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チアシード

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話は前回の冒頭部分に戻る。

佐用町の菩提寺にて、両親の位牌にお参りした自分と弟夫婦は、
そのまま近くにある道の駅「平福」へと立ち寄った。
ここには地域の特産品を始め、様々な物産が陳列してある。
だが、佐用町で作られているような物品はともかく、
コーヒー豆を引いたものを袋詰めにして、
「佐用ブレンド」とか「武蔵ブレンド」をいう名前で
販売しているのは、さすがに首をひねらざるを得ない。
(もちろん、これと同じようなことは、
 他の道の駅でも行なわれており、龍野の方の道の駅では
 平然と「龍野ブレンド」のコーヒーが販売されている)
せめて原材料のうち、何か1つは
この地域の産物であってほしいと思うのは、間違いだろうか?

まあ、そんな感想を持ちながら、
陳列してある物品を吟味していたのだが、
そこで見つけたのが、前回、取り上げた「エゴマ」であった。
佐用近辺で「エゴマ」が栽培されているという話は
これまでに聞いたことが無いので、
恐らくこれも、どこからか持ち込んだものであろう。
そして、その横に置かれていた「チアシード」もまた、
どうみても、佐用町近辺で栽培されているとは思えない。
てか、何だ?
「チアシード」って。
「エゴマ」がかつて、日本で盛んに栽培されており、
この実を絞って油を採っていたことは、本で読んで知っていた。
だから「エゴマ」を見ても、おお、これがあの「エゴマ」かー、
と、思ったものの、その存在自体は未知のものではなかったのだが、
「チアシード」に至っては、全くの初耳である。
こういうものに、断然、興味がわくのが自分の性格である。
早速、ビンを手に取って中身を見てみると、
その中には、灰色をしたゴマ粒のようなものが入っていた。
パッと見た感じでは、「エゴマ」などよりも
ずっと「ゴマ」の様に見える。
形も、「ゴマ」と同じ水滴型だし、
もしラベルに「ゴマ」と書いてあれば、
全く何の疑いも持たずに、それを「ゴマ」と信じるだろう。
しかし、この「チアシード」のラベルに印刷されている写真は、
正直、かなり異質なものであった。
そこには、スプーンですくい上げられている
透明なジュレ状のものが印刷されていた。
寒天とか、葛とか、ゼラチンなどのような感じである。
その透明なジュレ状の中に、ビッチリと黒いツブツブが入っている。
例えとして持ち出すのはどうかと思われるが、
一見した所、カエルの卵のようにしか見えない。
正直、食べ物かどうかも怪しいのが、
少なくともスプーンですくっている所を見ると、
やはり、これは食べるものらしい。
多分、この中の黒いツブツブが、
ビンの中に入っているものなのだろうとアタリはつくのだが、
では、この周りのジュレ状の物質は、どこから出てきたというのか?

この「チアシード」、ひとビンで結構、いい値段がしていたので、
結局、買ってみることは無かったのだが、
とりあえず、家に帰ってからインターネットで調べてみた。
すると、「ゴマ」「エゴマ」などと似ているように感じた
「チアシード」は、明らかにそれら2つとは異質の食物であった。

「チアシード」。
「シード」というのは、英語で「タネ」のことを指しているので、
早い話、「チアシード」とは、
「チア」という植物の「タネ」ということになる。
なるほど、確かに形状は「タネ」と言われれば、その通りだろう。
では「チア」とは何なのか?
実はこれはナワトル語の「油っぽい」という言葉から来ているらしい。
ナワトル語というのは、あまり聞かない言葉だが、
現在では、メキシコなどで150万人ほどの人間が
使っている言葉だという。
もともとは、南北アメリカ大陸に住んでいたインディアンたちによって、
もっともよく話されていた言葉だったというから、
彼らにとっては、伝統的な言葉なのだろう。
語源が「そこ」ということは、そこが原産地であるということだ。
「チア」という植物は、シソ科アキギリ属の一年生草本で、
シソ科という意味では、「シソ」や、前回紹介した「エゴマ」と
ある程度は似ているということだろうか?
「シソ」も「エゴマ」も、その実から油が採れることを考えると、
「油っぽい」という名前を冠したこの植物との、類似性が感じられる。

