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キュウリ

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現在、キュウリは不名誉に晒されている。

曰く、そのほとんどが水分で、栄養素が無い。
曰く、食べるとビタミンCが破壊されてしまう。
曰く、世界一カロリーの低い野菜として、
ギネスブックに載っている。

食べなくても良い……、というよりは、
食べてはいけないと、いわんばかりの言われようである。
ちょっと野菜の知識を持っている人の中には、
これらの知識をひけらかしながら、
キュウリを食べることの「ムダ」さを、
力説してくる人もいる。

しかしこれらには、間違った認識も多い。
ほとんどが水分、ということになると、
大方の野菜が「それ」に当てはまる。
キュウリの水分含有量は95%と、かなり高いが、
ナスでも92%、大根で94%、白菜で95%、
トマトで94%と、他の野菜と比べてみても、
特に水分が多いということはない。
カロリーや栄養素が少ないことは事実だが、
むしろ現代ではローカロリーなものは、歓迎される傾向にある。
せっせとカロリーコントロールに励む現代にあって、
カロリーが低いというのは、むしろ賞賛されるべきだろう。
上記した中で、唯一、問題になりそうなのが
「ビタミンC」を破壊する、というものである。
しかし、これも正確ではなく
実際には従来の還元型ビタミンCが、キュウリの酵素作用によって
酸化型ビタミンCに変貌するだけである。
この酸化型ビタミンCは、そのままでは生理作用を見込めないため、
「ビタミンC」が破壊されたと言われるのだが、
実はこの酸化型ビタミンCは、体内で還元型ビタミンCに変わり、
ちゃんと吸収されるのである。
そういうことになると、
キュウリに対するネガティブなイメージは
全て払拭されてしまっていることになる。
(そもそも多少ビタミンCを壊した所で、
 世の中には「レモン○○個分のビタミンC」を謳う食品が
 溢れ返っているのである。
 本当にビタミンCを壊していたとしても、
 まず、影響はないだろう)

キュウリは、ウリ科キュウリ属に属する、つる性の1年草である。
漢字で書くと「胡瓜」となるように、瓜の仲間である。
幕末になるまでは、しっかりと完熟させ、
黄色くなったキュウリを食用にしていたが、
グニャグニャと歯ごたえが悪い上に、甘味も少なく、
あまり人気のある野菜ではなかったようである。
幕末になってようやく、
未熟な青いキュウリが食べられはじめた。
甘味こそないものの、しゃっきりと葉ごたえがよく、
それまでよく食べられていた
マクワウリに比べ、成長も早いことから
キュウリはたちまち人気の野菜へと、のし上がっていった。
その名残で、現在でもキュウリを「黄瓜」と書くこともある。

古くから食用の野菜として栽培され、
大量の水分を含むことから、暑い地方では
「水分補給用」の野菜として珍重されてきた。
原産地はヒマラヤ山麓のシッキム地方といわれており、
紀元前4000年前には、メソポタミアでも
盛んに栽培されていたという。
この他にも原産地近くのインドをはじめ、
ギリシャ、エジプトなどでも栽培されていた。
やはり暑い地方で栽培されていることが多いようだ。
その後、6世紀に中国、9世紀にフランス、
14世紀にイギリス、15世紀末にアメリカ、
16世紀にドイツと、時間をかけて広がっていった。
フランス、ドイツなどは隣接している国同士だが、
キュウリが伝わった時期には大きな開きがある。
これが、フランスとドイツという国家関係のためなのか、
あるいは民族的な嗜好の違いかは分からないが、
隣接国家でありながら、
キュウリの伝来に700年もの誤差があることは、
大いに興味をそそられる事実である。

さて、中国に伝わったキュウリだが、
まず、原産地であるヒマラヤ・インド方面から
ビルマ等の東南アジアを経て伝わった南伝種と、
シルクロードを経て伝わった北伝種の2つに分けられる。
もともとは南伝種が伝えられ、
これはしっかりと黄色く完熟させた後に
漬け物や酢の物に加工されるのが、一般的であった。
日本にはおおよそ1500年前に伝えられ、
平安時代には栽培も行なわれていたようであるが、
幕末まで黄色く完熟させ、食べていたことを考えると、
この南伝種が伝えられたものと考えられる。
長く人気がなかったのは、
日本が比較的、水の豊富な国だったので、
わざわざ「水分補給用」の野菜を栽培する必要が
なかったためであろう。
かなり苦みの強い野菜だったようで、
徳川光圀などは
「毒多くして能無し、植えるべからず、食べるべからず」と、
ムチャクチャにこき下ろしている。
また本草学者の貝原益軒が、
1714年に野菜についてまとめた「菜譜」では、
「これ瓜類の下品なり、味よからず、かつ小毒あり」と、
こき下ろしている。
どちらにも「毒」という単語が使われているのが
面白いが、この「毒」というのは
人が死ぬような「毒」ということではなく、
キュウリに利尿作用や身体を冷やす作用があるため、
胃腸の弱い人が食べると、下痢をするということらしい。
江戸、現代と時代が変わっても、
「身体に良くない」という「噂」を立てられてしまう辺り、
どうも風評被害を受けやすい野菜のようである。
ただ、逆に言えば、そういうネガティブな「噂」を
立てられるわりに、
その「噂」でキュウリが廃れることはないということは、
それこそが何よりも、キュウリの美味しさを証明していると
いえるだろう。

もちろん、かつては我が家でも
婆さんがせっせとキュウリを作っていた。
「美味しんぼ」などでは、
「キュウリは自然な状態では曲がるもの」と、
しつこいほどに曲がったキュウリを推しているが、
婆さんの作るキュウリは、
「弧を描く」なんていう生易しい曲がり方ではなく、
それこそ「渦を巻く」勢いでひん曲がったものばかりで、
軍手無しで触るのが憚られるほど、刺々しいキュウリであった。
現在でも、スーパーで買ったり、
知り合いから貰ったりするなどしてキュウリを食べるが、
最近ではキュウリも軟弱になり、
すっかり刺々しさが無くなってしまった。
(まあ、品種自体が違うのだろうが……)

婆さんもキュウリも、古いものはどんどんと
なくなっていってしまうようである。

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