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植物 歴史

ウルシ

更新日:

「かぶれる」という言葉がある。

国語辞典で意味を調べてみると、

1…薬品などの刺激で、肌がかゆくなる
2…感化される

の2つが載っている。
「感化される」と言う方は、アメリカかぶれ、フランスかぶれ、
イギリスかぶれ、中国かぶれなどのように、
特定の国などに感化され、「それ」ぶっていることを指している。
あまりいい言葉ではなく、相手を揶揄する意味を含む。
「肌がかゆくなる」方の意味では、
薬品にかぶれる、金属にかぶれる、化粧品にかぶれるなどがある。
これらにかぶれてしまうと、発疹が出て赤くなり、
肌がブツブツ、ジュクジュクになる。
さらにこれにヒドい「かゆみ」がともなう。
かゆくなった肌をかきむしると、
他の場所にまで発疹が広がっていく。
そうこうしているうちに、初めは小さかった発疹が、
全身を覆うように広がっていってしまう。

だが、この「かゆみ」をともなう「かぶれ」は、
何も薬品や金属のみによって引き起こされるだけではない。
自然界にある様々な植物の中にも、
触ったものに「かぶれ」を起こさせるものがある。
ハゼノキやヤマハゼなどは、
この「かぶれ」を起こす品種であるが、
「かぶれ」といわれて真っ先に思い浮かぶのは、ウルシである。

ウルシは、ムクロジ目ウルシ科ウルシ属に属する落葉樹である。
現在でも、田舎などに行けば、よく目にすることが出来る。
葉は対生で、ちょうど鳥の羽根のように並んでいる。
アジアが原産の植物で、日本、中国、朝鮮などでは
昔から広く栽培されていた。
日本のウルシは、中国から渡来したといわれていたが、
中国より古い時代の漆器が、
縄文時代の遺跡から出土したことや、
自然木と考えられるウルシが、
同じように縄文遺跡から見つかっていることから、
現在では、もともと国内に自生していたと考えられている。
1984年、福井県若狭町の鳥浜貝塚で出土した木片が、
1万2600年前のものであることが分かり、
現在の所、これが世界最古のウルシということになっている。
縄文時代の遺跡から「漆器」が見つかっていることから、
その時代から樹液を加工して、
塗料として使っていたものと思われる。

一般的に、ウルシの利用法といえば、
塗料としての「漆」を思い浮かべる。
これは、樹皮を傷つけて樹液を採取し、これを精製した後、
顔料を加えることによって作られる。
この「漆」は、非常に劣化に強く、
先に書いた通り、
縄文時代に作られたものが残っていることもある。
この縄文時代に作られた「漆」の成分を調べてみると、
新しい「漆」と、ほぼ一致しており、
その「漆」は、現在も光沢を保ち続けている。
1万年近く、土の中に埋もれていても
ほとんど劣化しないというのは驚異的であるが、
実際に生活の中で使われている「漆」は、
そこまで長持ちはしない。
それは「漆」が紫外線に弱いためである。
例えば、日光東照宮のように
建築物の塗装に「漆」が使われている場合、
常時、紫外線にさらされているため劣化は非常に早く進む。
だから日光東照宮では専従の職人を雇っており、
彼らの手によって、常時「漆」の塗り替えが進められている。
当然、屋外の作業ということになるので、
自然の気候条件に左右されることになる。
そのため、作業の進みが遅いのか、
建物全体の漆を塗り替えるのには10年ほどかかり、
10年たった所は、また劣化が進んでいるので、
再び塗り替えるという、ローテーションが出来ているという。

塗料としての利用の他に、木材として使用されることもある。
漆材は耐湿性に優れており、箱に加工されたり、
細工物に使われることも多い。
樹液にウルシオールと呼ばれる成分が含まれており、
これが「漆」に耐湿性をもたせ、
熱、酸、アルカリから防いでくれているのだが、
恐らくは、漆材にもこの成分が若干なりとも残っており、
(木材は乾燥させてあるため、
 効能は低くなっているだろうが……)
優れた耐湿性の元になっているのだろう。
さらに果実からは、木蝋を採ることが出来る。
この木蝋からは、ロウソクを始め、
鬢つけや医療品などが作られた。
(この木蝋の採れる木としては、ハゼノキなどが有名であるが、
 このハゼノキはウルシ科の植物で、
 ウルシとは非常に近しい品種である)
ウルシの若い新芽などは、食べることも出来るとされており、
実際に、タラの芽などと間違えて採取してしまうこともある。
タラの芽のように天ぷらにしたり、みそ汁の具にしたりするが、
食べた後に舌がビリビリした、なんていう話もあるので、
どちらかといえば、食べない方いいだろう。
「漆」職人たちの中には、
ウルシに対する免疫をつけるため、という理由で、
ウルシの若芽を食べる者もあったらしい。
尚、一般的には塗料として使われている樹液だが、
中国では古くから漢方薬の1つとして用いられてきた。
血行促進・胃酸過多・虫下しなどに効果があるとされているが、
はたして口の中や、胃の中がかぶれたりはしないのだろうか?

日本の田舎に住んでいれば、ウルシは非常に身近な植物である。
自分自身はあまりかぶれたこともないのだが、
弟や妹などは、不用意にウルシに触れて
かぶれていることもあった。
このかぶれは、アレルギー性の接触性皮膚炎であり、
先に書いたウルシの主要成分、ウルシオールが引き起こしている。
人によっては、ウルシに直接触れなくても
近くを通るだけでかぶれたりする。
これだけ聞くと、本当に厄介なものに思えるだろうが、
実はこのかぶれには耐性がついてくる。
(だからこそ、漆職人が免疫を作るためという理由で、
 ウルシの若芽を食べたりするのである)
よくウルシにかぶれていた弟や妹たちも、
成長とともにかぶれなくなっていった。

ただ、これはウルシに対して耐性がついたのか、
それとも「かぶれ」に懲りて、
ウルシに近づかなくなっただけなのかはわからないが。

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