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日本人と「脂」

更新日:

日本人は「脂」が好きだといわれる。

確かに、魚に「脂」がのっていることを重要視するし、
肉なども、網目状にびっしりと脂肪の入った牛肉が、
目玉が跳び出るほどの価格で販売されている。
TVなどのグルメ番組では、体にタップリと脂のついた芸能人たちが、
「口の中で脂がとろける〜」などというようなことを、
脂で顔をテカテカさせながら言っている。

一方で、日本人の食生活は、油脂のい少ないヘルシーなものだ、
なんていう話も良く聞く。
(最近では、そうでもなくなって来ているようだが……)
確かに、伝統的な日本食の場合、油を大量に使っているような
料理は少なく、総じて口当たりがあっさりしているものが大半である。

果たして、日本人は脂が好きなのだろうか?嫌いなのだろうか?

ちょっと視点を変えて、日本人の好きな食べ物ランキングの
1位〜10位までを書き出してみよう。

1・寿司
2・焼き肉
3・ラーメン
4・天ぷら
5・刺身
6・鶏の唐揚げ
7・カレーライス
8・焼き鳥
9・焼き餃子
10・トンカツ

こんな感じになる。
「脂」と無縁の食べ物というのが、ほとんどない。
あえていうのなら、4位の天ぷらくらいだろうか?
天ぷらの具材を思い浮かべてもらえれば分かるが、
天ぷらの具材の場合、「脂」を含んでいるようなものは少ない。
一部の魚介類の中に「脂」が含まれていることはあるが、
いざ天ぷらダネということになると、
「脂」の少ないものがチョイスされることが多いようである。
(もちろん、あくまでも古くからある、伝統の天ぷらダネの話で、
 冒険的で前衛的な新種のネタについては、その限りではないが……)
ただ、天ぷらの場合、「脂」にこそ関わりが少ないが、
「油」については、他のどれよりも蜜月の関係にあるといっていい。
なんといっても、「油」を含んだ小麦粉の衣で、
全身が包まれている。
焼き肉、鶏の唐揚げ、焼き鳥、トンカツに関しては、
主役ともいえる食材・「肉」自体が「脂」をしっかりと含んでいるし、
寿司、刺身であっても、「肉」と「魚」の違いこそあれ、
食材自身が、ある程度の「脂」を含んでいることは同じである。
焼き餃子については、中の具材・豚肉に「脂」が含まれているし、
ラーメンについては、基本であるスープのダシ自体に
「脂」が含まれている。
カレーに至っては、基本、ルウは「脂」とスパイスで
出来ているといっていい。

これを見る限りでは、日本人が「脂」が好きだというのは、
全く否定しようのない事実である。

仮に、この日本人の好きな食べ物たちから
「脂」をきれいに取り去った場合、どういうことになるか?
焼き肉、鶏の唐揚げ、焼き鳥、トンカツについては、
もともとある程度「脂」を含んでいる食材がメインになっているため、
これを完全に取り除くことは出来ないだろう。
あえてやるのであれば、「脂」をあまり含んでいない部位を使って
調理するぐらいだが、そうなった場合、
どれも非常にパサパサとした仕上がりになり、
味わいの上からも重厚さが無くなってしまうに違いない。
寿司、刺身も同じことで、「脂」のほとんどのっていない
部位を使って作ってみた所で、味わいは大きく落ちることになる。
それを補うために、醤油に酸味を加えた「ポン酢」を使ったり、
砂糖などを添加した、甘味のある醤油を使うことになる。
(実際、「脂」の少ない魚を生で食べる場合は、
 普通の醤油ではなく、一工夫加えた「タレ」で食べることが多い)
焼き餃子やラーメンの場合は、豚肉や鶏ガラなど、
素材の一部を「脂」を含まないものに変更すれば、
完全に「脂」のないものを作ることも出来るが、
正直、それで出来上がったものは、焼き餃子、ラーメンと呼ぶには、
ほど遠いものになっているだろう。
カレーライスに至っては、「脂」が無くなると、
スパイス自身が全く引き立たず、ただのカレー色をした辛い汁になる。
(ある程度「油」でごまかしは効くが……)

