雑学、雑感、切れ味鋭く、思いのままに。

Falx blog 2

食べ物

バッテラ

投稿日:

寿司の形、と聞いて、どのような形を思い浮かべるだろうか?

にぎり寿司を思い浮かべた人は、卵形を思い浮かべるだろう。

巻き寿司を思い浮かべた人は、円筒形を思い浮かべるだろう。

稲荷寿司の場合も、卵形だ。

ちらし寿司の場合、不定形ということになる。

このように、様々な形状をしている寿司だが、

世の中には「四角い寿司」が存在する。

その代表的なものが、「バッテラ」である。

これは長方体に固められたすし飯の上に、

酢でしめたサバの身が、のった寿司である。

サバの上には、半透明の昆布が一枚、貼付けられている。

一般的なにぎり寿司よりも、ひとまわり小さい。

今回は、この「バッテラ」について書いていく。

子供のころ、法事などの集まりがあると、寿司を買ってきていたのだが、

その中に四角い寿司が入っていた。

アナゴの押し寿司と、バッテラである。

アナゴの方は、すし飯の上にアナゴがのった寿司だったが、

バッテラの方は、すし飯の上にのったサバの、さらに上に、

なんだかよくわからない「半透明のシート」が張り付いていた。

子供のころは、これが一体何であるか、全然わからなかった。

食べていいものなのか、はがして食べるものなのか?

何となく食べ物のようにも見えるし、ビニールのようにも見える。

何も考えず、口の中に放り込んでしまえば、よかったのだが、

なんだかよくわからないものを、口に入れるのには、抵抗があった。

だから「君子、危うきに近寄らず」ということで、

バッテラには手をつけなかった。

バッテラの上に張り付いているのが、昆布であるということを知ったのは、

結構、大人になってからであった。

何のことはない、後になって聞いてみると、

バッテラの上に張り付いているのは、「白板昆布」という昆布であるという。

これは、昆布を削って「とろろ昆布」をとった後に残る、

いわば芯の部分だ。

削りカス、といってしまっては語弊があるが、

とろろ昆布を作った時にできる、副産物であることには違いない。

白板昆布は、別名「バッテラ昆布」と呼ばれるように、

そのほとんど全てがバッテラに使われる。

この白板昆布を、締めサバの身の上にのせることで、乾燥を防ぎ、

酢の酸味を押さえ、昆布の旨味を付け加える。

バッテラにはかかせない、重要な要素である。

バッテラが初めて作られたのは、明治28年である。

その年、コノシロの一種である「ツナシ」が豊漁であった。

獲れすぎて、ただ同然の値段に下がったツナシを、寿司屋が大量に仕入れ、

それを寿司ダネとして使った。

しかし、ツナシは漁獲量の変動が激しい魚であり、

毎年安価に、かつ大量には入手できなかった。

そのため、比較的漁獲量が安定している「サバ」を、ツナシの代わりとした。

これがバッテラ誕生の瞬間であった。

「バッテラ」という名前だが、これはポルトガル語でボートのことを意味する。

当時のバッテラは、サバの腹にすし飯をぎっちりと詰め込み、

それに重しをして作った。

そのため、サバについているヒレが、重しをされることによってピンと伸び、

ボートのオールのように見えた。

サバをそのまま使ったため、形が流線型であり、

ますますボートのように見えたのだろう。

これを見た客の1人が、

「この形、船に似ている、バッテラやな」

ということになり、このサバの押し寿司は「バッテラ」と呼ばれることになった。

……。

そもそもどうして明治時代の大阪人が、ボートのことをバッテラと呼んだのか?

実はその当時、大阪市内の川を走っていたボートのことを、

「バッテラ」と呼んでいたのだ。

つまり、当時の大阪では「バッテラ」という言葉は「ボート」の意味で、

ごく当たり前の単語であった。

やがて時代が下るにつれ、「ボート」の単語が浸透していき、

「バッテラ」は寿司の名前に残るのみとなった。

そんな「バッテラ」であるが、

回転寿しでは、まずお目にかかれない。

大手回転寿しチェーンのメニューの中には、「バッテラ」は入っていない。

ベルトコンベアーのない、普通の寿司屋でも、

バッテラを扱っている所は少ないだろう。

逆に、持ち帰りの寿司店などでは、置いてある所が多い。

関西圏では、スーパーの寿司コーナーでも、「バッテラ」を売っている。

一人暮らしをしていたときは、

よく仕事帰りに買って帰り、晩ご飯にした。

パックに入っているスーパーのバッテラは、

家に持って帰るころには、上の白板昆布がずれたり、剥がれたりしていた。

それを箸先できちんとなおし、口に運ぶ。

にぎり寿司と違って、食べるのに醤油も何もいらない所が、

実に簡便である。

咀嚼すると、口の中に広がるすし飯の味と、酢でしめたサバの酸味。

一日の疲れが癒される、やさしい酸っぱさだった。

Related Articles:

にほんブログ村 その他生活ブログ 雑学・豆知識へ
にほんブログ村

スポンサーリンク
スポンサーリンク

-食べ物

Copyright© Falx blog 2 , 2024 All Rights Reserved Powered by STINGER.