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曜変天目

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少し前のこと、ネットのニュースサイトに
こんな風な記事が出ていた。

「バラエティ番組で大発見か?
 国宝級の一品」

まあ、タイトルの細かい所までは覚えていないので、
仮に上記のワードで検索をかけてみても、
自分が読んだものと、同じ記事に辿り着くとは限らないのだが、
テレビ東京系の、あるお宝鑑定バラエティ番組内において、
国宝級の一品が発見された、という記事であった。
このお宝鑑定バラエティ番組というのは、
以前、このブログでもちょっと触れたことのある
「開運!なんでも鑑定団」のことである。
この番組内において、持ち込まれたお宝の中から
「曜変天目」と呼ばれる、国宝級の茶碗が見つかったという。
この番組では、持ち込まれたお宝を鑑定し、
その価格を提示するというのが、そのスタイルなのだが、
この「曜変天目」と鑑定された茶碗には、
2500万円の値段が付けられた。

と、まあ、ここまでであれば、
すごいなー、世紀の大発見だなー、で、話が済むのだが、
当然、そこまで名の通った茶碗が発見された、ということになれば、
色々と話がこじれてくる。
TVでは本物と鑑定されたものの、
この番組を見ていた専門家の中には、
「一目見て分かる程度の、質の悪いニセモノ」
と言い切る人もおり、この発見された「曜変天目」に関して、
果たして本物なのかどうか?という騒ぎが持ち上がっている。

さて、ここまで記事を読んだ人で、陶芸に詳しくない人の中には
「曜変天目」って、何だ?と、思っている人もいるだろう。
この「曜変天目」、「ようへんてんもく」と呼ぶのだが、
わかりやすくいえば、「曜変」模様の出ている
「天目茶碗」ということになる。
……。
陶芸に詳しくない人にとっては、
「曜変」模様も「天目茶碗」も、何のことだかサッパリだろう。
「天目茶碗」とは、天目釉と呼ばれる鉄釉をかけて焼かれた
茶碗のことを指す。
鉄を呈色剤とする釉薬の場合、
焼き上がったときに黒い発色をすることが多いのだが、
実際、天目茶碗と呼ばれるものには、
黒、もしくは黒っぽい色をしたものが多い。
器の形で言うならば、底の高台の部分近くから、
斜め方向に直線的に立ち上がり、上縁の辺りで
わずかに垂直に変化しているものが多いようだ。
例えとして出すのはどうかと思うが、
一般的なラーメン丼の形に似ているといえば、
イメージしてもらいやすいだろう。
もちろん、ものが茶碗なのだから、サイズの方は随分と小さくなる。
ここまで書いたものを見てもらっても分かるように、
ただ「天目茶碗」というだけであれば、
それほど珍しいというワケでもない。
そこに「曜変」という言葉がつくことによって、
これが俄然、特異性を帯びてくるのである。

「曜変」。
または「耀変」とも書く。
陶芸で「ようへん」といえば、「窯変」を思い浮かべるが、
これは陶磁器を焼く際、窯の中で
全く予期しない色の変化が起きることを指しているが、
「曜変天目」の「曜変」も、もともとはこの「窯変」だったとされる。
その「窯変」によって生まれた模様が、
「星のような瞬き」「輝き」を持っていたことから、
これらの意味を持つ「曜(耀)」の字があてられ、
「曜変」になったといわれている。
この「曜変」も「天目茶碗」も、日本で生み出された言葉のため、
中国の文献には出てこない。
何で中国(?)と思う人もいるだろうが、
「曜変天目」は、南宋時代の中国・建窯で、
わずかな時期のみに焼かれた「天目茶碗」で、
その時期以降は、全く焼かれることがなかった。
大きな特徴は、見込み(茶碗の内側・茶を入れる部分)に
星のようにも見える大小の斑紋が散らばっており、
斑紋の周囲が暈(かさ)状に、青色や青紫色に発色している。
この暈状の輝きが、見る角度によっては玉虫色に変化し移動する。
「器の中に宇宙が見える」と評されたように、
見ようによっては宇宙空間のようにも見える。
写真などで見る分には、きれいな青い輝きが
器の表面の角度の変化に合わせて、カラフルに変化しており、
日本の茶道の「ワビ・サビ」とは違うかもしれないが、
夢のように美しい模様が、茶碗の中に広がっている。
模様の出方によって、「曜変天目」、「油滴天目」、「灰被天目」、
「禾目天目」、「木葉天目」、「文字天目」、
「鸞天目」などと呼ばれており、この中で最高峰とされるのが、
「曜変天目」であり、現存しているのは世界中に3つだけである。
(実は、4つあるという見方もある。
 無論、今回見つかったものを数にいれているのではなく、
 「曜変天目」たり得るかどうか、微妙な出来のものが
 もう1つあるということである。
 今回は、それを「曜変天目」としてカウントしていない)
この「曜変天目」に関しては、一体どのような技術でもって、
このような色の変化を起こしているのか、よく分かっていないため、
(と、いうより、過去の作例にしても、本当にそれが
 狙って作られたものか、偶然出来たものかすら分かっていない)
現在でも、これの完全な再現はなされていない。

そんな事情もあって、「曜変天目」といえば、
陶芸の世界において最高峰の名品、という扱いをなされており、
焼き物の名品を収めた本や、写真集などでは、
どれでもまず一番最初に取り上げられる逸品となっている。
まあ、絵画の世界での「モナ=リザ」のようなもの、といえば、
その凄さが分かってもらいやすいかもしれない。

それほどの名品が、TVのバラエティ番組の中で見つかったのだから、
大きな騒ぎが起きるのも当然である。
本来であれば、直ちに国の然るべき機関によって詳しい調査を行い、
重要文化財の認定を行なうかどうか、考えなければならない話だ。
陶芸の骨董品の世界が、ニセモノ・贋作のはびこる怪しい世界なのは
多くの人の知る所だろうが、こと「曜変天目」に関しては、
あまりにも「それ」が有名でありすぎるため、
そのニセモノを名乗ることすら、不可能だろう。
他のものはともかく、
「曜変天目」のニセモノを掴まされた、なんていうことになれば、
この世界では希代のバカとして、末代までの笑い者になる。
「曜変天目」とは、それほどのものなのである。

番組では、あくまでも今回の「曜変天目」の発見について、
「番組内だけでの見解」というスタンスを貫いており、
さらに出品者にしても、問題の「曜変天目」を
これ以上の詳しい調査を進めたり、
これを売ったりすることは考えていないようで、
はたして「それ」が、本当に「曜変天目」か否か?ということは、
はっきりさせていく気は無いようである。

問題の茶碗が、本物の「曜変天目」かどうかはおいておくにしても、
是非一度、この目で見てみたいものである。

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