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胡麻豆腐

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胡麻は、脇役である。

そう言い切ってしまっていいほどに、胡麻の役割はサイドである。

日本人は、とりあえず胡麻に香ばしさを求める。

各種料理に使う場合、胡麻に求められるのは、香ばしさだ。

各種薬味、胡麻味噌、胡麻和え、胡麻ドレッシング、胡麻だれ。

すべて、その香ばしさを求められている。

胡麻油も、同じことである。

独特の香りのある調味油として、料理に多用されるが、

やはりここでも、胡麻はメインにはならず、サイドである。

そんな胡麻が、メインとなれる料理が「胡麻豆腐」だ。

胡麻は、アフリカが起源であるとされている。

日本では、縄文時代の遺跡から、胡麻が見つかっている。

アフリカからどういう経路をたどって、日本に入ってきたかは明らかではない。

奈良時代には、すでに栽培されており、

穫れた胡麻を絞り、胡麻油の利用も始まっていた。

このころの胡麻油は、食用油としてだけではなく、

灯油として使われることもあった。

平安時代に編纂された「延喜式」では、胡麻を菓子や薬として、

利用していたことが書かれている。

日本人と胡麻の関係は、コメの歴史にも劣らないほど、長いのだ。

胡麻豆腐が作られるようになったのは、鎌倉時代のことだ。

「精進料理」自体は、仏教とともに日本にやってきたが、

これが大きく発達したのは、禅宗が入ってきてからである。

それまでの日本料理は、薄味のものが多く、

食べる前に、各自が調味料で、味を調整するスタイルであった。

現在のイギリス料理に似ている。

精進料理は、しっかりと味付けがなされており、

濃いめに味付けされたその料理は、武士や庶民層にも受け入れられていった。

精進料理の流入は、日本料理においても、

大きなターニングポイントであったといえる。

このとき、持ち込まれた精進料理の中に、胡麻豆腐があった。

仏教の伝来とともに、伝えられたという説もあり、その場合、

胡麻豆腐の歴史は、奈良時代以前にまで遡ることになる。

ひとつ、不思議なことがある。

胡麻豆腐の「豆腐」の部分だ。

実は「豆腐」の回でも書いたが、豆腐の伝来はいつなのか、

はっきりとしていない。

精進料理として、日本に伝わったという説が有力だが、

もしそれが本当なら、豆腐と胡麻豆腐は、同時期に伝えられたことになる。

もし胡麻豆腐が、仏教の伝来と同時に伝えられていたとすれば、

豆腐よりも、胡麻豆腐の方が早く伝えられたことになる。

さらに不思議は続く。

豆腐というのは、「豆乳」を「にがり」で固めた食品だ。

「豆乳」と「にがり」、この両方がないと豆腐を作ることはできない。

ところがこの「にがり」、日本に伝来してきたのは江戸時代初期、

日本黄檗宗の祖、隠元禅師によって伝えられたというのが、定説なのだ。

この説が正しいとすると、当然、豆腐は江戸時代以降のものということになり

胡麻豆腐より数百年も後に、ようやく豆腐が入ってきたことになる。

もし、隠元禅師の「にがり伝来説」が正しかった場合、

それ以前の日本に豆腐はなく、胡麻豆腐のみが存在していたことになる。

なんとも、ちぐはぐな状況だ。

ひょっとしたら、本来、豆腐というのは、

胡麻豆腐のことをさしていた可能性もある。

精進料理の方に、話を戻す。

胡麻豆腐は、その名前の中に「豆腐」という文字が使われているが、

豆腐とは全く関係のない食品である。

ひとかけらの大豆も、使ってない。

胡麻豆腐に使われているのは、胡麻と葛だけである。

白胡麻の皮をむき、洗い、すりつぶし、こした汁に、

水と葛を混ぜ、練りながら温めていく。

これを豆腐状の型に入れて冷ますと、できあがりである。

平たくいえば、胡麻ペーストを葛で固めたものである。

「豆腐」という言葉は、あくまでも形状の相似によって、

つけられているに過ぎない。

奈良県、和歌山県の郷土料理であり、江戸時代には京都でも作られていた。

食べ方としては、そのまま冷や奴にするのが一般的だ。

胡麻が大量の油分を含んでいるので、ややしつこさがある。

そのため、わさび醤油を添えたり、タレをかけたりして、

さっぱりと食べられるよう、工夫する。

精進料理の、さらにいえば禅寺の宿坊の定番メニューだが、

現在では、普通にスーパーで買うことが可能だ。

普通の豆腐とは違い、ほんのりとした甘味と、しっかりとしたコクがあるので、

若い人や子供にも、うける味わいだ。

舌触りも「豆腐」同様になめらかで、豆腐よりは固く、箸でも食べやすい。

胡麻豆腐を、さらに調理するということはない。

そのまま食べるだけである。

メニューを何かひとつ増やしたいというような時には、便利な一品である。

胡麻をそのまま固めているようなものなので、栄養価も高い。

タンパク質、ビタミンE、カルシウム、鉄分などを豊富に含んでいる。

最近、胡麻の栄養素を集めた、健康食品なども売り出されているが、

これはまさに、その元祖といえる食品である。

豆腐は、健康食品として、世界中に知られるようになった。

胡麻豆腐も、健康食品として、豆腐に劣らない実力を持っている。

早晩、これも世界的な健康食品として、注目される時が来るのではないだろうか?

そうでなくても、仮にダイエットに効果あり、などということになると、

日本中のスーパーから、胡麻豆腐が消えてなくなることもありえる。

いつでも食べたい時に、店先に並んでいる。

この先もずっと、そういう商品であってほしいものだ。

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