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食べ物

栗饅頭

投稿日:

子供のころ、お菓子をぼろぼろとこぼしながら食べると、

とたんに母親の目がつり上がった。

もちろん、こちらも、好きでこぼしているのではないのだが、

子供というのは食べる技術がうまくない。

どうしても、崩れやすいお菓子を食べると、ぼろぼろと崩壊させてしまう。

その、ぼろぼろと崩壊するお菓子のひとつが、この「栗饅頭」であった。

栗饅頭には2つある。

栗を使っているものと、使っていないものだ。

「栗」饅頭というくらいだから、使っているんじゃないの?

と、思われるかもしれないが、実は使っていないものも結構ある。

では「栗」を使っている栗饅頭は、一体どこに「栗」を使っているのか?

じつは饅頭の中の「餡」の中に、細かく刻んだ栗が入っているのである。

中には、刻んでいない、まるごとの「栗」を使っているものもある。

これはどちらかといえば、高級な栗饅頭に多いようである。

ただ、周りの饅頭部分と、食感の違いが大きく、

食べていると、違和感は否めない。

ただ栗の風味という点では、これほど濃厚なものは無いだろう。

「栗」を細かく刻んでいれているものは、食感の違和感は少ない。

その代わり、「栗」の風味は丸ごと入りのものに劣る。

栗饅頭の餡は、大体が白あんであり、その中に刻んだ栗が混ぜ込んである。

この方法だと、餡にかすかに栗の風味が移る。

これらが「栗饅頭」を名乗るのに違和感は無い。

問題なのは、「栗」を使っていない栗饅頭である。

スーパーの和菓子売り場を見ていると、いくつか栗饅頭が売られているが、

その材料表示を見てみると、「栗」を使っていない栗饅頭もある。

そういうものの場合、中に入っているのはただの白あんだ。

これではただの「ボロボロ崩れる焼き饅頭」である。

これのどこが栗饅頭なのか?

答えはその外見にある。

栗饅頭の記事に、卵黄を溶いて塗り付け、これを焼くと、

ちょうど栗の鬼皮と同じような色になる。

うまい具合に照りなども出て、本当に栗の表皮のようだ。

これを饅頭の上部の部分のみに塗り付けて焼くと、

その饅頭の雰囲気が、「栗」そっくりになる。

この際、形状というのは、わりと無視されることが多い。

中には饅頭を栗の形に成形したものもあるが、

この場合も、卵黄を塗るのは上面だけである。

大方の栗饅頭は、小判型をしている。

これが初めて作られたのは、江戸時代中期の享保年間以降のことである。

江戸の名菓子司の商品目録の中に、上菓子として

「栗饅頭」の名前が現れているのが、最初である。

そのころに江戸で創製されたようだ。

このころの栗饅頭は、栗入りの餡を用いた、普通の蒸し饅頭だったらしい。

明治以降は、焼いたもののみを栗饅頭と呼び、

上面に、みりんで溶いた卵黄を塗るようになった。

ただ、この上に塗った卵黄を、栗の表面のように変化させるには、

普通に焼いていてはダメで、天火で焼く必要がある。

いわゆるオーブンである。

もちろん、江戸時代にオーブンなどあるはずが無い。

江戸時代に、天火を使って焼かれていた「カステラ」は、

工夫を重ねた、独特の装置で焼いていた。

これはカステラの専用の道具であるので、当然、栗饅頭は作れない。

焼いた栗饅頭が作れるようになったのは、明治時代以降、

西洋料理の移入にともなう、オーブンの移入後であったと思われる。

現在、栗饅頭も各地で作られるようになっているが、

共通する部分は、塗られた卵黄が焦げ茶色に焦げて、

照りかえっている所だろう。

この部分があればこその、栗饅頭であるといえる。

卵黄が焦げた時に生じる、独特の色と照り。

これは味わいの上では、それほど強い主張をしているわけではない。

だがこれが、ただのクリーム色の、何の変哲も無い「焼き饅頭」を、

「栗饅頭」へと変貌させている。

この、いわば「栗」部分の無い饅頭も、各地で銘菓として販売されている。

有名なものをあげれば、「ひよこ饅頭」などである。

これもまた、何の変哲も無い「焼き饅頭」の形をいじることにより、

他との差別化を図った。

その狙いは、概ね成功しているといえる。

ぼろぼろと崩れる饅頭を、崩さないうちに食べようとすれば、

これはもう一口に食べてしまうしかない。

しかし子供にとって、栗饅頭は一口で食べるには大きすぎる。

どうしたって、途中で噛み割らなくてはいけない。

そうなるとまた、ぼろぼろとこぼしてしまうことになる。

本当に子供に厳しいお菓子だ。

ところが最近、大袋入りのアラカルト和菓子の中に、

一口サイズの栗饅頭が入っていた。

おお、これは今まで誰もが考えなかった、食べやすさをかねた工夫だ。

と、思っていたのだが。

実際に一口で食べてみると、美味しさが半減してしまったような気がする。

どうも栗饅頭の美味しさの中には、いかに崩さずに食べるかということも

含まれていたらしい。

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