自分の住んでいる兵庫県たつの市には、全国的に有名な麺がある。
播州手延べそうめん「揖保乃糸」だ。
これは全国的なシェアがあり、４０％という数字を誇る。
２位以下を圧倒的に引き離した数字だ。
恐らく日本で、手延べそうめん「揖保乃糸」を知らない人はいない。
たつの市民に「たつののそうめんと言えば？」と聞けば、
１００人が１００人とも「揖保乃糸」と答える。
だが、たつの市民に「たつのの麺と言えば？」と聞けば、
１００人が１００人とも「揖保乃糸」とは答えない。
１００人の中の何人かは「チャンポンめん」とこたえる。
今回はたつの市のもうひとつの麺、「チャンポンめん」について書いていく。
インターネットの投票で、あなたの好きな即席麺は？という質問をすると
決して上位には入ってこない少数意見として、
「チャンポンめん」の名前があがる。
その投票結果を見た多くの人は、「チャンポンめんってなんだ？」と思う。
そう、「チャンポンめん」は全国区の商品ではない。
日本の中でも、極めて限定的な地域でのみ販売されている。
「ちゃんぽん」といえば「長崎ちゃんぽん」が有名だ。
野菜や魚介類がたっぷりとのった、長崎の麺料理だ。
「チャンポンめん」はこの「長崎ちゃんぽん」とは全く関係ない。
いったいどこから「チャンポン」の名前が出てきたのか、明らかではない。
この「チャンポンめん」は極めてあっさりとした味わいだ。
パッケージにも、「あっさりした味覚」と印刷されている。
恐らく日本の即席麺の中でも、もっともあっさりしているのではないか？
それほどにあっさりとしているのだ。
それは原材料を見てみれば、よくわかる。
何と原材料名の中にある、動物性の食材が「えび」だけである。
しかもその「えび」は「かやく」ということで、
「乾燥えび」と「乾燥しいたけ」が粉末スープとは別に、
小さなパックで入っている。
もし、この「チャンポンめん」を作る際に「かやく」を入れなければ
この即席麺の中には全く動物性の食材が入っていないということになる。
こんな精進料理みたいな即席麺があるだろうか？
普通に「かやく」を入れて作っても、中に入っているのは
何匹かの小さな「乾燥えび」だけだ。
「チャンポンめん」のパッケージに印刷してある調理方法だと、
まず湯を沸騰させ、その中に「かやく」と「麺」を入れることになっている。
この時に入れた「かやく」の中からダシが出る。
意外に思われるかもしれないが、麺を煮込んでいるお湯からえびと椎茸の
香りがほんのりと立ち上る。
本来の「かやく」とは少し違った使われ方だ。
かやく。
漢字で書けば「加薬」となる。
読んで字のごとく、薬味を加えるという意味を持つ。
もっと大きな意味では、薬味だけではなく具の意味もある。
「チャンポンめん」に入っている「かやく」は、薬味とは言い難い。
一般に薬味というのは、ネギ、ごま、しょうが、わさびなどをさし、
乾燥えびと乾燥しいたけが薬味というのは、ちょっと違和感がある。
では「具」としての意味の「かやく」なのか？
薬味として捉えるよりは説得力があるが、具として考えるには
あまりに貧弱だ。
ではこの乾燥えびと乾燥しいたけは、何のために入っているのか？
乾燥しいたけというのは、ダシをとるのによく使われる。
具体的には乾燥しいたけの戻し汁を、ダシに加えて使うことが多い。
乾燥えびもまた、ダシをとるのに使われることがある。
やはり「チャンポンめん」の「かやく」は、
ダシをとるために入っていると判断するのが自然だ。
「チャンポンめん」、もとは「ヤンマーラーメン」という名前だった。
パッケージにトンボの姿が描いてあることから推測するに、
「ヤンマー」とはトンボを意味するものだったのだろう。
恐らく、この名前を聞いて、誰もが想像するもめ事が起こり、
「チャンポンめん」へと名前を変更した。
ちなみにパッケージに描いてあるトンボのキャラクター、「とびっこ」という。
「揖保乃糸」がたつの市の麺の表の顔だとしたら、
「チャンポンめん」はたつの市の麺の裏の顔だ。
「揖保乃糸」がA級グルメだとすれば、「チャンポンめん」はB級グルメだ。
もしたつのに観光に来られるようなことがあれば、
「揖保乃糸」や「淡口醤油」の定番土産の他に、
「チャンポンめん」もお勧めだ。
即席麺なので、他のお土産に比べて驚く程安い。
日本随一のあっさりラーメン、それも間違いなくたつのの味だ。
