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飛鳥鍋

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By: yoppy

うちの家系の人間の、本の好き嫌いは極端で、
本を積極的に読む人間と、ほとんど読まない人間に大別できる。

自分や母親、婆さんなどは
狂ったように本を読むタイプなのに対し、
父親や妹、弟などはほとんど本を読まない。
したがって、うちにある蔵書のほぼ8割ほどは、
母親と婆さんのものであり、
(自分は図書館中心なので、それほど蔵書量はない)
小説、実用書、入り混じった多様な本が、
我が家には存在している。

その実用書の中に、料理本がある。
うちの母親が結婚した当初は、
当然、インターネットなどは存在しておらず、
料理のレシピや情報を得ようとすれば、
TVの料理番組を見るか、新聞や雑誌の料理コーナーを見るか、
あるいは料理本を購入して来るしかなかったのである。
うちの母親の場合、料理に関する情報は、
新聞や雑誌の切り抜き、そして料理本と、
主に紙媒体から得ていたようだ。
本好きの面目躍如という所か。
その料理本なのだが、改めて見てみると
様々なものがある。
パッと目についたのは
「1人前予算30円〜85円でできる 365日毎日のおかず」
というタイトルである。
現在でも「100円でできる〜」などと謳った料理本があるが、
30円という辺りは、さすがに時代を感じさせる。
本の裏、発行された年月日を確認してみると、
昭和43年と印刷してあるので、
どうやら母親が結婚する前に、購入した本のようだ。

そんな料理本の中に、鍋料理の本があった。
すき焼きやおでん、しゃぶしゃぶや寄せ鍋という
現在でもお馴染みの各種鍋料理に加え、
鯉こく鍋、鯨鍋、どじょう鍋といった、
最近の料理本では見かけないような、鍋料理も載っている。
かと思えば、ブイヤベースや火鍋、
ジンギスカンやチーズフォンデュなども載っている。
チーズフォンデュのページを見てみると、
材料の中にグリエールチーズ400gと、
エメンタールチーズ400gとある。
現在でも、手に入れにくそうなこれらのチーズを
一体どこで買ってこさせるつもりなのか?
さらに材料の中に、白ぶどう酒2カップとある。
若い人なら、なんのこっちゃ?と首をひねるかも知れないが、
何のことはない、これは白ワインのことである。
ワインという言葉よりも、ぶどう酒という言葉の方が
通りのよかった時代だったのである。

この本の鍋料理の中に、「飛鳥鍋」というのがあった。
写真では乳白色のスープの中に、焼いた鶏肉、ブロッコリー、
キャベツのざく切りが浮いている。
ホーロー製の鍋に入っているので、
まるで西洋料理のように見える
だが「飛鳥鍋」という、いかにも和風なネーミングである。
良く読んでみると、
奈良県飛鳥地方(現・明日香地方)の郷土料理で、
和風料理にも関わらず、牛乳を使った鍋だという。
俄然、興味をひかれた自分は
すぐに「飛鳥鍋」について調べてみた。

「飛鳥鍋」というのは、奈良地方の郷土料理で、
鶏ガラのダシに牛乳を加え、
まろやかさとコクを加えるものだという。
発祥については諸説あったが、
飛鳥時代に、唐から来た僧侶が寒さをしのぐために、
山羊の乳を使い鍋料理を作ったのが最初だという説、
1300年前、唐の使臣が今日の練乳によく似た食品を
飛鳥の都に伝え、僧侶たちがこれで
鶏肉を煮ることを始めたという説、などである。
現在から1300年前といえば、
ちょうど飛鳥時代と奈良時代の切り替わりのころである。
いずれにしても、奈良に日本の都が存在していた時代なので、
「飛鳥鍋」の発祥が奈良であることだけは間違いがない。
両方の説では、僧侶が考案したことになっており、
鶏肉を使っていることも共通している。
違っているのは、かたや山羊の乳を使い、
かたや練乳(?)を使っている所である。
だが、調べてみた所、山羊は15世紀に
東南アジアから持ち込まれた、ということになっている。
こちらの情報を信じるのであれば、
飛鳥時代に日本で山羊の乳など手に入る筈がない。
そうなるとこれは、練乳説の方が
はるかに信憑性が高いということになる。

恐らく、山羊の乳を使って作ったという説が生まれたのは、
明治時代に山羊が全国で家畜として飼育されるようになり、
一時的に、山羊の乳が牛乳よりも
手に入れやすい状況だったからだろう。
そのため、「飛鳥鍋」にも牛乳ではなく、
身近な山羊の乳を使うようになり、
そちらの方が正しい、と思い込んでしまったのではないか。
後に牛乳が普及し、山羊の乳が手に入りにくくなったとき、
次第に山羊の乳を使った「飛鳥鍋」は忘れられていったが、
山羊の乳の「飛鳥鍋」をずっと食べていた人にとっては、
山羊の乳の「飛鳥鍋」こそが、「本物」だったに違いない。

インターネットを使って調べた限りでは、
現在、作られている「飛鳥鍋」は、
牛乳と鶏肉を使っている以外は、
各家庭ごとに流儀があるようだ。
味付けに味噌を加える家庭。
すき焼きのように、溶き卵につけて食べる家庭。
店で販売している所では、大方の所で、
鶏肉の他には、ニンジン、ゴボウ、ネギ、大根、もやし、
シイタケ、白菜、水菜、豆腐、糸こんにゃくと、
普通の和風鍋の食材が使われている。
これから考えると、
料理本に載っていた、ブロッコリーやキャベツを使った
「飛鳥鍋」は、かなり先進的なものだったと考えられる。

現在では、様々な「飛鳥鍋」のレシピが、
ネット上などで公開されている。
具材にせよ、調理器具にせよ、普通の一般家庭にあるもので、
手軽に作ることの出来る「飛鳥鍋」。
ただ、ある程度知識があるか、
新しいもの・変わったもの好きな人でなければ、
牛乳を入れる「飛鳥鍋」に、拒否反応を示す人もいるだろう。

そういった人に、無理なく食べてもらうには、
正統的な和風の「飛鳥鍋」よりも、
ブロッコリーやキャベツを使った「飛鳥鍋」の方が、
洋食っぽいだけに、抵抗が少ないかも知れない。

そういうことまで考えた上で、
ブロッコリーやキャベツを使った「飛鳥鍋」を
載せていたのだとすれば、
これはナイスな判断だったと、評価せざるを得ない。

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