雑学、雑感、切れ味鋭く、思いのままに。

Falx blog 2

歴史 食べ物

タコス

更新日:

日本の伝統的な料理を見てみると、
挟んだり、包んだりした料理というのが、
意外に少ないことに気がつく。

例えば、ハンバーガーやサンドイッチなどは、
パンで具材を挟み込んだものだし、
韓国などでは、焼き肉をチシャと呼ばれる葉野菜で
包んで食べる。
レバノンなどでは、肉を重ねて刺し、回転させながら焼いた
ドネル・ケバブという料理(これを焼けたところから
削り落として食べる)を薄いパンに挟んで食べる。

この手の、何かに挟んで食べるというのは、
日本料理を見回してみても、ほとんど見当たらない。
あえて、それっぽいものを挙げるとすれば、
おにぎり(海苔で挟んでいるともいえる)、
稲荷寿司(同様に油揚げで挟んでいるともいえる)、
巻き寿司(これも海苔で包んでいるといえる)などだろうか。
おにぎりの場合は、「挟む」というよりは
「貼付けている」といった方が正確な感じであり、
稲荷寿司も、「挟む」というよりは、入れているという感じだ。
巻き寿司に関しても、名前の通り「巻いて」いるのであって、
「包んでいる」というのとは、少し違っているようだ。

面白いことに、これが「料理」というジャンルではなく、
「菓子」というジャンルになれば、
「挟ん」だり、「包んだ」りしたものが目立つようになる。
桜餅などは、長命寺(関東風)も道明寺(関西風)も、
「挟む」ということが、重要なポイントになっているし、
饅頭などは、すべて餡を皮で包んだものである。
これらに似通ったものは日本全国に点在しており、
和菓子の世界では、「挟ん」だり「包ん」だりといった手法が
広く取り入れられていることがわかる。

今回、紹介する「タコス」というのは、
この「挟む」料理の代表格と言ってもいい。
アメリカの南に接している国、
メキシコの国民食ともいえる料理「タコス」は、
アルカリ処理したトウモロコシの粉を
薄く伸ばして焼いた「トルティーヤ」に、
様々な具材を挟んだものである。
日本では「タコス」と呼んでいるが、
これの本場であるメキシコやアメリカでは「タコ」と呼ばれる。
これは「taco」であり、「軽食」という意味である。
日本での「タコス」というのは、「taco」の複数形である
「tacos」からきている。

日本に伝えられた「タコス」のトルティーヤは、
パリパリとした食感の、固いものであったが、
昨今では、クレープのように軟らかいタイプのものも
販売されるようになってきた。
これは「タコス」が、メキシコから
直接日本に伝えられたのではなく、
アメリカを経由して、アメリカから伝えられたためである。
もともと本場・メキシコのトルティーヤは、
クレープのように軟らかいタイプのものであったが、
これがアメリカに伝えられた際、
アメリカ人たちはこれをU字形にして、油で揚げ、
パリパリの固いトルティーヤにしてしまった。
これを「タコシェル」ともいう。
本場・メキシコでは軟らかだったトルティーヤが、
隣国・アメリカにおいてどうして固くなってしまったのかは
わからない。
油で揚げたパリパリとした食感が彼らの嗜好にあっていたのか、
あるいは、軟らかいトルティーヤで具材を挟む
メキシコ式の食べ方が、
慣れないアメリカ人たちの手先には難しく、
少しでも具材を挟み込みやすい、
U字形の「タコシェル」を作ったのかも知れない。
かくして、トルティーヤは隣国・アメリカで油で揚げられ、
パリパリとした食感の「タコシェル」となり、
そのアメリカから日本に伝えられたため、
日本では、まずアメリカ式の「タコス」が普及したのである。
後に「タコス」の本家がメキシコであること、
メキシコの「タコス」は、
軟らかいトルティーヤで具材を挟むことを知り、
こちらの方も、日本へと持ち込まれた。
現在、日本ではアメリカ式・メキシコ式、両方の「タコス」を
食べることが出来るが、
アメリカ式は「タコス」専門チェーン店、
メキシコ式はメキシコ料理専門店などで
扱っていることが多いようだ。

「タコス」の歴史は、今から6000年前、
メキシコ中央高原において、トウモロコシの人工栽培が
始まったころまで遡ることが出来る。
当時の農耕先住民族たちは、このトウモロコシを粉にして
トルティージャ(トルティーヤ)に加工して食べていた。
トウモロコシそのままの形よりは、
トルティージャに加工した方が持ち運びやすかったからである。
このトルティージャに、様々な具材を挟んだり、包んだりして
食べていたのである。
現在、食べられている「タコス」との違いはあるだろうが、
トウモロコシの粉で作った皮で、
具材を挟んで食べるという基本的な構造は、
すでに6000年前の段階で、確立していたのである。
その後、トウモロコシは
メキシコ古代文明を支えることになるのだが、
このメキシコ古代文明にもトルティージャは受け継がれた。
「タコス」は、トウモロコシ主体の食文化の中から生まれた、
他に類を見ない「トウモロコシ料理」ともいえるだろう。
(この点、コメを主体にした日本の食文化が、
 「おにぎり」という、他に類のない
 「コメ料理」を作り出したのにも似ている)
やがて、このメキシコ独特の「トウモロコシ料理」は、
隣国・アメリカに伝わることになる。
このアメリカにおいて、トルティーヤは油で揚げられ、
アメリカ式の「タコシェル」へと形を変える。
1940年代のことである。
ハードタコスとしてアメリカで広まった「タコス」は、
戦後、アメリカから日本へと持ち込まれた。
そして、日本へ持ち込まれた「タコス」は、
ここでまたしても、その姿を大きく変えられてしまうことになる。
なんと「タコス」の最重要要素であった
トルティーヤが排除され、代わりにご飯が投入された。
ご飯の上に「タコス」の具材が盛られた「タコライス」である。
1984年、沖縄の飲食店で作り出された「タコライス」は、
現在でも沖縄を中心として食べられ続けている。

現在、日本全国を見回してみても、
「タコス」はまだ、かなり珍しい
外国料理の1つという立ち位置だ。
かつては、アメリカの大手「タコス」チェーンが
日本に上陸したこともあったが、
ハンバーガーのように定着することは出来ず、
撤退を余儀なくされた。
当時の日本人にとって、トウモロコシから作られている
トルティーヤはまだまだ物珍しく、
これに若干の抵抗感を感じる人もいたのだろう。

しかし、最近になって
アメリカの「タコス」チェーンが再び日本にやってきた。
以前に比べると、日本人の食生活は一層多様化し、
そろそろ「タコス」も定着するのではないか、と踏んだのだろう。

2015年、
コメ、小麦に続く、第3の穀物
「トウモロコシ」を根幹とした食文化は
日本に根付くことが出来るだろうか?

Related Articles:

にほんブログ村 その他生活ブログ 雑学・豆知識へ
にほんブログ村

スポンサーリンク
スポンサーリンク

-歴史, 食べ物

Copyright© Falx blog 2 , 2024 All Rights Reserved Powered by STINGER.