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ルートビア

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もう、10年以上前のことだろうか。
友人たちと一緒に、神戸の町へ遊びにいったことがあった。

なんといっても、普段生活しているのが
兵庫県たつの市という、
日本の田舎を具現化したような地方都市なので、
都会の珍しさから様々な店に立ち寄ってみたのだが、
そのとき立ち寄った店の中に、沖縄のアンテナショップがあった。
……。
まあ、正式な「アンテナショップ」というと、
色々細かい定義がついてくるので、ここではバッサリと
「沖縄製品を専門に扱っている店」ということにしておこう。
大学時代は福岡に住んでいたこともあり、九州各地の食品などは
ある程度、福岡にも出回っているのを見知っていたのだが、
さすがに沖縄ということになると、
まだまだ福岡でも、それほどモノは出回っておらず、
兵庫県に住んでいるとき同様、はるか彼方の話であった。
だから、そのアンテナショップの中に並んでいる沖縄の食品などは、
自分にとって珍しいものばかりだった。

店内を見て回り、ふと足を止めたのが飲料コーナーの前である。
そこには、こちら(兵庫県)では見たことの無いようなドリンク類が、
何種類も並べられていたのだが、
缶・ビン入りのドリンク類は、値段にしても1本100円程度のもので、
非常にリーズナブルであった。
ちょうど喉が乾いていたということもあり、
友人等とそれぞれ、その珍しいドリンクを買って飲んでみよう、
ということになった。
友人の中に1人、多少、沖縄の知識があるのがいて、
彼の意見を聞いて、
こちらには無いような味のものを飲もうということになった。
まあ、当時から自分はこういう好奇心は強く、
こちらには無い味、なんていう風に話を聞くと、
1も2も無く跳びついてしまうような所があった。
まあ、口に合わなかったとしても、
所詮、1缶100円程度のものなのだ。
失敗した所で、大したダメージがあるわけでもない。
友人曰く、変わった味だという触れ込みの
ドリンク(ノンアルコール)を1本購入し、
店を出てから、早速、飲んでみた。

想像を超える味であった。
プラスかマイナスかでいえば、もちろん、マイナスである。
たいがいのものは、好き嫌いをいうことなく食べてしまう自分だが、
こと、そのドリンクに限っていえば、350ml缶1本を飲み切るのに、
かなりの時間を要したという事実が、その味を物語っているだろう。
とりあえず、それまでに飲んだどんな飲み物よりも
マズい飲料として、そのドリンクは記憶されることになった。
ただ、自分にとって幸いだったのは、
そのドリンクは沖縄でしか(?)販売されていないようなので、
これから先、自分の人生にそのドリンクが登場してくることが
無いということだ。
実際、その後、自分はそのドリンクに遭遇することなく、
10年以上を無事に過ごし、そのドリンクのことは、
その味と名前を、完全に記憶の中から消し去ることとなった。
ただ、沖縄に極めてマズいドリンクがあるということと、
その缶のラベルデザインの記憶だけを残して……。

そして現在、そのときの友人の1人が、
家族と一緒に沖縄へと、出かけていった。
彼が沖縄土産として買ってきてくれたのは、
沖縄の地酒と、ある缶入りのソフトドリンクである。
そう、友人が送って来た画像に映っているラベルは、
まぎれもなく、あの時のマズいドリンクのラベルであった。
その後、友人を訪ねていくと、
沖縄土産の「泡盛」を渡してくれたのだが、
それと一緒に「飲んでみるか?」と差し出されたのが、
あの、マズい記憶の残る「ルートビア」であった。

