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ステーキ

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現在でも、リメイクが作られている
ガイナックスの人気アニメ「新世紀エヴァンゲリオン」で、
こんなシーンがあった。

とても成功確率の低い作戦に、参加することになった主人公たち。
主人公たちを監督しているミサトさんは、
作戦を前に緊張している主人公たちに

「うまくいったら、ステーキを奢るわ」

と提案、それを聞いた主人公たちも、

「わーい!」

と歓声を上げて喜ぶ。
しかし、ミサトさんがいなくなった途端、
主人公たちはため息とともに、ぼそりと呟く。

「御馳走といったら、ステーキで決まりか……」
「今時の子供が、ステーキで喜ぶとでも思ってんのかしら」

そう。
主人公たちは、気分を盛り上げようとしたミサトさんの気持ちを汲み、
わざと喜んでみせていたのだ。
まあ、成功確率が低く、命の危険もある作戦の前では、
成功したらうまいものを食べさせてやる、といわれても、
正直、素直に喜べるはずもない。

とはいえ、である。
この「新世紀エヴァンゲリオン」を見ていた当時、
自分はちょうど大学生だったのだが、この主人公たちのセリフには、
少々驚きを隠せなかった。
え?今の子供(作中の主人公たちは中学生という設定だった)は、
「ステーキ」で喜ばないの?
もちろん、「新世紀エヴァンゲリオン」自体が、
未来を舞台にした物語なので、単純に当時の世相と比べても
意味はないかも知れないのだが、
少なくとも数年前、自分が中学生だったころには、
御馳走といえば「ステーキ」で決まり、といっても、
全く違和感のない時代だったのである。
いつの間に、この認識は古くなってしまったのだろうか?

「ステーキ」とは、肉類の厚い切り身を焼いた料理である。
肉類の厚い切り身そのものを「ステーキ」と呼ぶこともあるが、
一般的には焼いた料理の方を指している。
古い百科事典を引いてみると、
「牛肉・子牛の肉・子羊の肉・魚肉(マグロ・サケなど)が
 多く使われ、昼食に用いる」
とある。
子羊や魚肉があるのはともかく、「昼食」に用いるというのは
初めて聞く話である。
少なくとも、自分が子供のころ家で出てきた「ステーキ」は、
晩ご飯、つまりディナーとして供され、
その中でも一番の御馳走という位置づけだったのだが、
この記述を信じるのであれば、外国では我が国のような
「御馳走」的な位置づけのメニューではなく、
簡単に作れる「軽食」的なものだということになる。

我が国では、イギリスから牛肉の柔らかい部分を焼いた
「ビーフ=ステーキ」が伝わって以来、
「ステーキ」といえば、「ビーフ=ステーキ」のことを指しており、
これを略して「ビフテキ」、または「テキ」ともいう。
ただ、この「ビフテキ」という言葉に関しては、
「ビーフ=ステーキ」の略ではない、という説もある。
というのも、フランスでは
「ステーキ」のことを「ビフテック」といい、
この「ビフテック」が変じて「ビフテキ」になった、というのである。
そんなことをいったら
「トンテキ」(ブタのステーキ)の立場がないのだが、
現在では、この「ビフテック」→「ビフテキ」説が有力だそうだ。
フランスのビストロや、家庭の食卓では、
「ビーフステーキ」には、ジャガイモを素揚げして塩を振りかけた
「フライドポテト」をつけ合わせるのが、定番だという。
山盛りの「フライドポテト」と一緒に食べる、というと、
イギリスの「フィッシュ&チップス」を思い出してしまうが、
フランスでも「フライドポテト」を添えた「ステーキ」は
庶民の味ということらしいので、両者とも
わりと似通ったポジションの料理なのかも知れない。

