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すき焼き

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子供の頃読んだグルメ漫画に「美味しんぼ」がある。

この漫画、意外に息が長くて未だにビックコミックスピリッツで

不定期に連載している。

久しぶりに読んでみたら、ずっとうまいものを食べ続けてきたせいか

山岡さんも栗田さんもすっかり太っていた。

やはりうまいものばかり食べていると、人間ぶくぶく太るようだ。

さて、子供の頃に読んだ「美味しんぼ」のエピソードで、

すき焼きとしゃぶしゃぶを扱ったものがあった。

確かシャブスキーとかいう、サブタイトルだったはずだ。

冷静に見直してみると、かなりヤバいサブタイトルに思えるが

実際にはしゃぶしゃぶとすき焼きの良いとこ取りの料理に、

2つの料理の名前を合体させただけのものだ。

このエピソードの中で、海原雄山が散々に

すき焼きとしゃぶしゃぶをこき下ろす。

「やはりすき焼きは、肉の味のわからぬものの料理だな」

「これこそ肉を一番まずく食べる方法だろう」

「こんなものは食うに値しない」

強烈な台詞だ。

海原雄山はすき焼きに親でも殺されたのだろうかと疑いたくなる。

山岡さんも

「今にすき焼きとしゃぶしゃぶは、客に見捨てられるのではないかと

 思っていた」

となかなか予言めいたことを言っている。

実際にあれからン十年経っても、すき焼きもしゃぶしゃぶも

なくなったりはしていないので、この予言は外れたようだ。

しかし子供の頃は、自分もすき焼きが嫌いだったこともあり、

おお、海原雄山ってすげー、それと同じな俺すげー、

みたいなことを思っていたが、大人になってすき焼きが食べれるようになると

この2人の言うことに「?」な感想を持つようになった。

そこで今回はすき焼きを取り上げ、歴史的な観点を加えながら

検証していきたい。

山岡さんによると、すき焼きはまだ日本人が肉食文化をものにしていない

頃の料理だ、という。

では日本人はいつから獣肉を食べていたのか?

実は日本人の獣肉食の歴史は長い。

もちろん日本に仏教が入ってくるまでは、普通に肉食をしていたわけだが、

日本に仏教が入ってきて以降も、わりとしっかり獣肉を食べていた。

奈良時代の皇族に長屋王という人がいた。

1988年に発掘された、長屋王の邸宅から出土した木簡には、

長屋王の邸宅に納められた、各種食品の目録があったのだが、

そこには各種獣肉の名前が書かれていた。

奈良時代と言えば、すでに仏教の影響は強かったはずだ。

そんな中でも、皇族が獣肉を食べていたわけだから、

日本人は全く獣肉を食べてこなかった、などという考えは間違いだ。

戦国時代の兵士達は、普通に肉食をしていた記録もあるし、

江戸時代は「ももんじや」と呼ばれる、各種獣肉を扱っている店もあった。

そこで江戸の庶民は「薬喰い」と称して、獣肉を食べていた。

武士階級でも肉食はあったようで、彦根藩では牛肉の味噌漬けを作り、

やはり「薬喰い」ということで、将軍家や各大名家にも送っていた記録がある。

こうしてみると、決して表立っていたわけではないが、

仏教伝来による肉食禁止の風潮に関わらず、それぞれの時代において

しっかりと肉が食べられていたことは明らかだ。

明治時代になり、仏教による肉食禁止がなくなり、

一部の人のものだった肉食が、全国民的なものになる。

その時代に生まれてきたのが、すき焼きという料理法だった。

つまりすき焼きというのは、肉食に慣れていない人たちのための

料理だったといえるだろう。

次はその点についての検証をしてみよう。

ちなみに自分は兵庫県民なので、すき焼きも関西風だ。

食べ慣れている関西風すき焼きを例にとり、検証していくことにする。

まず、初めて牛肉を食べる人にとって、一番の問題となったのは

その肉質の固さだったのではないだろうか?