背丈は1.75mほどに育ち、葉の大きさは3〜5㎝ほどというから
「シソ」に比べると、背丈が高いということになる。
ただ葉の方については、サイズ・形ともに
「シソ」の葉に似通っている。
トウモロコシなどと同じく、現地ではかなり重要な食物だったと
考えられており、現在でもそのタネ(チアシード)を採るために
栽培されている。
タネは大体1㎜ほどの大きさの楕円形をしており、
先にも書いたように、パッと見には「ゴマ」の様に見える。
しかし、この「チアシード」には、「ゴマ」とは全く違う
大きな特徴がある。
それが、高い親水性である。
親水性、などと書くと、どういうことなのか、
分かりにくく思われるかも知れないが、
この「チアシード」を水につけておくと、
何と自分の質量の12倍もの水を吸収する。
あ、じゃあ、この粒が12倍に膨れるの?と、
思う人がいるかも知れないが、そうではなく、
このとき、実の周りが粘液質のゲル状物質に包まれる。
そう。
これが、道の駅「平福」に陳列してあった「チアシード」の
ラベルに印刷されていた状態なのである。
このゲル状物質の正体は、グルコマンナンと呼ばれる物質で、
コンニャクにも含まれている成分である。
このゲル状物質の発生する量は、
「チアシード」の色によって差がある。
黒い「チアシード」の場合、膨張率は約10倍ほどなのに対し、
白い「チアシード」だと、これが14倍にもなる。
このことから、販売されている「チアシード」でも、
白い「チアシード」は黒い「チアシード」よりも高価になっている。

さて、このように水につけると奇妙なゲル状になる「チアシード」だが、
その栄養価は非常に高いものになっており、
「人の生命維持には、水とチアシードがあればいい」
などともいわれている。
この言葉が本当だとすれば、これはもう完全食である。
(もちろん、食生活としては、非常に味気ないものになるだろうが……)
多く含まれる栄養素としては、タンパク質、ミネラル、ビタミンB、
食物繊維、αリノレン酸などがある。
αリノレン酸は、「シソ」や「エゴマ」の実にも多く含まれていた
必須脂肪酸で、抗酸化作用があり老化防止に役立つことは、
前回も書いた通りである。
食物繊維というのは、先に書いたゲル状物質のグルコマンナンのことだ。
この「チアシード」を、1日大さじ1杯摂取すれば、
これらの1日に必要な摂取基準を満たせるというのだから、
その栄養価の高さがうかがえる。
スーパーフードなどと宣伝されているのも、
あながちオーバーな表現でもないわけだ。
ただ、いかんせん、大さじ1杯で1日分の栄養が摂れると
謳っているだけあって、「チアシード」のカロリーは高い。
ダイエットにいいからという理由で、これをバクバク食べていると、
返って太ってしまった、なんていうことにもなりかねない。

この「チアシード」、強い老化防止作用があり、
さらに食物繊維を多く含んでいることから、
ダイエット用の食品として注目を集めている。
動画サイトで「チアシード」について調べてみた所、
これを使ったスイーツやドリンクなどのレシピが多く紹介されており、
それらのほとんどが、ダイエットを強く打ち出していた。
これらの動画群を見た所では、おおよそ8〜10年ほど前から、
そこそこ話題になっていたらしい。
これについては、どうも、自分のアンテナの鈍さを
感じずにはいられない。

調べてみた所、最近ではスーパーなどでも売られている、
ということだったが、うちの近所のスーパーを探してみても
ついに「チアシード」は見つからなかった。
その代わり、というわけではないが、
大型薬局の健康食品コーナーの片隅に
何種類かの「チアシード」が置かれていた。
それを見た所、100〜200g入りの袋で、
大体1000円前後の値段が付けられている。
1日大さじ1杯(約10g)食べればいい、ということだが、
やはりそれほど安価な食品というわけでもないらしい。

ちょうど2〜30g入りくらいの使い切りサイズがあれば、
試しに食べてみるか、という気にもなるのだが、
さすがにダイエットをする必要もないのに、
大袋(というほどでもないのだが……)を買う気にはならなかった。

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