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サバ

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By: Kanko*

かつて自分が中学生だったころ、
釣りの好きな友人と一緒に、海釣りに出かけたことがある。

ちょうど今と同じくらいの季節で、
赤穂市坂越の漁港で、アジやサバが狙いだった。
友人の父親は、サビキ仕掛けでガンガンと釣り上げていたが、
自分と友人はのべ竿を出して、ウキ釣りで釣っていた。
確かにサビキ仕掛けで釣れば、のべ竿でウキ釣りするのに比べて
何倍もの効率で魚が釣れるだろうが、
いかんせん、入れ食いで平均3~4匹も釣れるので、
それを続けていると、「釣り」をしているというよりは、
何か魚を捕る「作業」をしているような気分になる。
せっかく「釣り」をしているのに、
そんな気分になってしまっては、楽しさもへったくれもない。
友人の父親がサビキ仕掛けでガンガン釣っているから、
とりあえずの釣果については、しっかりと確保出来るので、
友人と2人、のんびりと「釣り」を楽しんだわけである。

一般的に「サビキ釣り」には、冷凍アミエビを使った
「まき餌」を使用する。
極小の「アミエビ」は、カゴの中に詰め込んで
水の中に撒く「まき餌」としては、まさに最高の餌である。
しかし、普通に針に餌をさす「ウキ釣り」の餌としては、
「アミエビ」は非常に使いにくい。
サヨリ釣りなどでは、この「アミエビ」をさし餌として使うが、
それはサヨリ針が「アミエビ」にあわせた極小サイズだからだ。
これを普通サイズの釣り針につけるのは、
まず、不可能と考えていい。
ということは、「ウキ釣り」においてアジ・サバを狙う場合、
「アミエビ」以外の、何らかの餌が必要ということになる。
だが、我々は「アミエビ」以外の餌を用意しなかった。
ん?それじゃ、「ウキ釣り」できないんじゃないの?と、
思われるかも知れないが、ちゃんと出来るのである。
やり方は非常に簡単だ。
まず、釣り場につくと「アミエビ」を溶かし、
これを餌として「サビキ釣り」を始める。
すぐにアジとサバが鈴なりに釣れるので、これを針から外し、
まな板の上にのせる。
サバなどは「生き腐れ」などともいわれるほどに、
傷みやすいものであるが、釣ったものをいきなり捌くのだから、
その心配は皆無である。
もっとも、食べるために捌いたわけではないので、
どちらにしても腹を壊したりすることはない。
普通の刺身よりは、ずっと小さいサイズに切り分け、
これを「餌」として、「ウキ釣り」をするのである。
つまり、アジ・サバを餌にして、アジ・サバを釣るわけだ。
共食い?とか、倫理的に……、なんていう声も聞こえてきそうだが、
釣った魚を餌にして、新たな魚を釣るわけだから、
理論的に考えれば、餌が無くなることはなく、
いつまでも釣り続けることが出来る、効率のいい釣りだ。
ただし、釣り上げることが出来るのは1匹ずつ、
ということになるので、
そういう意味で、釣り上げるスピード自体は速いものではない。

さて、自分が中学生だったころ、
西播地方でも入れ食いに近い状況でアジやサバが釣れていたのだが、
その10年ほど後になると、
すっかりアジもサバも釣れなくなっていた。
特に、サバに関しては全くといっていいほど釣れなくなっており、
その後、現在に至るまで西播地方の「サビキ釣り」で、
サバが釣れたという話は、ついぞ聞いたことがない。
先日、釣りに行った際、釣道具屋の掲示板を見てみたが、
「アジ」「イワシ」などについては、その名前があるものの、
「サバ」についてはその名前すら載っていなかった。
釣道具屋の掲示板なんていい加減なもので、
1匹でもその魚種が釣れていれば、掲示板などで大々的に吹聴し、
自分の所の商品を販売しようとするものだが、
そういう掲示板にすら、「サバ」の名前は
上がらなくなってしまっているのだ。
はっきりいって、全く釣れなくなってしまったと言って良いだろう。
どうして、「サバ」はいなくなってしまったのだろう?

