人類の甘味の歴史を辿っていくと、その大本は2つだ。
ひとつは果物。
これは後々、菓子へと進化していく。
そしてもうひとつが、このハチミツである。
果物が人類の甘味の歴史の第1歩であるとすれば、
ハチミツもまた、人類の甘味の歴史の第1歩であるといえる。
いわば右足の1歩と、左足の1歩と言い換えてもいい。
今回は、そんな歴史ある「ハチミツ」について書いていく。
人類がハチミツを食べはじめたのは、10000年以上前である。
このころのハチミツは、自然の中のミツバチの巣から、
蜜を採取していた。
スペインのアラニア洞窟の壁画には、ミツバチの巣からハチミツを採取する
女性の壁画が残っている。
これが確認できる、人類で一番最初の、ハチミツ関連の資料である。
壁に張り付くようにして、ミツバチの巣穴の中に手を突っ込んでいるが、
そのまわりにはミツバチたちがぶんぶんと飛び回っている。
この状態だと、どう考えても体中刺されて、大惨事になる。
そういう意味では、命がけの採取だ。
それを、どうして女性がやっているのか?
野生動物の狩猟が男性の仕事であり、
木の実などの採集が女性の仕事であったとすれば、
たしかにハチミツの採取は、狩猟というより、木の実の採集に近い仕事だ。
そう考えると、女性がハチミツを採取していてもおかしくはない。
きっとハチミツの採取は、女性の仕事の中でも
最大級の危険をともなう仕事だったに違いない。
人工的な蜜蜂養殖、養蜂が始まるのが、今から5000年前のことである。
エジプトでは、粘土製で筒状の巣箱を用いた、養蜂が行なわれた。
閉鎖空間の中に巣を作る、ミツバチの習性を利用したものだ。
巣箱は移動できるように作られており、巣箱を移動させながら養蜂を行なう、
現在でいう所の「転地養蜂」も、このころから始まっている。
養蜂の基本的なスタイルは、このころに出来上がっていた。
このころの養蜂で、現在と大きく違うのは、採蜜の方法である。
当時の採蜜は、蜂の巣を切り取り、
ぎゅっと押しつぶして蜜を搾り取るという、かなり乱暴なやり方だった。
採蜜量が少ない上に、蜂の群れにもダメージを与えるため、
非常に効率の悪いものだった。
これは1865年、遠心分離機を使う採蜜方法が開発されるまで続いた。
遠心分離機を使う方法は、それまでの採蜜法よりも、蜜の収穫高が高く、
従来の方法よりも5~10倍の採蜜量があった。
日本で養蜂が始まったのは、645年ごろ、
皇極天皇の時代であったと思われる。
「日本書紀」に、
「是歳、百済の太子余豊、蜜蜂の房四枚を以て、三輪山に放ち養ふ。
而して、終に蕃息らず」
とある。
当時、百済から亡命してきていた太子・余豊璋が、
三輪山にて養蜂を試みたが、失敗した記録である。
少なくとも養蜂についての技術は、このころには朝鮮半島を経て
日本に入ってきていたものと思われる。
余豊璋は失敗したが、すでにこのころには渡来人によって、
養蜂が始まっていた可能性も高い。
平安時代には、宮中への貢ぎ物にハチミツの記録があり、
「今鏡」、「今昔物語」には、蜜蜂が飼われている様子が書かれている。
江戸時代にはいると、巣箱を使った養蜂が始まった。
明治時代には西洋蜜蜂が移入され、器具も近代的なものが使われるようになった。
ハチミツは、常温でも傷むことがない。
これは、ハチミツが極めて高い糖分を含有しているからで、
その成分は糖分が80%、水分が20%となっている。
ビタミンやミネラルも含んではいるが、0.1%にも満たない。
その成分比のためか、自然界でもっとも甘い蜜であるといわれる。
主に食用、薬用として使われることが多かったが、
現在では芳香剤や、化粧品などにも使われるようになっている。
先に書いたように、常温でも保存が可能だが、
保存状態によっては結晶化し、白く固まってしまうことがある。
この結晶自身、有害なものではないし、そのまま食べることもできるのだが、
実際にはハチミツをゆっくりと加熱することによって、
元の状態にもどすことができる。
ただ、この際、熱を加えすぎたりすれば品質が変化し、
風味が変わったり、色が変わったりする。
加熱する時は、慎重に。
現在では、調味料、甘味料というよりは、
一種の健康食品としての見方をされることの多いハチミツだが、
最近の研究により、一定の健康効果は確認されている。
各種病気に効果あり、ということだが、効果のある病気の中に糖尿病まである。
よりにもよって、糖尿病?
本当に効くのだろうか?
さて、ここまで見てきたように、ハチミツは風味よく、甘みも強く、
おまけに健康にも良い。
保存も利くので、積極的に使っていきたい食材であるのだが、
実際の所、それほど頻繁に利用するわけではない。
何故か?
簡単だ。
ハチミツはあれで意外と扱いにくいのだ。
保存状況によっては、あっという間に結晶化してしまうし、
そうでなくとも、粘液状でべたつくハチミツには、扱いにくさがある。
スプーンですくってもきれいにはがれ落ちずに、スプーンにへばりついている。
これでは料理をする際に、細かい計量がしにくい。
さらに結晶化してしまうと、元に戻すのも難しい。
湯煎すればもとに戻るとか、電子レンジで温めればいいともいうが、
時間がかかった割には、全然元に戻らない。
ネットや、本などではいとも簡単に戻るようなことを書いているが、
実際にはそう簡単にはいかない。
思ったようにいかず、諦めてしまうこともあるのではないだろうか?
そうなった場合、どうすればいいか?
こうなると、もう結晶化したまま使うしかない。
結晶化しているといっても、石になったわけではない。
所詮、奴らは糖分だ。
スプーンでも握ってガツガツとやれば、意外と簡単に砕くことができる。
これをどうやって食べればいいか?
このまま食べてもいいが、それでは芸がない。
砕けたハチミツの結晶を、マグカップに入れる。
大きめに割れた結晶を入れるといい。
そこにレモン汁を入れる、あるいはチューブの擦りおろし生姜を入れる。
そのまま熱湯を注いでやる。
こうしてやると、わりとあっさり結晶は溶けて、
ホットハチミツレモン、あるいはホット生姜ドリンクの出来上がりだ。
冬場では、体の暖まる、一杯になる。
冷蔵庫の奥や、調味料棚の奥で放置されているハチミツはないだろうか?
「道の駅」などで何となく気に入って買ってきたけど、
それほど使わなかったハチミツ。
結晶化したまま、何となく放置したままになっているハチミツ。
なんとかしたいが、どうしようもないハチミツ。
傷むのなら捨てられるが、傷みもしないハチミツ。
そういう場合、是非スプーンでがつがつやって、
ホットドリンクにしてみてほしい。
ハチミツの風味が効いたホットドリンクは、意外とクセになる。