現代でこそ、牧畜技術の向上により、柔らかい肉質の牛肉を生産できるように

なっているが、明治時代、それも食肉生産技術の未熟だった当時は

肉質はかなり固かったに違いない。

それまでの日本人は魚肉を食べ慣れていたはずだが、その魚肉に比べると

牛肉は明らかに固い。

この固さの問題を解決するための方法こそが、肉の薄切りだったのだ。

物理的な形状を工夫することによって、固さを感じにくくした。

そして牛肉を食べ慣れていない人にとって、最大の難関、臭みだ。

肉質の固さの所でも書いたが、未熟な牧畜技術では肉の臭みも強かっただろう。

それを隠すために鉄鍋で焼いた牛肉に、醤油を直接かけるという方法をとった

のではないだろうか?

醤油は焼けると強い香りを出す。

その香りで肉の臭みを隠そうとしたのだろう。

ただ醤油をかけるだけでは、味付けとしてはとても辛すぎて食べられない。

それを食べられる味にするために、砂糖を直接かけた。

これによって辛みを中和し、味付け自体は濃いが、食べられる味に調整した。

生卵につけて食べるのは、この濃い味を薄めるためと、

生卵によって肉を完全に包み込み、食べる際に感じる臭みを

シャットアウトするためだったのだろう。

本来、肉の臭みを抑えるためには、胡椒などの香辛料を使えば良い。

しかし明治時代初期には、気軽に使える程、胡椒はなかった。

と、いうのも江戸時代初期にはオランダから輸入されていたが、定着はせず

使われなくなってしまったからだ。

肉の臭み消しに有効なことを知った日本人によって、

再び輸入されるようになるのは、もう少し後のことだ。

そうなると何か他のもので臭みを消さないといけない。

が、当時の日本には牛肉に有効な香辛料はなく、結果として醤油で

臭みを消そうとしたのではないだろうか?

こう考えてみると、すき焼きは当時の牛肉を、牛肉初体験の人間に

食べさせるための工夫が、ふんだんに盛り込まれている。

明治時代からの味付けだが、それが100年以上たった今も、

連綿と続いていることを考えれば、すき焼きの味付け自体は、

しっかりと日本人に受け入れられたということだろう。

だが、一部の人間にすき焼きが不人気なのも事実だ。

そういう人の意見を聞くと、大きく2つの意見に別れる。

「醤油と砂糖を使った味付けが濃く、くどい」

「生卵をつけて食べるのが気持ち悪い」

この2つだ。

なるほど臭みの少なくなった現在の牛肉には、あの味付けは濃いだけだろうし

臭みの少ない牛肉を生卵でコーティングして食べても、そもそも押さえるべき

臭みがないのだから、かえって生卵の生臭さが鼻につく。

さらに言えば生卵のあのどろりとした感触は、気持ちいいと感じる人の方が

少ないだろう。

逆に言えばここの所を直せば、すき焼き嫌いな人でも食べやすくなるはずだ。

実は解決法がある。

別に「美味しんぼ」のシャブスキーを作るわけではない。

手間などほとんどかからない。

実に簡単な方法で、この問題は解決できる。

その方法というのはこうだ。

普通にすき焼きを作った上で、そこに人数分の卵を溶いたものをかけ回す。

そしてそのまま鍋を温め続け、卵に火を通す。

そう、柳川鍋のように、すき焼きを卵でとじてしまうのだ。

卵の上にネギでも散らせば、色彩的にも美しい。

すき焼き鍋全体に卵をかけ回すことで、濃い味付けが適度に薄まる。

また卵に火を通すことで、生卵特有の生臭さがなくなり、適度に卵に火が通り

食感も良くなる。

後はそのまま具材を引き上げ、何もつけずに食べる。

もし家族の中にすき焼きが嫌いだ、などという人間がいる場合、お試しあれ。

きっと気に入ってもらえると思う。

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