこととなると、情報はほとんど無い。
5000年前の貝塚から
ウナギの骨が出てきているという事実もあり、
アナゴも同じころから食べられている可能性もある。
だが「万葉集」に「歌」が載っているウナギと違い、
文献上に、アナゴの情報は見当たらない。
ウナギに比べると、悲しくなってくるほど
資料が無いのである。
やはりアナゴはどこまでも、
ウナギの陰に隠れた存在ということだろうか?

「アナゴ」は、漢字では「穴子」と書く。
これは日中、海底の砂泥中や岩石の隙間などに潜り込み、
顔、あるいは上半身を、巣穴の中から出している姿から
名付けられたものである。
アナゴの一種であるチンアナゴは、
浅い海の砂泥底に、群れで穴を掘って棲息している。
集団で、巣穴から身体を乗り出す姿が、
「カワイイ」と評判を呼んでいる。
現在では、あちこちの水族館にて、
このチンアナゴの姿を見ることが出来る。

アナゴもウナギと同じく、
日本食の食材として使われてきた。
天ぷら、蒲焼き、八幡巻き、寿司など、
アナゴを使ったメニューは多い。
ウナギよりも安価であることから、
昔から庶民に愛されてきた魚であるが、
ウナギと違い、養殖技術の確立が遅れていたため、
長らく天然物を獲ってくるか、
外国産を輸入するしかなかったのだが、
近年、ようやく養殖技術が確立した。
その一方で、瀬戸内海では
アナゴの漁獲量が激減している。
原因は地球温暖化による水温の上昇で、
アナゴがこれまでより北方に
定着するようになったためではないかといわれている。
さらにハモによる食害がこれに拍車をかけ、
現在、瀬戸内海のアナゴは危機的状況にある。
そのため、アナゴの値段が上昇し、
時にウナギの値段を上回ることもあるという。
なんとも、エラい時代になったものである。

さて今回、「アナゴ」について調べようと
ネットで検索をかけてみると、
出るわ出るわ、実に半分以上が「サザエさん」に出てくる
マスオさんの同僚の、「タラコ唇」のネタであった。
一体いつの間に「ヤツ」が、
こんなに知名度を上げたのかはわからないが、
アナゴは海の中でも、ネットの上でも、
危機的状況にあるようだ。

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