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雪消飯

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今年は大根が大豊作だ。

自分はここ3年ほど、秋から冬にかけて大根を作り、
一冬の間、これをオカズにして(というよりは大根飯にして)
ご飯を食べているのだが、どうも今年の大根の出来具合は
ここ3年の中で最も良いようである。
初年は出来具合にバラツキがあり、2年目は作り方をちょっと変えたのが
返って災いしてあまり大きく育たなかった。
今年はそれらの年の反省を踏まえ、いわば良いとこ取りをして
大根を栽培したため、これまでにない大豊作になっているのだ。

ただ、大豊作になったらなったで、問題がある。
一本、一本の大根が、葉も根も十分以上に育っているため、
毎日大根を食べていても、一向に数が減らないのである。
去年などは、一本一本の出来が悪く、サイズが小さかったために
これを食べるという意味では、全く苦労することがなかった。
一昨年は、我が家の大根畑は豊作だったものの、
世間的には大根が大不作で、しなびた大根が
1本300円ほどもする相場だったため、
人にあげればそれなりに喜んでもらえ、ある程度、数を減らすことが出来た。
だが、今年は世間的にも大根が大豊作で、
スーパーなどでは立派な大根が1本100円を切る値段で販売されている。
これでは、人に大根を貰ってくれといっても、
それほど喜んでは貰えないだろう。

そうなってくると、いよいよ性根を入れて、
大根の自家消費に励むしかないわけだが、
最近では大根飯に混ぜ込む大根の量を増やし過ぎ、
ついには「大根の入った飯」を喰っているんだか、
「飯粒のついた大根」を喰っているんだか分からないような状態に陥った。
それに連日、大根過多の大根飯ばかり食べていると、
たまには少し変わったモノを食べてみたくなる。
そこでちょっと頭をひねり、大根飯の他に
大根を使ったご飯メニューが無いものかと思い返してみた。
そこでふと、頭に浮かんできたのが「ゆきげめし」という言葉である。

「ゆきげめし」。
漢字で書くと「雪消飯」となる。
自分の記憶が確かならば、自分の愛読している歴史小説、
「料理人季蔵捕物帳控え」シリーズに出てきたメニューの1つで、
大根おろしを使ったご飯メニューだったはずである。
このシリーズは、もう何十冊もシリーズが出ているので、
何巻のどの話に出てきたのか、ということまでは覚えていないのだが、
大根おろしを雪に見立てて(?)いる辺りが何となく風流で、
その名前を記憶していたわけである。
ただ、自分が覚えていたのは「ゆきげめし」という言葉と、
大根おろしを使ったご飯メニューという2点だけである。
それもハッキリとではなく、おぼろげに記憶している程度だったわけだから、
とりあえずは記憶の中にある「ゆきげめし」が、
本当に実在しているメニューなのか?
さらに本当に大根おろしをつかったご飯メニューなのか?
という点について、改めて調べ直す必要があった。

とりあえずインターネットの検索サイトで「ゆきげめし」について
調べてみようと、平仮名で「ゆきげめし」と入力すると、
なんと漢字変換の候補の中に「雪消飯」というのがある。
おお、これだこれだと、早速その漢字を選択して検索をかけてみた。
すると、ずらりと表示される「雪消飯」の情報の数々。
画像検索に切り替えてみると「雪消飯」の画像とおぼしきものが
画面一杯に表示されている。
そのほとんどが、茶碗か丼に入っており、
器の底の方には茶色いスープが入っている。
それともう1つ特徴的なのは、同じく丼の底に何やら白くて太い
ヒモ状のものが入っている。
そのヒモ状のものは四角い断面で、一見すると細切れにされた
うどんの様にも見える。
そのヒモ状のものがスープに浸っており、さらにその上、
スープに浸るか浸らないかという辺りから、こんもりとご飯が盛られている。
この盛られたご飯の頭頂部には、彩りのためか、
かつお節がひとつまみほど乗せられている。
ただ、このかつお節は必須ではないのか、
画像によっては乗っていないものもある。
スープの色は濃いもの薄いもの様々だが、恐らくはカツオのダシ汁を
醤油で味付けしたものであろう。
ただ、改めてパッと見た感じでは、このメニューには
肝心の大根おろしが使われている様子が無い。
ひょっとして、器の底に入っている白いヒモ状のものが
拍子木切りにされた大根なのかと疑ってみたが、
画像をよくよく見直してみると、この白いヒモ状のものは
クネクネと曲がっており、かなり柔らかそうだ。
仮に拍子木切りにした大根に塩をして水分を抜いたとしても、
ここまでクネクネと曲がるようにはならないだろう。
それに、自分の記憶している限り「雪消飯」に使われているのは
拍子木切りにされた大根ではなく、大根おろしだったはずである。

改めて、それらのページに載っている「雪消飯」の説明を読んでみると、
「雪消飯」の構造というのはこうである。

まず、器の一番下に入っていた白いヒモ状のものだが、
これは拍子木切りにされた「豆腐」であった。
なるほど、柔らかい豆腐なら画像の様にクネクネとしていてもおかしくない。
そこにダシ汁を張った後、豆腐の上に大根おろしを乗せる。
ある程度薄く、平たく伸ばして乗せるのがコツのようだ。
さらにその上に、ご飯が乗せてある。
だから下から順に書いていくと、ダシ汁に入ったヒモ状の豆腐、
大根おろし、ご飯という順に重ねてあるわけだ。
作り方を読んだ限りでは、拍子木切りにされた豆腐は
先にダシ汁などで温めておき、温まった豆腐を器の底に並べて、
そこに改めてダシ汁をかけるらしい。
大根おろしは、全く普通の大根おろしだが、
薄く伸ばして乗せてあり、さらにその上にご飯を乗せてあるため、
パッと見には全く見えないということのようだ。
上に乗せるご飯も普通の白飯だが、炊きたての場合はそのまま、
冷やご飯の場合はお湯に通して温めたものを乗せるらしい。
食べる際は、これらを適当に突き崩して食べるようだ。

この「雪消飯」は、江戸時代に書かれた「豆腐百珍」という料理書に
載っている料理だ。
この「豆腐百珍」が出版されたのは天明2年(1782年)。
江戸時代の後期である。
そのタイトルの通り、100種類もの豆腐料理の調理方法を収めたもので、
著者は醒狂道人何必醇(すいきょうどうじんかひつじゅん)。
もちろんこれはペンネームで、その正体は大阪で活躍した
篆刻家・曽根学川だと考えられている。
出版元は、これまた大阪の春星堂藤屋善七。
著者、版元がともに大阪の人間であることから、
恐らくは江戸の食文化ではなく、上方の食文化を下敷きにして
書かれていると考えられる。
後に「豆腐百珍続編」や「豆腐百珍余録」などの続編も刊行されており、
かなりの人気タイトルだったようである。

さて、この「雪消飯」、
「豆腐百珍」に載っていたということからもわかるように、
料理のカテゴリーとしては「ご飯もの」ではなく、
「豆腐料理」としてカテゴライズされている。
実際、器の中を占める量について考えれば、
やはり豆腐が最も多くなっている。

しかし、大根とご飯を使った料理であることもまた、1つの事実であるので、
次回はこの「雪消飯」を実際に作り、食べてみようと思う。

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