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空豆

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「いかり豆」というものがある。

莢から取り出した空豆を、油で揚げたもので、
スーパーやコンビニのおつまみコーナーを見てみれば、
大体どこの店でも扱っている筈だ。
親指の先ほどの大きさの豆が、カリカリにフライされており、
茶色い皮がついている。
もちろん、この皮もカリカリになっている。
世の中には、この「いかり豆」の皮の部分を
取り除いてから食べる人もいるが、
もちろん、この皮の部分を食べても、何も問題はない。
(少々歯の間に挟まりやすいという、難点はあるが……)
万事「塩分控えめ」的な風潮のある昨今では、
この「いかり豆」の塩分も
控えめになっている商品が多いが、
ビールなどのおつまみとして食べる場合、
やはり、しっかりと塩味が効いている方が良いようだ。

若いころはそんなこともなかったのだが、
ある時期から、この「いかり豆」を好んで食べるようになった。
油でカリカリに揚げられた、粒の大きい空豆は、
一度手を付けると、どうにも止まらなくなる。
奥歯でガリッと噛み砕くと、
口の中にフライされた空豆のコクと塩味が広がり、
思わずニンマリと笑ってしまう。
そのままひとつ、またひとつと、
口の中に放り込まざるを得なくなる。
一度、気がすむまで食べてみたいと思い、
お徳用の大入りの袋を買って食べてみたが、
そこはやはり油で揚げた豆である。
ひどい胸焼けを起こして、苦しんだ記憶がある。
以降は毎回、適量の入った商品を買うようにしている。

この「いかり豆」の原料になっている「空豆」、
これはマメ科ソラマメ属に属する1年草である。
ただ、空豆は秋に種を蒔き、
年を越してからこれを収穫するので、
越年草と呼ばれることもある。
ちょうど、水田でコメを作っていない時期に
栽培できることから、
コメの裏作として作られることもある。
コメの刈り取りの終わった秋に種を蒔き、
3~4月にかけて花期を迎える。
花は直径3センチほどの大きさで、
薄い紫の花弁に、黒い斑紋のある、白い花である。
5月ごろには収穫期を迎えるが、
種を取る場合には、そのまま莢の中で種子(豆)を完熟させ、
種子が褐色になってから収穫する。
もっとも、この状態のものも食べることができ、
煮豆やお多福豆、甘納豆に加工する場合は、
こちらの状態の空豆を使う。

地中海地方、西南アジアが原産地と考えられており、
チグリス・ユーフラテス川流域から
エジプトにかけての地域では、
4000年以上前から、食用として栽培されていた。
日本には中国を経て、8世紀ごろに持ち込まれた。
一説によれば、インド僧・菩提仙那が来日し、
行基に送ったものが始まりであるともいう。
このとき、行基は兵庫県の武庫村で、
これを試作したといわれる。
いずれにしても、コメの裏作として栽培できることから、
それなりに栽培されていたのではないかと考えられる。

「空豆」は別名、「天豆(てんまめ)」、「夏豆」、
「四月豆」、「野良豆(のらまめ)」などとも呼ばれる。
「夏豆」「四月豆」に関しては収穫の時期から、
「空豆」「天豆」に関しては、莢が空に向いて伸びることから、
その名前が付けられた。
また蚕を飼う夏の時期に収穫があることや、
莢の形が蚕に似ていることから「蚕豆」と書かれることもある。
もっとも、養蚕の風習が無くなってしまった現在では、
「蚕豆」と書かれても、何のことだか
さっぱり分からないだろうとは思うが。

先にも書いた通り、「空豆」を収穫する際には、
5月ごろ、まだ種子が未熟なうちに収穫する場合と、
種子が完熟し、褐色になってから収穫する場合がある。
未熟なうちに収穫された場合は、
主に青果として出荷され、
完熟後に収穫されたものは、穀物として出荷される。
大豆の若いものが、
「枝豆」として流通しているのと同じである。
食べ方にしてみても、枝豆と同じように塩ゆでにするか、
あるいは莢ごと焼いた後、
中の豆を取り出して食べることもある。
この未熟な豆を油で揚げて塩を振ったものが、
冒頭に書いた「いかり豆」である。
司馬遼太郎の小説「坂の上の雲」で、
主人公・秋山真之が上着のポケットに炒った空豆を入れておいて、
これを頻繁に食べている描写があるが、
恐らくこれは、この「いかり豆」に
近いものだったのではないだろうか。
また、単独行で有名な登山家・加藤文太郎も、
登山中は上着のポケットの中に「甘納豆」を入れておき、
これを頻繁に食べて栄養補給をしていたという。
これは現在でいう所の「行動食」だろう。
彼の食べていた甘納豆が「空豆」で作られたものだったかは
明らかではないが、
日本海海戦を勝利に導いた秋山真之の頭脳と、
様々な登山記録を打ち立てた加藤文太郎の肉体を支えていたのが、
ポケットの中の「豆」であったというのは、
なんとも面白いものである。
もちろんこれ以外にも、煮物や炒め物、スープなど
幅広く使われる他、豆板醤など調味料の材料としても用いられる。

最近は、うちの近辺でも「空豆」を栽培している農家が増え、
自転車で市内を走っていると、
あちこちの畑で「空豆」が植えられているのを目にする。
5月に入ってからは、しっかりと莢もできて、
中に入っている豆が良く成長しているのが、
外見からでも伺える。

大きな「空豆」を塩ゆでにし、
良く冷えたビールと合わせれば、
5月という初夏の季節にはピッタリである。
たまには「いかり豆」でなく、
生の「空豆」を買って来て、
新鮮な風味を味わってみるのも、悪くなさそうだ。

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