だが最近、どうもこの「脂」の味に否定的な意見を良く聞く。
霜降り状になっている和牛の肉を見て、
あれはただ「脂」の味がするだけで、肉本来の味を味わうには
赤味の部分を食べないといけない、というような感じの意見だ。
確かに、肉を食べ慣れている欧米人の食べている肉を見ると、
霜降り状の肉というのは全くといっていいほどなく、
大概が、脂身の少ない赤身肉である。
肉を食べ慣れているはずの欧米人が赤身肉を好むのだから、
肉の本当の味は、赤身肉にあるというような理屈だろうか?
だが、ここで1つ、大きな疑問がわく。

そもそも、海外に霜降り肉ってあるのか?
調べてみたのだが、どうも海外に霜降り肉が存在しているという
話自体が出て来ない。
ウィキペディアで同項目を調べてみても、
霜降り肉の外国語名すら表記されていない。
と、いうことは、これはひょっとして霜降り肉というのは、
和牛と呼ばれる品種を、日本人特有の念入りさで育て上げて、
初めて作り出せるものであって、世界中探しても
日本にしかないものなのではないだろうか?

だとすれば、話は大きく変わってくる。
海外では霜降り肉との取捨選択の末に赤身肉が選ばれたのではなく、
ただ、それしかないから赤身肉が選ばれているだけなのだ。
だとすれば、肉を食べ慣れた外国人が食べないからダメというのは、
そもそも、かなり見当違いの意見ということになる。

事実、近年では、日本の霜降り肉が海外に輸出され、
高い評価を得るようになってきている。
無論、霜降り肉は脂が強すぎるという外国人もいる。
しかし、もともと海外では、脂分の少ない肉を美味しく食べるため、
バターなどの油脂をタップリと使って肉を焼き、
それらの「脂」と共に、肉を食べていたのである。
そういったことを考えると、肉を味わう上で、
「脂」というのはかなり重要な要素であり、
そしてそれは、肉の持つもう1つの味わい「旨味」と比べても
決して劣るものではない、ということである。
逆に言えば、あれだけ「脂」の多い霜降り肉が
「肉」として成立しているということは、
それは同時に、赤味部分に強い「旨味」が
含まれているということになる。
で、なければ、そもそも霜降り肉が
まともな評価を得ることすらなかっただろう。

日本人が「脂」を好む、というのは、
食の基礎部分において、歴史的に
「脂」「油」というものがほとんど存在しておらず、
たまに食べる「脂」については
特別なもの、というか、一種の嗜好品の様に
受け止められていたためではないだろうか?
日本の食の歴史を見ている限りでは、
肉にせよ、魚にせよ、当初、「脂」の多いものは敬遠しておきながら
後に必ず、その「脂」の味を認め、受け入れている。
初めて「脂」の強いものに出会ったとき、
反射的にこれを拒絶してしまうことは、よくあることである。
自分も、中学生のときに初めてウナギを食べたときには
(それまではアナゴしか食べたことがなかった)、
その「脂」の強さから、おもわずオエッとなってしまった。
にも関わらず、その後、普通にウナギを食べれるようになり、
これを美味しく感じるようになった所を見ると、
これはどうやら人間の持つ、基本的な習性なのかも知れない。

そういう視点で見れば、近年、外国人たちが霜降り肉を
珍重するようになったのも、この習性の成せる技なのだろう。
一部の、霜降り肉を拒絶する外国人などは、
「脂」に出会ったときの拒絶反応そのものの反応をしており、
ひょっとしたら、時間の経過と共に、これを受け入れるのかも知れない。

やたらに「赤身肉」の味を推す人の中には、
歳をとって、「脂」の強いものがダメになったという人も多い。
だが、少なくとも自分にいわせれば、
歳をとって、昔ほど量が食べられなくなることはあるにせよ、
「脂」がダメになるということはあり得ない。
もしあったとすれば、それは悪い食生活で、
内蔵を損ねてしまっているだけのことである。

そんな人間の語る味に、何の価値もないことは言うまでもない。

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