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日本人と「油」

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「あぶら」というものを表す漢字は2つある。
「脂」と「油」である。

さてこの2つ、一体、何が違うのだろうか?

辞書で「油」を引いてみると、そこには

 ・水よりも軽く、水に溶けず、燃えやすい液体

とあり、
「脂」の方を引いてみると、

・動物の体内の脂肪

とある。
これらから考えると、「油」というのは
液体状の「油」全般を指す言葉であり、
「脂」というのは、動物性のもののみを表していることが分かる。
詰まる所、植物油などはまぎれもない「油」であり、
石油なども「油」ということになる。
醤油などにも「油」が使われているが、
醤油の原材料は大豆であり、それを考慮するのであれば、
これもまぎれもない「油」だということになる。
(醤油の製作行程の中で、大豆の油分は取り除かれているが……)

前回は、日本人と「脂」ということで、
肉や魚の「脂」と、日本人との関わりについて書いたのだが、
今回は、日本人と「油」について書いていく。

現在、日本人の食に「油」は欠かせないものになっている。
スーパーの食料品売り場の中には、大きく食用油コーナーが設けられ、
各メーカーから、様々な種類、容量の商品が並べられている。
大豆、ナタネ、紅花、ゴマ、オリーブ、ピーナッツと、
「油」を採る原材料も様々で、「油」にこだわる人は、
その中から自分の好みの物を選び、調理方法や材料によって
使い分けていたりもするらしい。
もちろん、そういう面倒な選択をしたくないという人のために、
ある種、万能食用油ともいえる「サラダ油」が用意されていて、
「油」なんか、適当でいいよ、なんていう人たちは、
これを選んでいるようである。
(一応、サラダ油は低温でも結晶化しにくいように精製されている。
 これは「サラダ」が低温で供されることが多いためである。
 さらに、胡麻油やオリーブオイルの様なクセも抑えてあり、
 どんな料理にも使いやすいように調整されている)

日本において「油」は、古代から存在していた。
だが、それらは食用として用いられることは無く、
灯火用として用いられるのみであった。
それも、王族や貴族、社寺などという身分の高い人々の間でのことで、
庶民階級では、「油」を灯火に用いるということ自体がなかった。
(ちなみにこのころ用いられた灯火用の「油」としては、
 魚から煮出した「魚油」(脂と表記した方がいいかも知れないが……)
 や、ゴマから採取した「胡麻油」が使われていた。
 どちらも臭いの強い「油」なので、
 当時の貴族の屋敷や社寺は、魚臭かったり、
 ゴマ臭かったりしたのかも知れない)
この時代の「油」は貴重品で、当時の記録の中には、
これらの「油」が税として収められていたことが記されている。

この「油」を、食用として用い始めたのが奈良時代のことである。
中国から持ち込まれた食文化の1つとして、
「油」で食材を揚げることが始められたのである。
当時、すでに小麦粉や米の粉を練って「油」で揚げた、
一種のドーナッツとも言える揚げ菓子も、日本に存在していた。
さらに様々な食材を油で揚げることにより、
生臭もの(魚肉)を食べることを禁じられていた僧侶たちが、
脂肪分の補給をしていたであろうことは、想像に難くない。
これらの調理様式が、後に精進料理という体系を作り上げ、
さらにそれが現在の和食へと繋がっていく。

しかし、この「油」を使う調理というのは、
精進料理という狭い範囲の中でしか用いられず、
一般の庶民階層に広がっていくことはなかった。
この「油」を使う調理が、庶民階層に広まり始める
きっかけとなったのが、南蛮人によってもたらされた南蛮食文化である。
南蛮人によってもたらされた食文化の中には、
「油」を用いる調理法があった。 
その中でも、もっとも有名なものが「天ぷら」である。
南蛮人によってもたらされた当初の「天ぷら」は、
分厚い衣をつけた食材をカリッと揚げた、
現在で言う所の「フリッター」に近いものであったが、
これが日本中に広まっていくうちに、日本人好みの調理法に変化し、
現在の様な「天ぷら」になった。
また、南蛮人がやって来たころ、
それまでエゴマから採られていた油が、ナタネから採られるようになり、
その生産量が大きく増えていたことも、
「天ぷら」の普及に都合が良かった。

江戸時代になると、「天ぷら」を実演販売する屋台や店舗が現れ、
一般庶民も手軽に、「油」で揚げた揚げ物の味を味わえるようになった。
ただ、それでも一般庶民が、その家庭内において
「油」を使った調理をするようにはならなかった。
あくまでも、外食という場面に限っての、
「天ぷら」という料理(当時は、ファーストフード的なものであった)
であり、「油」で揚げるというのは、
専門家が行なう、1つの特殊調理という位置づけであった。

「油」を使った調理・料理が、一般家庭に根付き始めるのは、
明治時代も中ごろになってからのことである。
文明開化によって、様々な外国料理が食べられるようになり、
「油」を使った料理の数も、種類が増えた。
コロッケのような揚げ物、カツレツのような揚げ焼き、
オムレツのように「油」をひいたフライパンの上で焼くもの、
さらに中華料理で良く見られるような、
熱した「油」で、様々な具材を炒める炒め物などが、
日常的に食べられるようになり、やがてこれらのメニューは、
一般家庭でも作られるようになっていく。
それだけではなく、従来の「天ぷら」を蕎麦の上に乗せた
「天ぷら蕎麦」のようなメニューも発案され、
和食のメニューの中にも、「油」が浸透していく。
やがて、大正時代の末期には、お手軽に使える食用油である
「サラダ油」が発売されるに至り、
「油」を使った料理は、ほぼ今日の形をとるようになるのである。

「脂」と同じように「油」もまた、
健康の上での悪役にされることが多い。
高カロリーやコレステロール、活性酸素にトランス脂肪酸など、
「油」に対するマイナス要素を数え始めると、キリがないくらいだ。
そのため、マヨネーズやドレッシングなどの
「油」を用いた調味料では、カロリーハーフや
コレステロール0などを謳った商品がドンドン開発され、
今では売り場のかなりの部分を、この手の商品が占拠している。
また調理器具でも、「油」を使わなくても焦げ付かない
テフロン加工のものや、「油」を使わずに揚げ物の出来るフライヤーなど、
いかに「油」を使わないようにするかをウリにした商品も多い。

これらの工夫から、導き出される結論は1つだ。
「油」は体に良くない。
だが「油」は食べたい。
全ての商品は、ここから生じるジレンマを、
いかにしてごまかすか?ということに眼目が置かれている。
さらにこのジレンマが生じるということは、
それはまた同時に、1つの厳然たる事実を証明している。
つまり、日本人は「油」が大好きだ、という事実である。

日本人が大好きな「脂」と「油」。
これらといかに上手く付き合うかということは、
ある意味で、まさに人生を左右する一大事である。

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