先ほど、すこしだけ「トンテキ」に触れたが、
通常、スライスした豚肉(とんかつ用のような形状のもの)を
焼いた場合、これを「ステーキ」とは呼ばずに
「ポークソテー」と呼ぶことが多い。
「ステーキ」と「ソテー」には、どのような違いがあるのだろうか?
実は日本人には分かりにくいのだが、この2つの言葉は
言葉の種類が違う。
「ステーキ」というのは、厚い肉の切り身を焼いた料理の名であり、
言葉の分類的には「名詞」ということになる。
これに引き換え「ソテー」というのは、
フライパンの上などで、油をひいて焼く調理方法を示している。
つまりこちらの方は、言葉の分類的に「動詞」ということになる。
肉を「ソテー」する、といっても違和感はないが、
肉を「ステーキ」する、では言葉としておかしくなってしまう。
はたして適当な例として、合っているかどうかは分からないが、
日本語で言うと、「野菜の天ぷら」と「精進揚げ」の違いに
似ているのかも知れない。
両方とも、野菜に衣をつけて、高温の油で揚げたものになるのだが、
かたや「天ぷら」という料理名が使われているのに対し、
かたや「揚げ」という調理法が、名前の中に取り入れられている。
だが、逆に言えば、野菜に衣をつけて揚げたものを
「野菜の天ぷら」といっても「精進揚げ」といってもいいように、
「ステーキ」と「ソテー」に関しては、どちらの名前で呼んでも
間違いというワケでは無いようである。

さて、この「ステーキ」、家ででてくる分には
焼き具合の指定などまず出来ないが、
料理屋でこれを食べる場合には、必ずその焼き具合を聞かれる。
この焼き具合で、もっとも良く知られているのが「レア」だろう。
これは肉の表面のみを焼いた、
いわゆる「カツオのタタキ」のような状態のもののことである。
料理マンガ「美味しんぼ」などによれば、
この「ステーキ」のレアの場合、肉の内部はナマのごとく赤いが、
一応、内部に火が通っている「火の通ったナマ」ということらしい。
正直、ワケがわからない表現だが、所詮はマンガの
ハッタリを効かせた表現ということかもしれない。
タンパク質の変質が起こる寸前の温度まで、
肉の内部の温度が上がっているのだが、
これは「焼けている」というよりも
「温まっている」といった方がいい状態だろう。
この温度によるタンパク質の変質が、
ある程度まで進んだものを「ミディアム」、
ほぼ最後まで進んだものを「ウェルダン」という。
レストランなどでは、これらの中間の焼き具合なども
指定できることがあるが、
実際には、この3種類の中から
焼き具合を選ぶことが多いようである。

一般的に「ステーキ」といえば、獣肉なり魚肉なり、
動物の肉を焼くのが普通だが、
中には変わった「ステーキ」もあり、
動物性のものを全く使っていない「ステーキ」というのも存在する。
例を挙げてみれば、

・大根ステーキ
・しいたけステーキ
・レンコンステーキ
・豆腐ステーキ
・サボテンステーキ
・コンニャクステーキ

などである。
サボテンステーキこそ、日本のものではないが、
それ以外の「ステーキ」は、
どれも日本で考案されたっぽいものばかりである。
この辺りは、肉が食べられない時代に
「精進料理」として、「肉」もどき料理を色々と生み出した
日本人ならではの工夫という感じがする。
「肉」が自由に食べられる様になった現代でも、
このような「非肉ステーキ」を次々に生み出す辺り、
日本人は、そういうもどき料理を作ってみるのが、
好きなのかも知れない。
ここに取り上げた大方のものは、本来の「肉」の「ステーキ」とは
あまり似ていない別個の料理だが、
大豆は「模造肉」の原料に使われることがあるため、
豆腐ステーキなどは、作り方によっては
かなり「肉」の「ステーキ」に近いものが作れるかも知れない。

最近、寄るようになった隣町の激安スーパーでは、
「ステーキ」用の牛肉が1枚200~400円ほどで販売されている。
もちろん、柔らかいロイン(腰)部分の肉ではなく、
比較的価格の安い肩肉なのだが、
それにしても恐るべき安さの肉である。
(さすがに買って食べてみたことはないのだが……)

やはり「エヴァンゲリオン」の中で語られていたように、
すでに現代の子供たちの間では、
「ステーキ」=「御馳走」という図式は、
崩壊しているのかも知れない。

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