さて、ここまで散々マズい、マズいと書いてきたが、
これを読んだ「ルートビア」好きな人たちは、
気を悪くしているかもしれない。
「ルートビア」というのは、
アメリカで生まれたノンアルコール炭酸飲料で、
日本では先述したように、沖縄県を中心とした一部の地方でのみ、
飲用されているようである。
これは、戦後、長期にわたって米軍が駐留していることによるもので、
彼ら駐留米軍によって持ち込まれた「故郷の味」ということらしい。
「ルートビア」は「root beer」であり、
直訳すれば、「root」は「根」、
「 beer」は「ビール」ということになるのだが、
「beer」には「(植物の根などから作った)発酵飲料」
という意味もあるので、「ルートビア」はこちらの方の意味だろう。
実際、原材料の中には「リコリス」の根や、
「サルサパリラ」の根など、植物の根が使われている。
これをグラスに注いでみると、カラメル色というのだろうか、
コーラの色にそっくりで、さらに炭酸により泡立つ様子が、
ますますコーラっぽさを強くしている。
この「ルートビア」には、配合の違うものが
何種類も存在しているそうなので、
ひょっとしたら色味の違う「ルートビア」もあるのかもしれない。
元は、アメリカ建国のころに、農場などで小規模醸造されていた
低アルコールのハーブ飲料であったらしい。
このハーブ飲料に、様々な薬効を加えるため、
薬剤師が様々な成分を持つ材料を加えていき、
最終的には「奇跡の薬」を作り出したかったようであるが、
当然というか、そんな都合のいい薬は作り出せなかった。
炭酸を含んでいること、色味、
元々は薬を目指していた(というより薬だった?)という点を見ても、
その成立の仕方が、コカ・コーラのそれに酷似している。
(コカ・コーラも、元々は薬局で販売されていた)
1800年代後半になると、
「ルートビア」は商品として販売されるようになり、
1893年には、瓶詰め炭酸飲料としての「ルートビア」が
発売された。
炭酸飲料としての「コカ・コーラ」の発売が1886年なので、
これに7年程遅れたことになる。
本家・アメリカでは飲料市場において3%のシェアを持っており、
地域によって「地ルートビア」と呼べるものも
数多く販売されている。
また、関連商品も多く、ルートビア味のキャンディやのど飴、
ルートビアにアイスクリームを浮かべた
「ルートビア・フロート」なども、広く飲まれているようだ。

さて、もう一生お目にかかることは無いだろうと思っていた
「ルートビア」と、運命的な再開を果たしてしまった。
実の所をいうと、マズかったという記憶は残っているものの、
それが実際にどんな味だったか?ということに関しては、
もう全く記憶に残っていなかった。
ひょっとすると、あまりのマズさに脳が
その味の記憶を消してしまったのかもしれない。
だが、そういうことになると、どういうマズさだったか、
もう一度試してみたくなるのは、自分の悪い所だろう。
とりあえずちょっとだけ、ということで、コップに注いでもらい、
10数年ぶりに「ルートビア」を口にすることにした。
見た感じは「コーラ」そのものの、炭酸飲料。
いざ飲んでみようと、口の前にコップを持ってきて、
その香りを嗅いだ途端、忘れていた記憶が一気に蘇ってきた。
そうだ。
この臭いだ。
何よりもこの臭いが、この飲み物を
決定的に飲みにくいものにしているのだ。
こう書くと、よほど酷い臭いなんだなと思われるだろうが、
この臭いは、別に形容し難い臭いではない。
いや、逆に非常に形容しやすい臭いだ。
うちの婆さんが腰に貼付けていた「湿布薬」の臭い、そのものである。
味自体は、見た目と同じく、コーラに似た感じなのだが、
どこまでいっても強烈なのは、この臭いなのだ。
インターネットで「ルートビア」というワードを検索すると、
「ルートビア まずい」という予測検索に続き、
「ルートビア 湿布薬」と「ルートビア サロンパス」というのが
画面に表示される。
やはり皆、自分と同じように感じているらしい。

驚くべきことがあった。
かつて、その独特の臭い故に、1缶飲み終えるのに
かなりの時間を要した「ルートビア」だったが、
2回目だからか、あるいはマズいものと決めてかかったせいか、
意外と抵抗無く飲めてしまうのである。
味覚が変化した、とも思えないが、意外にゴクゴクと飲むことが出来、
普通におかわりまでしてしまったのである。
相変わらず「湿布薬」の臭いはしているのだが、
初体験でないというだけで、普通に飲むことが出来る。
今回も「ウマい」とは言えない味だったが、
前回飲んだときのことを思えば、驚異的な変化である。

ひょっとすると、また何年か時をおいて「ルートビア」を飲むと、
今度は「ウマい」と思えてしまうのかもしれない。

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