サバは、スズキ目サバ科に属している、魚類の総称である。
日本では、このサバ科には4種類のサバが属している。
もっとも有名なマサバ。
身体にゴマのような模様のあるゴマサバ。
一般的には有名ではないグルクマとニジョウサバ。
グルクマとニジョウサバについては、南西諸島でしか獲れないので、
日本で捕れるサバは、マサバとゴマサバの
2種類であるといってもいいだろう。
日本各地で漁獲があるが、特に太平洋に面した地域と、
日本海に面した地域でその水揚げは多い。
これは基本的にサバが、外洋を回遊する「回遊魚」だからだ。
一例を挙げてみると、
伊豆諸島沖で生まれたサバは、そのまま北海道沖まで移動し、
そこでプランクトンなどを食べて大きく成長する。
そして育ったサバは、そのまま太平洋岸を南下し、
再び伊豆諸島沖に戻り、そこで産卵を行なう。
こういう風に、その成長によって大きく住む場所を移動して、
サバはその生涯を過ごすのである。

サバは、アジなどと同じく、「大衆魚」として知られている。
そのため、その調理方法もアジと同じように
多種多様なものがあるが、
ひとつ、アジとの大きな違いがある。
それは身に含まれている、大量の脂肪分である。
魚体100g中に含まれる脂肪分は、
アジの場合、7.8gであるのに対し、
サバの場合、12.1gとなっている。
実にアジの1.5倍ものを脂肪を、
サバはその身に含んでいるのである。
この豊富な脂肪分が、サバを不幸にした。
先に「サバの生き腐れ」という言葉を書いたが、
他の魚に比べてサバが傷むのが早いのは、
その身に含まれている脂肪分のためなのだ。
また、脂肪分による腐敗の早さの他にも、
食中毒を引き起こすヒスタミンの発生や、
寄生虫であるアニサキスの寄生などが、
「サバ」=「あたる」という図式を作り上げてしまった。
近年になって、サバに含まれるDHA(ドコサヘキサエン酸)や、
EPA(エイコサペンタエン酸)などの有用成分に注目が集まり、
ようやく評価される向きも出てきたが、
それまでは、「サバ」=「あたる」のイメージから、
きちんとした評価を得られていなかったのである。

だが、日本人は縄文時代からサバを食べていた。
日本各地の貝塚から、古代人が食べたと考えられる
サバの骨が見つかっているのである。
その中には、秋田県大館市にある池内遺跡など、
海から遠く離れた場所も含まれている。
「生き腐れ」と呼ばれる腐敗の早さを考えれば、
とても生のままのサバを運んでいたとは思えない。
恐らくは、縄文時代のころから、塩を使った「塩サバ」に
加工されていたのだろう。
奈良時代に書かれた「日本書紀」や、「出雲国風土記」には、
サバの名産地として周防の名前が挙がっている。
名産地として挙げられた周防が、
おいしいサバを獲っていたのは確実だろうが、
このころにはすでに、各地で獲れたサバの味競べも
行なわれていたのだろう。
「税」としてサバが納められた記録もあることから、
アジと同じような扱いを受けていたと考えられるが、
サバはアジと違い、最初期から庶民も口にしていたようである。
何故だろうか?
恐らく、これもサバの豊富な脂肪分が関係している。
江戸時代、脂の多かったマグロやサンマが
下魚と軽んじられていたことからも、
同じように脂の多かったサバも、
軽んじられていたのだと思われる。
アジに比べて、さらに下に見られていたからこそ、
貴族だけではなく、庶民も口にすることが出来ていたのだろう。
ただ、古くから日常的に食べられ続けてきただけに、
江戸時代に入ったころには完全に日常食となっており、
マグロなどのように、謂れのない中傷を受けることは
なかったようである。

さて、自分の住んでいる西播地方で
サバが釣れなくなった、と書いたが、
実は、サバの漁獲量自体も、ここの所大きく減少してきている。
昭和初期、サバの漁獲量は約9万tであった。
まだまだ、現在のような進んだ漁具もない時代のことだから、
この数値をどうこう言っても意味がないだろう。
昭和14年には約15万tまで上昇しているが、
戦争に突入し、漁船が徴用され、漁業者が徴兵されると
漁獲量も減少していき、約6万tにまで落ち込む。
戦後に入り、漁船が大型化され、魚群探知機が発明されるに至り、
漁獲量はグングンと増えていき、
昭和29年には29万t、昭和40年には60万t、
昭和43年から昭和55年までは、
100万tを超える漁獲量があった。
だが、この後、マサバの漁獲量はどんどんと減っていく。
昭和60年には77万t、平成5年には66万t、
平成11年には38万t、以降は平成25年の38万tと
ある程度の安定した漁獲量となっている。
だが、これにはウラがある。
サバの漁獲量はマサバ、ゴマサバを合わせた数字である。
かつては比較的高値で売れるマサバを選んで、
これを獲っていたのだが、
年々、マサバは獲れなくなっていったため、
比率的にどんどんとゴマサバの割合が多くなっているのだ。
現在では、サバの種類を選んでいる余裕がないほどに、
サバの数が減ってきているという。

それまで獲っていなかったゴマサバを獲ることによって、
なんとか漁獲量を維持していたサバ漁。
しかし、ゴマサバとて無限に沸いてくるわけではない。
しっかりと資源を見定め、
漁獲量をコントロールしていかない限り、
ついには日本の食卓から、サバが無くなる、
なんてことになってしまうかも知れない。

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